1.結論。新カテゴリー「健康飲食店」が小さなお店の未来の活路 

驚きました、って新ゴジラのことじゃありません。
2018年の春にリニューアルオープンした日比谷シャンテ。
その地下2階に野菜、オーガニック、五穀、マクロビなどの
健康関連の飲食店が5店、集中的に出店しています。

食品分野では健康食品などが相変わらず人気です。
しかし、健康をコンセプトにした飲食店というのは
「まだ」だと思っていましたが、この日比谷シャンテを見て、
ついに大きなうねりがやって来たと思いました。

「健康飲食店」。ここでは「健康志向の食品」と対応する意味で、
あえて新カテゴリーとして命名してみます。
このカテゴリーこそ今後の小規模飲食店の大きな
ビジネス機会になると思います。

ただし「健康」の看板だけを出してもうまくいかないと思います。
お客さまとのコミュニケーションや
科学的なサポートをすることが重要になると思います。
このことをさらに進めると結果的には外食産業の
概念を広げる必要が出て来ると思っています。

シン・ゴジラ

2.健康になりたいという病気にかかっている

健康志向の高まりについてはあえて言及する必要はないと思います。
テレビでも健康特集の番組が多くなってきていると思います。
「それ知ってる」、「えっ、それって前は食べちゃいけなかったね」
などと見る側の知識も高まっています。

健康に関連する食品については、
厚労省のHPに下記のような図があり、わかりやすくなっています。
いわゆる「健康食品」と国が定める基準を満たした
3つのカテゴリーの「保険機能食品」があります。

サントリーの「伊右衛門 特茶」のような特定保健用食品、
ヤクルトの「タフマン」のような栄養機能食品、
ファンケルの「えんきん」のような機能性表示食品の3タイプです。
(厚労省HP参考:健康食品と保険機能食品の位置づけ)

健康食品区分、厚労省

ドラッグストアや通販で錠剤の形状で販売されている
「健康食品」については、健康を増進させる「食品」であり
法律上の定義はありません。
ダイエット、生活習慣病予防、骨・関節サポートなど
テレビや新聞の広告にあるように多くの商品があります。
市場規模は約9,000億円(2017年予測)、
今後も市場として成長が予想されています。

保険機能食品の市場規模は約6,400億円(2017年予測)。
中でも2015年にスタートした機能性表示食品が伸びています。
2015年の販売高約300億円から
2017年には4倍以上の約1,300億円に成長しています。

日本人は「健康になりたいという病気」に
かかっているのかもしれませんね。

健康関連食品の市場規模

3.日常の食品の約10%は健康志向の食品 

肉や野菜などの生鮮食品を除いた飲料、菓子、調味料などの
加工食品の市場規模は約22兆円(2017年予測)です。
前述した健康食品と保険機能食品の市場合計は約1.5兆円。
詳しい説明は省略しますが、
栄養バランス食品、乳酸菌入りなど健康を志向する食品も
含めると市場規模は2兆円を超えます。

やや強引な計算で正確性に欠けますが、
日常の食品の約10%は健康に関連する食品が
消費されていると言っていいのではないでしょうか。

4.外食産業の健康対応の遅れ

一方、外食産業全体の市場規模は約25兆円(2017年)です。
さて、この巨大な市場のなかで健康関連の売上高は
どのくらいあるのでしょうか。

外食産業のカテゴリーには「病院給食」(約8,000億円)がありますが
飲食店として考えられるものではありません。
カテゴリーとして存在しない「健康飲食店」に関する
統計データもありません。
肌感覚ですが、約22兆円の加工食品市場と比較すると
かなり少ないと思います。
日常の食品の約10%が健康関連ならば、
外食産業の飲食店でも10店に1店ぐらいは
「健康飲食店」になってもおかしくないはずです。

加工食品市場規模と外食市場規模

5.小規模店飲食店が健康飲食に対応

低価格やおいしさで満腹を目指す大手外食チェーン店では
「健康飲食店」という新カテゴリーの対応は難しいと思います。
健康関連の飲食に関しては多くのトレンドがあり、
また今後さらに細分化が進むと思うからです。

トレンドについては思いつくだけ挙げてみても
以下のようなものがあります。
(1)1日野菜350gの摂取を目標にする食事、
(2)低糖質(ロカボ)の食事、(3)ダイエットのための食事、
(4)アレルギー対応の食事、(5)オーガニックやマクロビの食事、
(6)ベジタリアンのための食事
(7)アスリートのための食事などがあります。

まだ他にもたくさんあると思いますが、
最も切実で大きな課題は(8)糖尿病、高脂血症、高血圧症などの
生活習慣病の予防医療の観点からの食事だと思います。

病気の種類や体調など個人の状況にあわせる必要があります。
その結果、対応すべきことは
細かく分化されて行くことになると思います。
同じメニューでまとめてコストを抑える必要のある
大手外食チェーンでは難しいはずです。
小規模飲食店のニッチビジネスとしてのチャンスがあると思います。

6.「健康飲食店」の例

まだカテゴリー化されていませんが、
「健康飲食店」の具体的な例について考えてみます。

(1)メニューの野菜化

すでにいろいろなお店のメニューが野菜化しています。
リンガーハットでは野菜480gのちゃんぽんが人気です。
いっしょに添えられるドレッシングは親切。
野菜のボリュームがかなりあるからです。
リンガーハットだけではなく、
野菜カレー、単品野菜の専門店も出てきています。
サラダの専門店も増えているようです。

しかし、問題もあります。
機能性表示食品が急成長していることを考えると
「野菜はなんとなく健康的」では、これから先の厳しい
お客さまの要求に応えられないのではないかと思います。

お客さまの要求は「なんとなく」から、
RTB(Reason To Believe=信頼できる理由や裏付け)のある
健康的なメニューに移行しつつあると思います。
「野菜で健康」というふわりとしたメッセージでは
お客さまは満足しなくなると思います。

野菜メニューの飲食店

(2)店舗の集合化

あらためて日比谷シャンテの5店舗集中についてです。
店舗開発をする側が意図しないかぎり、
それぞれが単体で出店することはなかったと思います。
近くには東京宝塚劇場もある日比谷シャンテです。
若い人から中高年まで女性のお客さまの多い場所であり、
健康的な食事には当然気遣うはずです。
ターゲットを考えると、この店舗開発は先進的で
素晴らしい発想だったと思います。

秋元康さんのAKB48の戦略にも似ています。
ひとつのテーマを中心に少しずつ個性のあるお店を集めると
それぞれが好きな人が集まり大きな市場になるということです。

以前ブログでドミナント型出店で成功した
高田馬場のミャンマー料理店について書きました。
これも同じ戦略だと思います。
ニッチな市場でも類似する店舗が集合すると
大きな力を発揮するということです。

日比谷シャンテの健康飲食店

(3)お客さまとの関係性の強化

日比谷シャンテからそう遠くない大手町国際ビルの地下に、
話題の「タニタ食堂」があります。
タニタの社員食堂がカロリーなど社員の健康に配慮した
メニューを提供することで評判となり、社外にも出たお店です。
大人気です。

メニューも人気ですが、
ポイントは管理栄養士がお客さまに行う健康サポートです。
お店の入り口に小さなブースがあり、そこに管理栄養士さんがいます。
希望すれば1台200万円!もする
超豪華最高級の体脂肪計で計測してもらえます。
その結果をもとに管理栄養士さんが
計測データの説明と生活の助言をしてくれます。

タニタ食堂

この原稿を書くにあたって打ち合わせをしていた時に、
同僚から「それはマッサージや最近流行のリラクゼーション業界の
あり方と類似していないか」という指摘を受けました。確かに。

資格が必要なマッサージ業(療術業)は
総務省の統計を見ても継続的に成長しています。
資格のいらない足つぼマッサージやクイックマッサージなどは
正確な統計がありませんが、
街なかの店舗を見ても増加しているように思えます。
中核的なサービスだけでなく、生活のアドバイスなどを
行うことで売上げを増加させているようです。

タニタは体脂肪計も販売する会社ですから
体脂肪計のPR効果を狙っているかもしれません。
しかし、体脂肪の計測サービスによる生活アドバイスで、
食事提供というコアサービスだけでなく、
継続的に来店してもらえるようなお客さまとの
関係性を築くことができました。
飲食店の概念を拡大し、新しい業態に転換したとも言えます。

マッサージの事業者数推移

 

7.小規模飲食店がニッチな「健康飲食店」で成功するために

細分化し、ニッチなビジネスになると思われる
「健康飲食店」が成功するためにはいくつか
考えておかなければならないことがあると思います。

(1)考え方の転換

これまでの「おいしい食事を出せばよい」という考え方から、
マッサージ店のように施術と生活へのアドバイスも行う業態に
変わる覚悟が必要だと思います。
将来的には、加工食品産業やマッサージ店のように、
飲食店にも健康に関しての法的基準や
資格制度が整備されるのではないでしょうか。

(2)顧客の絞り込み

特にニッチビジネスではターゲットの絞り込みが重要です。
お客さまがリピート客となり固定客化することで
高い利益率が確保できるというのがニッチビジネスの要諦です。
はっきりとした健康テーマがあれば
お客さまの絞り込みは難しくありません。

(3)マーケティング技術の活用

顧客のリピート、固定客化には、
SNSやネットの利用、顧客・販売データの活用など、
今は当然のようになっている
マーケティング技術を使う必要があります。
飲食店だけにドンブリ勘定というのは時代にマッチしませんね。

8.まとめ。お客さまの健康への要求に応える

 私たちはお腹が空いたとは感じますが、
さすがに昭和時代以前のようなひもじさや飢えは感じません。
食べ物に困るという問題はなくなったと言えます。

問題は健康です。
家庭では一生懸命に健康的な食事を作るのに、
いざ外に出ると健康的な食事をすることは難しい状況です。
この点で外食産業・飲食店の健康への配慮は遅れています。
そろそろ市場の要求=お客さまの健康への要求に応えるべきだと思います。

国や厚生労働省が頭を悩ます国民医療費の増大は深刻な問題です。
医療機関など官民挙げての取り組みのなかで、
飲食店も「おいしく満腹に」という観点から脱却し、
健康をサポートする業態であるという
考え方への転換が必要だと思います。

もちろん全ての飲食店でということではありません。
少なくても全体の一割程度について、小規模飲食店が
中心となって対応することが適切ではないかと思っています。

個人的には牛丼の吉野家さんには今のままでいてほしいですが(笑)。