ファストフードを食べる必要があるのでしょうか。工業化社会のための食べ物です。いまはコンピュータやデジタルが大切な情報化社会。そのための食事が必要です。大切なのは「ひとりの孤独感」をカバーするための食事。ABC活動という考え方のレストランです。え?「また早合点だろ」ですって? 今度は大丈夫ですよぉ…。

●ファストフードはアメリカ社会の工業化から

 ハンバーガー食べあきていませんか。「牛丼も食べてるさ」なんて言う人もいるかもしれません。でもファストフードばかりだと健康も心配です。そろそろ「はやい、やすい」ではない食事にしたほうがいいと思います。

 18世紀にイギリスで産業革命がおきてから、かなり忙しくなりました。工業化された社会は一斉に仕事することになるので、時間が大切になったからです。日本の鉄道は「時間ピッタリだ」とほめられています。

 ヒトの能力もそろっていたほうがうまくいきます。そんなわけで、子どもは学校でそろって勉強することになりました。でも日本の子どもたちも学校の先生も大変そうです。

 ファストフードの出現は19世紀後半のアメリカからです。大陸横断鉄道の建設などで鉄鋼、機械、石炭産業などが盛んになりました。1860年から1900年までに、アメリカの工業生産額は4倍になり、ヨーロッパや世界各国から工場で働く人など約1400万人がアメリカに移民としてやってきました。

 24時間休みなく動く工場で働く人たちには、夜中でも早朝でも食べられる食堂が必要でした。電車の形をした「ダイナー」と呼ばれる移動式のレストランもできました。そこでは手早く低価格でボリュームのある食事が提供されました。これがファストフードのはじまりです。

●ファストフードの代表ハンバーガー。21世紀もこれを食べるのか

 ハンバーガーも時代の要求にこたえて生まれました。ドイツの郷土料理、ひき肉のミートボール(フリカデル・Frikadelle)が祖先です。ドイツ移民とともにアメリカでハンバーグに生まれ変わり、さらにハンバーガーになりました。

 最初はパンにはさんでいたのでハンバーグ・ステーキ・サンドイッチとよばれていたようです。1893年ごろ、「シカゴ・トリビューン」紙などがハンバーグ・ステーキ・サンドイッチの評判を記事にしています。

 1921年、最初のチェーン店「ホワイト・キャッスル」が誕生。小さな四角いハンバーガー「スライダー」で有名になりました。ホワイト・キャッスルは現在でもアメリカで400店舗を展開していて健在です。

 世界最大のチェーン店マクドナルドは世界100の国で38,000店以上を運営しています。すごい数ですね。でも21世紀になってファストフードの食べすぎをみんなが心配するようになりました。

 エリック・シュローサーの『ファストフードが世界を食いつくす』はアメリカで大ベストセラーになりました。簡単に低価格で高カロリーの食事を食べることが、どんなに過酷で非人間的なことかを教えてくれました。21世紀も同じファストフードを食べ続けるのでしょうか。

●工業化社会から情報化社会へ。家族は小さくなり、やがて「ひとり」に

 日本では弥生時代からはじまった農業社会。大家族でした。田んぼでイネを植えたり刈り取ったりするには大家族でやらないとできません。それだけの人数が食べていけるほどの収穫もありました。

 日本の産業革命は明治維新から。生糸の生産などの軽工業から製鉄などの重工業へと発達。20世紀になると家族は核家族化しました。働く夫をサポートする妻と子ども2~3人という家族です。

 そして21世紀は情報化社会。石けんをつくって売るよりもゲームのビジネスのほうが大きい社会です。トヨタも大きな会社ですが、アマゾンやアップルのほうが大きな会社になっています。

 情報化社会で家族はさらに小さくなり、移動も多くなりました。進学、転勤、転職で家族や友人とのつながりはちぎれていき、そして、ひとり家族に向かっています。

 厚生労働省の世帯調査のグラフを見れば家族構成の変化がわかります。核家族は減少を続けています。一方で単独世帯が増えています。高齢化社会で80代、90代でひとり暮らしも出てきました。情報化社会は気がついてみると「孤独」の社会です。

世帯構造別にみた世帯数の構成割合の年次推移
●情報化社会は孤独。しかし孤独が問題ではなく「孤独感」が問題

 部屋にこもってスマホの世界にひたっていませんか。「ひとり」。これが情報化社会のキーワードです。そうなると「孤独」と向き合わなければなりません。

 孤独が嫌だったビーグル号の艦長で気象学者でもあるロバート・フィッツロイ。話し相手として駆け出しの科学者チャールズ・ダーウィンを同乗させました。結果、人類に衝撃を与えた「進化論」が生まれました。

 孤独は悪いものではありません。「亭主、達者で留守がいい」。ときどき妻(特定の個人ではなく一般的な!)がつぶやいています。ひとりの時間もいいものなのです。

 つまり孤独が問題ではありません。不安を感じる孤独感が問題です。数百万年も前、人類は集団でいることが安全だと感じていたからです。孤独感は群れから離れることの不安から生まれます。

 孤独感に襲われると健康に大きな影響が出ます。ジョン・T・カシオポ&ウィリアム・パトリックの『孤独の科学』では、集中力や判断力がなくなり、睡眠の質が落ち、やがて心臓病やガン、脳血管の疾病のリスクが高まると言っています。

 現代の社会になってしまった以上、孤独は必然となりました。悪影響をおよぼす孤独感を制御、コントロールすること。つまり孤独感をなんらかの方法で飼いならす必要があります。

●孤独なら「個食」になる。すでに日本は個食化先進国

 ひとり暮らしなら個食になります。外食でも個食する人が増えてきました。コロナ禍によって、ひとりで食べることが安全ということから増えたようです。

 ひとり焼肉の「焼肉ライク」などが人気になっています。ラーメンの「一蘭」は味わいに専念するために三方に囲いつきの個人席になっています。ひとり利用の女性がターゲットの「スープ・ストック・トーキョー」もたくさんありますね。

 おとなりの韓国。ひとりでご飯を食べることは恥ずかしいと思う人が多いようです。しかし最近「1人ポッサム(ゆで豚料理)」や「1人ピザ」のチェーン店が店舗を増やしています(朝日新聞2022年11月9日)。

 一方、欧米ではひとりで外食する文化はないようです。大金持ちの人がミシュランの高級レストランで個室を予約して食べるケースはあるかもしれません。しかし欧米での個食専門の飲食チェーン店は「ほぼない」と思います。ご存じの方、お知らせいただければありがたいです。

 日本は高齢化社会でも先進国です。さらに個食化社会としても、すでに先進国だと思います。

焼肉ライク、一蘭、スープ・ストック・トーキョー
●ABC活動で孤独感をコントロール。ポストファストフードの飲食店ビジネス

 つらい孤独感からどう脱却するか。すでに多くの研究があります。

 竹中晃二『ヤング中高年-人生100年時代のメンタルヘルス』には、いくつか孤独感をコントロールする方法が紹介されています。

 たとえばABC活動です。AはAct、身体的な活動。BはBelong、社会参加による所属。CはChallenge、新しい活動を行うということです。ABC活動によって孤独感からくる悪い影響を軽減できるとしています。

 飲食店のABC活動であれば、A:なんらかの運動と食事。B:自由参加のサークルと食事。C:人の役に立つ活動と食事という組み合わせになると思います。この考え方をもとに具体案を考えましょう。

●個食の孤独感を解決する「おひとりさまレストラン」ABCのアイデア

Act:体を動かす。花づくり食堂「シェア花壇レストラン」
 最近、古民家カフェが人気です。お庭もありますが手入れも大変そうです。これを活用できないでしょうか。庭を区分けして貸し出す「シェア花壇レストラン」です。

 1m四方ぐらいの小さなスペースを貸し出します。市民農園とかシェア畑などのミニ版です。マイ花壇で少し土に触れ、草花を育てる。ちょっとだけ汗をかいて、手と顔を洗って食事する。気持ちがよくなるはずです。

 前述の『ヤング中高年』には有酸素運動を続けると緊張を緩和する能力が高まるとあります。花づくりは運動ほどにはなりませんが、体を動かすことや自然を感じることで孤独感をコントロールできるはずです。

 花壇なら1週に一度ぐらいは手を入れることにもなります。リピーターのお客さまになりますね。プチトマトをつくって自分で収穫してランチで食べるのも楽しそうです。

     

Belong:気楽に所属する。俳句づくり食堂「ひとり俳句レストラン」
 句会の形式を利用します。俳句の経験がある人なら、なるほどと思っていただけるかもしれません。

 ひとりで食事をしながら俳句をつくって置いて(投句)いきます。作句のヒントになるように食事は季節の野菜などを使ったものが出てきます。

 日本には二十四節気(にじゅうしせっき)や七十二候(しちじゅうにこう)という季節をあらわす言葉があります。それぞれに旬の野菜や魚があります。このレストランでは二十四節気や七十二候にちなんだ食材のメニューが提供されます。6月なら新ショウガの甘酢漬けにイサキのお刺身でしょうか。ワインか日本酒か悩みますね。

 酔うまえに俳句をつくりましょう。そして投稿。そのあと、すでに投稿されただれかの俳句のなかで気に入ったものを選句します。俳句の先生の句評サービスなどがついてもいいですね。

 投稿した句や選句した句がどうなったかが気になります。リピートするお客さまがでてくるはずです。俳句づくりや選句で、ほんの一時でも没頭できます。小さなつながりで孤独感から離れることができるかもしれません。

    

Challenge:遠い人とつながる。言葉の恩送り食堂「あなたへのレター・レストラン」
 西国分寺に「クルミドコーヒー」という店があります。ここに恩送りのコーヒーという仕組みがあります。

 店内の壁に「だれか」宛のハガキが置いてあり、自分宛だと思った人はそれをうけとってコーヒーが飲めます。そしてコーヒーの贈り主に返事を書きます。

 ハガキの宛先は目隠しされていますが、店の人が目隠しをとってポストに投函。コーヒーの贈り主に返事が届くことになります。

 無料のコーヒーを飲んだ多くの人が、またお金を払って「だれか」宛のハガキを書いていくそうです。沖縄ではじまった仕組みのようです。

 「あなたへのレター・レストラン」もこの仕組みです。店に来た人は壁にあるハガキからひとつを手にします。食事をしながら返事を書きます。ハガキは店員さんに渡して投函してもらいましょう。

 そして新しいハガキに孤独感を感ずる「だれか」宛のメッセージを書きます。たわいのないことでよさそうです。そしてまた次に来る人がそれに返事を書きます。

 前述のジョン・T・カシオポ&ウィリアム・パトリックは「ほかの人に手をさしのべることで、孤独から脱却できる」と主張しています。孤独を感じている人のために、小さな言葉を贈ることで自分も救われるということです。

西国分寺の「クルミドコーヒー」
西国分寺の「クルミドコーヒー」
●まとめ:個食化が避けられないならニッチな飲食店にチャンス

 工業化社会でファストフードが生まれました。いまは情報化社会。ひとりが特徴の社会になりそうです。そこでは個食が当然になります。ちょっと孤独です。でも孤独は不幸ではありません。幸福でもあります。

 しかし孤独感は不幸です。ヒトはひとりでは生きていけません。集団のなかで協力して生きてくようにできているからです。孤独感をなんとかしなければなりません。

 個食化を前提にして、孤独感をコントロールする飲食店ビジネスを考えるべきです。社会の要求だからです。
      
      
 ということで「ニッチな飲食店のマーケティング企画室」の出番ですね。「このあと30分間スタッフを増やして電話お待ちしています…」。いやいや健康食品のテレビショッピングではないのでメールで大丈夫です。

<参考文献>
紀平栄作編『アメリカ史』山川出版社 2019
鈴木 透『食の実験場アメリカ』中公新書 2019
エリック・シュローサー/楡井浩一訳『ファストフードが世界を食いつくす』草思社 2001
ジョン・T・カシオポ&ウィリアム・パトリック/柴田裕之訳『孤独の科学-人はなぜ寂しくなるのか』河出書房新社 2010
竹中晃二『ヤング中高年-人生100年時代のメンタルヘルス』集英社新書 2022
影山知明『ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~』大和書房 2015