紅葉の秋。京都に外国人観光客がもどってきています。外国人の方は京都をはじめ日本のお寺、神社や名所を中心に観光しています。
  
 しかしデータによると最大の観光目的は日本の「食」です。飲食店ビジネスこそ、苦境の日本を救う切り札ビジネスです。そうなるためには飲食店マーケティングが必要です。
   
 飲食店のみなさん、ライバルはお隣のレストランではありません。清水寺と浅草寺です。

●日本の未来の産業資源は「飲食」

 観光庁の調査によると外国人観光客が、訪日前にもっとも期待しているのは日本の食事です。69%の人が「食事だ」と言っています。第2位のショッピングを18ポイントも上回っています。「おもてなし」やアニメではありません。
   
 もうひとつ重要なことは、リピーター需要です。もはや一度きりの海外観光などありません。気に入れば何度もその国を訪れることになります。調査の「次回したいこと」のトップもやはり日本の飲食。日本の飲食には、これほどの価値があるのです。
   
 ミシュランガイドによると東京の三つ星レストランは12。二つ星は41。一つ星も150あります。人口あたりで換算するとニューヨークやロンドンのおよそ2倍。日本は世界のなかでも美食の国のひとつです。
   
 日本の飲食店ビジネスの可能性や世界的にもレベルの高い個人経営の飲食店について、日本国内でよく理解されていません。かなり残念なことです。 
    
 一方、京都観光はどうでしょうか。富士山の諺に「一度も登らぬ馬鹿、二度登る馬鹿」というのがあります。地元出身の私ですが、確かに富士山は一度登れば十分です。
    
 清水寺や浅草寺も「もう一度ぜひ」という観光客がどのくらいいるのでしょうか。自分のスマホには、すでに記念写真が入っています。また行く必要はありません。
    
 しかし食事はスマホの中に入りません。もう一度行かない限りは味わえないものです。次に行くなら、日本の飲食をもっと奥深く味わいたいはずです。ここに飲食店ビジネスのチャンスがあります。日本の未来を築く産業になるべきです。

訪日外国人消費動向調査2020:訪日前に期待していたこと
訪日外国人消費動向調査2020:次回したいこと
100万人あたりのミシュランの星付きレストラン数の比較
●飲食店マーケティングの力で日本を再興する

 ところが日本をリードすべき飲食店ビジネスは勢いがありません。マーケティングが不足しているからです。自分の体感ですが、飲食店にはマーケティングの知識や経験が行きわたっていません。これは仕方のないことでもあります。
   
 日本の飲食業界と食品業界のそれぞれのトップ10の売上・創業年・従業員数を比較してみます。上位はすべて食品産業の企業です。飲食では「すき家」などを運営する「ゼンショーHD」が、かろうじて9番目に入っているだけです。
   
 食品産業と比較して、飲食産業はまだ規模が小さく歴史も浅いビジネスです。そのためマーケティングも含めて基本的なものがまだできあがっていません。食品産業がオトナなら飲食産業はハイハイの赤ちゃん状態です。個人の飲食店であればなおさらです。
   
 観光庁の調査にあるように、日本の飲食には潜在的な実力があります。飲食店ビジネスこそが日本の未来を救うビジネスです。そうなるためにはマーケティング力をつけて稼げるビジネスになる必要があります。これが飲食店マーケティング立国論です。

飲食業界と食品業界の創業年・売上高・従業員数の比較
●飲食店マーケティング立国論のための3ステップ

(1)店にマーケティング担当者を置く
 小さな飲食店であってもマーケティングの担当者を置くべきです。CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)です。カッコイイですね。マーケティングの責任者です。最近では、大きな企業には必ずいます。
   
 ゴルフを始めるときには、まずゴルフクラブを1本でもいいから買うでしょう。釣りを始めるときにも、まずは安くてもいいから釣り竿が1本必要です。「私がこの店のチーフ・マーケティング・オフィサーです」(キリリッ)。人材募集もままならない飲食店にも新しい風が吹きそうです。まずはマーケティング担当者を決めましょう。
  
(2)「店長。マーケティングってなにするんですか」
 最初にすべきことは、店に来ているお客さまはどんな人なのか知ることです。男性?女性?何歳ぐらい?どこから来ている?なにを注文している?……。わからないことがいっぱいなはずです。そうなると「お客さまはなぜ、この店に来るの」となるはずです。ここからスタートです。近所の店と比べてみてください。なにか違うところがあるはずです。
   
(3)店長の叫び「たくさんお客さまに来て欲しい」
 ほかの店と違うところがあるからお客さまが来ます。「え、なにもない?」。ならピンチ!でも大丈夫です。なにもないことはありません。必ずあります。しっかり探してみましょう。
   
 違いとは「店の特徴」です。キレのいい先輩なら「差別化だよ」と言うかもしれません。先輩はマーケティングの免許皆伝。名取に昇格です。
   
 「お客さまはだれか」をきっかけにマーケティングを学べば、たちどころに100、200のアイデアが出てくるはずです。ここまでくれば、あとはマーケティングの手練手管で「たくさんのお客さまに来て欲しい」という店長の希望は解決できます。
  
  
 ということで飲食店マーケティング立国論の事始めでした。飲食店のみなさん。敵は本能寺ではなく、清水寺、浅草寺、富士山に姫路城です。
  
 しかし、たいした敵ではありません。2,200万人の味方がいます。2019年の訪日観光客数は3,188万人。このうち69%が日本の飲食に期待しています。世界の観光客が日本の飲食に熱い支持を送ってくれています。

<参考文献>
『訪日外国人の消費動向調査 2020年1月~3月』観光庁 2020
業界動向サーチ:https://gyokai-search.com/3-syokuhin.htm#jump5
『会社四季報 2022年4集秋』東洋経済 2022