野球もサッカーも見るのはとても楽しいものです。しかしプレーする人はどうなのでしょうか。一生を通して考えたときに楽しいものなのかです。独自の地位を目指す「ニッチ」について考えてみてはどうでしょうか。

●人はスポーツ中継に熱狂する。選手はなぜ引退のときに涙するのか

 アメリカ人はスポーツ番組が大好きなようです。調査会社ニールセンによると2021年の1~9月の人気番組上位50のうち地上波98%、ケーブルTV72%がスポーツだったとのことです(朝日新聞GLOBE 23年2月5日)。
   
 昨年のサッカーワールドカップもメッシなどの活躍で盛りあがりました。メジャーリーグでは大谷翔平選手も活躍していますね。
   
 多くのスポーツ選手が明日のメッシや大谷を目指してがんばっています。しかしほとんどのプレーヤーがそこにはたどりつけません。
   
 劇的なサヨナラホームラン。息をのむペナルティキック。試合が終わると見る側は「あ~おもしろかった」です。しかし選手はどうなのでしょうか。「おもしろかった」のでしょうか。どうして引退会見で選手は涙を流すのでしょうか。
    
 100年を生きる時代になりました。スポーツで頂点を目指すことは、ひとりの生涯を考えたときにバランスがとれているのかと思います。

●飲食店も競争している。楽しいことなのでしょうか

 飲食店のマーケティングをやっています。飲食店も熾烈な競争をしています。売上アップのためにさまざまな努力をしていますが、やがて値引きに向かっていきます。大盛サービス、ごはんおかわり自由、10回来店で1回無料、次回20%引き…。
   
 利益はどんどん少なくなります。中小企業庁のデータでは飲食サービス業の労働生産性、一人あたりいくら儲かるのかの数値ですが、国内全業種で最低です。
    
 IT化が不足しているから利益が低いという人もいます。しかし飲食店ビジネスは規模が小さくIT人材どころかマーケティング人材、いやいや今日のバイトさえ手配がつきません。外の会社に頼むにしても儲けが少ないのですから、そもそものお金がありません。
 
 激しい競争に問題があるのではないでしょうか。

中小企業白書2016 労働生産性
●生き物はニッチで生きる。だから競争をしない

 ニッチをテーマにしています。ニッチは生態学の言葉です。生態的地位ともいいますが、わかりやすく言うと、生き物が住む場所を確保することです。
   
 たとえば同じ水槽に住む2種類のゾウリムシ。ソ連(現在のロシア)の生態学者であるG.F.ガウゼが実験しています。
    
 同じエサを食べるゾウリムシとヒメゾウリムシを同じ水槽に入れた場合、やがてゾウリムシが消えてしまいヒメゾウリムシだけが生き残ります。勝利者と敗者にわかれるということです。
    
 飲食店ビジネスならば、たとえばハンバーガー。かつてはマクドナルド、モス、ロッテリア、ファーストキッチン、ドムドムなどたくさんありました。しかしいまはマクドナルドのほぼ独占となっています。
   
 同じ水槽の2種のゾウリムシも食べるエサがちがっていれば2種とも生き続けます。当然ですけれど。
  
 サバンナのシマウマは草を食べ、キリンは高い樹木の葉を食べ、同じサバンナで共存しています。
   
 生き物には35億年以上の歴史があります。壮大な時間をかけた学びは、それぞれの場所(ニッチ)に棲むことです。競争して場所を確保することではありません。生き物にとっては競争しないことが最善です。
  
  
 競争しなくても幸せになっている飲食店があります。ニッチだからです。「ニッチ」について考えてみてはどうでしょうか。

   

ガウゼ『生存競争』

<参考文献>
G.F.ガウゼ/吉田敏治訳『生存競争』思索社 1981