こんなニッチな飲食店があってもいいじゃないかというお話です。食品の新商品は毎日登場しています。しかし世の中に広まるものは少なく、消えてしまうものも多くあります。新商品でつくるメニューを専門に提供するレストランビジネスはどうでしょうか。成功のカギはマーケティング・スタッフです。

●食品メーカーからの新商品。自分で上手につくれるのか

 新商品が出た!四川豆板醤味のポテトチップス。これならなんとなく味がわかりそうです。
   
 しかしどうやって食べるのかよくわからないものもあります。たとえば大豆タンパクですね。パッケージやホームページには使い方やレシピがのっています。でも「そこまでして食べたいのか」で止まってしまいます。
    
 コロナ禍で減ってしまいましたが、スーパーで試食販売員さんが「食べてみてください」なんて声をかけてくれます。でも「食べたら買うことになる」とみなさん思っているはずです。十分味がわかるまで何度もたくさん食べてから「やっぱり、いらんわ」と言う勇気はありません。
   
 「エイッ!買ってみるか」と決心しても初めての商品です。上手にできなくて「マズイ!」と思ってしまったら残念。もはや復活購入はありません。
   
 毎日のように出てくる新商品。できるだけ失敗のないように食べたいものです。

●時間がかかる新しい食品の普及。200年は待てない

 食べ物に関してヒトは保守的です。新しいものに危険がないのかを疑います。「食物新奇性恐怖」です。山で見つけた真っ赤なキノコ。「きれいな色」と思っても食べません。
    
 反対に「食物新奇性愛好」という言葉もあります。「なんだこれ?食べられるのか?」です。海の底にいるちょっとグロテスクなナマコ。これを最初に食べた人、ほめてあげたいですね。やがて「ナマコのコノワタ(腸の塩辛)でちょいと一杯」ということにもなったわけですから。
    
 新しい食べ物が定着するまでには時間がかかります。トマトはなんと200年以上かかっています。
 16世紀にスペイン人が中南米からトマトをヨーロッパに持ち帰りました。最初は観賞用でした。毒があるとも言われました。
    
 食用になったのは18世紀のイタリア。食料不足があったからです。いまやピザやパスタにトマトソースは欠かせなくなりました。
   
 さらに19世紀になると、アメリカの偉大な発明「トマトケチャップ」が誕生。トマトは世界で認められました。
   
 新しい食品の定着には手間と時間がかかります。現代のビジネスでは200年なんて待てません。

●専門レストランのシェフの味で普及させる

 新しい食品はレストランのメニューとして消費者に食べてもらうべきです。
   
 しかし食品メーカーがひとつの新商品のためにレストランをつくっていてはキリがありません。実際に自社の商品のためにレストランを運営する企業はほんのひと握りです。しかも食品メーカーにとってレストラン経営は本業ではありません。
   
 レストランに委託するのが手っ取り早いのではないでしょうか。しかもそれを専門とするレストランがあればもっとやりやすいはずです。
   
 食品メーカーの新商品をメニューとして専門に提供するレストランです。プロの料理人がつくった料理のおいしさは、YouTubeを見ながらつくったシロウトの料理とは大きく違うはずです。またレストランでお客さまの評価を直接確かめられ、さらに商品改善のプランもできます。

食品メーカーが経営する飲食店
●専任のマーケティング・スタッフのいる「新商品お試しレストラン」

 ということで実際の方法論を検討してみましょう。
   
 受託専門のレストランであれば、食品メーカーはレストランを経営するリスクはありません。人気メニューをつくりだせれば家庭に普及し、商品の売上がアップします。レストランとしては新メニューを提供することで人気店になれます。新メニューの提供は飲食店繁盛の決定打です。
    
(1)お試しメニュー販売の費用をどうするか
 食品メーカーは新商品の食材を提供します。次にメニュー提供の基本料金が必要ですね。お客さまに提供するための食材・人件費・光熱水費などの諸経費です。提供するメニューの開発が必要ならまた別の費用です。
    
 レストランはメニューが人気で「売れちゃって、売れちゃって」という場合に食品メーカーへの収益の還元が必要かもしれません。
   
 お客さまに食べてもらいたいわけですから、PRや販売促進が必要になります。この費用も検討する必要がありますね。
   
(2)お試しメニューの販売方法
 ランチやディナーのメニューとしてたとえば3メニューを提供することにします。残りはレストランの独自メニューということになりますね。あるいは他の食品メーカーの依頼も同時に進行することも考えられます。ちょっと気をつかわないといけません。
   
 「新商品お試しレストラン」を全面的に借り上げ、前菜、メイン、デザートまで提供するようなケースもあるかもしれません。
   
 提供する期間の設定も必要ですね。3か月、6か月、1年…。一定の成果や情報が得られる期間設定が必要でしょう。
   
(3)専任マーケティング・スタッフによる情報と知見
 販売情報はPOSなどでわかります。しかし、それだけだと家庭にまで普及しそうなのか、なにか改善することがあるのかなどがわかりません。お客さまの生の情報や観察などからの知見が欲しいところです。
   
 これらの情報を吸い上げるためにはマーケティング知識のある専任スタッフが必要になります。マーケティングの理解があれば商品の価値や顧客層の見極めなどができます。マーケティング・スタッフは「新商品お試しレストラン」のもっとも重要な存在になるはずです。

●「新商品お試しレストラン」で普及させるべき意義ある食品

(1)大豆タンパク。代替タンパク質による早急な地球温暖化への対処
 注目はなんといっても大豆タンパクです。大豆ミートなどともいわれます。
   
 迫りくる地球温暖化の危機。もはやゆっくりの解決はできません。温室効果ガスの大きな排出源のひとつは畜産業です。特にメタンガスを含む牛のゲップは温室効果をさらに高めています。
   
 つまり食肉の生産は限界ということです。食肉から大豆タンパクなどに変える必要があります。「これは、おいしい!」と言ってもらうメニューをたくさん開発して家庭や社会に普及させる必要があります。難しい課題ですが「新商品お試しレストラン」ならできそうです。
  
 この先には養殖コオロギの昆虫食、培養肉、藻類(ユーグレナやミドリムシ)などの代替タンパク質の利用が見込まれます。有望なビジネスだと思います。

(2)オートミール。食物繊維による国民の健康づくり
 オートミールが売れています。「コロナ前の19年同時期と比べると13倍以上も売れた」という記事が朝日新聞にありました(2022年6月29日)。
   
 食物繊維が豊富で健康的であること。牛乳をかけるだけなど調理がカンタン。米に見立てて食べる「米化」などによって人気が広がっているようです。
   
 問題はそのままでは、あまりおいしくないことです。私もよく食べていますが、たきたての白いごはんにはとうていかないません。
 パッケージにはおすすめ調理法が書かれています。オートミールのレシピブックもあります。しかし食事としてこれ以上に広げるためには、さらに多くの「これは、おいしい」というレシピが必要です。レストランのシェフがつくったメニューが指標になるはずです。
    
 日本の国民医療費は増加の一途です。厚生労働省はアタマをかかえています。過食などによる生活習慣病が大きな要因です。食事による健康づくりは個人と社会の大きなテーマです。オートミールの利用は役立つものと思います。

(3)ヨーグルト。乳酸菌で腸活。免疫力をアップ
 次はヨーグルトです。前にもブログで取り上げました。2010年ごろに発酵食として注目され急速に消費が増えました。発酵食、乳酸菌食品であるヨーグルトは腸内環境を整え免疫力を高めるからです。
   
 家計調査では2010年ごろから2016年までに約1.5倍増加しました。しかし2017年以降、コロナ禍で免疫力が注目された2020年を除くと支出金額は伸びなやんでいます。
   
 ヨーグルトだけ、そのままもりもり食べるというのは限界があります。これまで以上に食べるなら、大量に使うヨーグルト料理などを広めるべきです。
   
 ヨーグルト料理の普及にはレシピ開発。しかしレシピを考えてホームページに載せただけでは広がりません。「新商品お試しレストラン」のメニューで提供すべきです。
    
 免疫力を高めることはコロナだけでなくさまざまな病気の予防につながります。ヨーグルト料理の乳酸菌による免疫力アップは個人の健康だけでなく社会的にも意義があります。

ヨーグルトの一世帯当たりの支出金額の推移。

 ということで、レストランにもマーケティング・スタッフが必要です。マーケティングの技術でレストランの運営にも効果があるはずです。マーケティング・スタッフは外部にもたくさんいます。特に女性マーケッターで優秀な方がたくさんいます。ぜひ活用を考えてください。
 「は、私ですか?」。マーケティングはできるんですが、愛想がよくない。それと、おいしそうな料理をみるとすぐに、つまんじゃうクセがあって…。

<参考文献>
クラリッサ・ハイマン/道本美穂訳『トマトの歴史』原書房 2019