ちょっと何言ってるか分からないなんて言わないでください。
とても気になるお店です。
1.離島という言葉のもつもの
離島という言葉がいい。島ではなく「離島」。
遠く離れていて、何かありそうな隔絶された世界と少しの寂寥感。
そこにキッチンという都市の言葉。ひっかかります。
何年も前にタモリ倶楽部で見たこのお店が記憶に残り
「いつか行きたい」と思っていました。
神楽坂の赤城神社に近くの裏道。
島の食堂の雰囲気がたっぷりのお店です。
このお店は島根県の隠岐諸島のひとつ、
中ノ島の海士町(あまちょう)観光協会が運営。
にもかかわらず全国の離島の食材を使った料理や
それぞれの島の特産品の販売も行っています。
※他に日本橋店、福岡店、札幌店(利尻のNPO法人運営)、海士町店((株)桜風舎運営)もあります。
2.全国離島の美味満載のメニュー
大分県保戸島産のぶりのランチを食べながら、
夜のメニューをざっとひろってみると。
あて(前菜)なら屋久島の鯖スモーク、サラダは篠島の揚げシラス。
メインなら隠岐島のひおうぎ貝のお造り、同イカゲソのゴロ焼き、
倉橋島のカキフライ。〆のごはんは福江島の鯛茶漬け…か。
飲み物は淡路島のあわぢびーるをピルスナーでまず一杯。
あとは青ヶ島(芋)青酎に石垣島(泡盛)直火請福ですね。
「わッ、しみるぅ」…と妄想の世界に入ってしまいました。
![離島キッチン](https://concept-restaurant-marketing.com/wp-content/uploads/2019/01/f05130b26ddfe9d7b8e23ce98837e3e2-1024x203.jpg)
3.全国の離島のために
提供する料理や名産品など、ざっと数えてみても約30の島・諸島の名前。
各地の離島のみなさんは喜んでいると思います。
しかし、なぜなのか。
なぜ隠岐諸島の中ノ島の海士町が自分の島のためだけでなく、
全国各地の離島ビジネスにも手をさしのべる仕組みなのか。
提供する料理の食材はわざわざ他の都道府県の離島から仕入れ、
他の離島の名前をつけたメニューで提供するわけですから
奇特ということでは良く分からないところです。
Webサイトには
「そうすることで、全国の島どうしが手をつなぎ、都道府県の垣根を越えたつながりを全国の島の方々やお客さまと共有できるのでは、と夢見ています。」
と書かれています。
![離島キッチンで全国の離島の料理](https://concept-restaurant-marketing.com/wp-content/uploads/2019/01/39335af2d6f5c13d7b5396de9b1afd2b-1024x161.jpg)
4.問題は離島の人口減少
離島の人口は減少しています。
海士町の人口と海士町がある島根県の人口推移を見てみると
海士町の人口ピークは1950年頃。グラフではずっと急激な下り坂です。
島根県の人口がゆるやかに減少し始めるのは1985年以降。
北海道利尻島の利尻富士町と北海道の人口推移もほぼ同様の傾向です。
離島の人口減少は本土よりも早く、
しかも急速に進んでいるということです。
![離島の急速な人口減少](https://concept-restaurant-marketing.com/wp-content/uploads/2019/01/e6a28a0b8502f6b3b934b0399a984f7f-1024x169.jpg)
人口減少はこれからの日本が直面することですが、
経済活動は大きく減衰します。
このため政府は少子化対策やほぼ移民に近い
外国人労働者受け入れ策に力を入れています。
元アナリストで現在国宝の修復などを手掛ける
小西美術工藝社の社長デービッド・アトキンソンさん。
(以前のブログでレポートしました)
アトキンソンさんの「新・観光立国論」では、
観光客は短期的な移民であると考えられ、
これにより成長が可能であると言っています。
人口減少が激しい離島でも観光事業によって消費の増加、
若い人たちの働く場所の確保、
それによる実質的な人口増加が可能になると思います。
実際に離島キッチンの店内には各離島の名産品以外に
観光案内のパンフレットやチラシがたくさん置かれています。
隠岐諸島はこの本の指摘にある観光の4条件
(気候・自然・文化・食事)も十二分にあります。
このお店の最終的な目標も観光客誘致ではないかと思います。
![新・観光立国論](https://concept-restaurant-marketing.com/wp-content/uploads/2019/01/f708cb4c945f84d8f439e3918c6775f0-1024x181.jpg)
5.三方よしの経営モデル
確かに隠岐諸島は伝統・歴史、自然、豊かな海と山の産物など
観光の条件は揃っています。
しかし、東京といえどもそれだけで継続的に
このお店にお客さまを集め続けることは至難の業。
デパ地下では各地の物産展が毎日のように開催されています。
ひとつの島のコンテンツだけでは、
いつも来店してもらうわけにはいかないでしょう。
そう考えると隠岐諸島・中ノ島への焦点は少しぼけてしまいますが、
競合でもある全国の離島の料理や名産品を集めることで
自店の魅力を強化するのは良い戦略です。
しかも、他の地域の離島にとっても助かることです。
近江商人の格言「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしです。
今風に言い換えるならマイケル・ポーターが提唱する
CSV(Creating Shared Value)経営。
社会的な課題を解決すると同時に本業で収益をあげる経営ということです。
6.ニッチ飲食店のひとり集積効果モデル
筆者流にもう少しひねって考えてみます。
以前、高田馬場駅周辺のミャンマー料理店と
健康飲食店5店が集合する日比谷シャンテを紹介しました。
AKB48的な集客方法です。
ニッチなお店でも競合するお店が集まると
集客力が高まるという集積効果です。
これを離島キッチン1店舗が行っているものと考えられます。
<ニッチ飲食店のひとり集積効果モデル>と命名してみました。
「ちょっと何言ってるか分からない」かもしれません(笑)。
さらにもうひとひねりのアイデア。
近所に「日本百名山キッチン」や「日本百名水コーヒー店」などが
できるとさらに集積効果が高まりそうですね。
でもここまでくると空想の世界でしょうか。
![](https://concept-restaurant-marketing.com/wp-content/uploads/2019/01/cf1f2c3e3dab7439be092cfc818e0480-1024x169.jpg)
参考図書
「CSV経営戦略」名和高司著(東洋経済新報社刊)
「新・観光立国論」デービッド・アトキンソン著(東洋経済新報社刊)