ニッチを探すのは大変です。むしろニッチはつくるものだと思います。前回、千利休の茶室の話で「ニッチをつくる」とお話ししました。今回はその続きです。
    
 ニッチの大先輩、生態学には「ニッチ構築」という考え方があります。ニッチな飲食店を考えるときに参考になる概念です。

●ニッチ・ビジネスを探すのは大変

 ニッチ・ビジネスをどのようにはじめるか。発見はなかなか困難です。
    
 ニッチを見つけるなら三つ。社会の課題解決、すでに起きている未来、自分が好きなこと、と以前お話ししました。とは言ってもビジネスとしてうまくいくのかまで考えるとカンタンではないはずです。
     
 思いつきでニッチを探すなら、自分探しの旅にも似ています。とりあえず沢木耕太郎の『深夜特急』とバックパックで海外旅行に出かけますか。しかし、たいがいは旅の思い出だけを土産に帰国することになります。
     
 若者にはいい経験ですが、ビジネスとなるとそうはいきません。探すよりは千利休のように「つくる」ほうがいいはずです。生態学にヒントがあります。

●ニッチを構築する生き物

 北アメリカにいるビーバー。川辺の木を自分の丈夫な歯で切り倒し、川をせき止めてダムをつくります。できた湖に木を積みあげて巣をつくります。巣の入り口は水中です。こうして天敵のコヨーテなどから身を守ります。ビーバーのほかにミミズ、シロアリなどがニッチ構築する生き物と言われています。
    
 ニッチ構築の研究者ジョン・オドリン=スミーは、生き物は環境(自然)に適応していくだけではなく、みずから環境に働きかけることでニッチを構築するとしています。またダーウィンの言うような自然選択だけではなく、ニッチ構築によっても進化すると主張しています。
    
 ニッチ構築。人間こそが典型だと思います。自然のなかから自分の住み家を探すのではなく、自分の力でつくっています。嵐もあれば地震もある。住み家の構築・維持は大変です。がんばりました。後もどりできないかもしれない環境破壊にまでたどりついてしまいましたが…人間こそがニッチ構築する生き物ですね。

●ニッチな飲食店ビジネスでニッチを構築する

 さて人間はニッチ構築するということから、ニッチな飲食店でもニッチ構築できるかと考えると、ありますね。いまのところニッチな飲食店のニッチ構築の手法には二つあると考えます。
  
 ひとつは「ニッチな飲食店の集積化」です。たとえば高田馬場にあるミャンマー料理店群。ミャンマー料理店はニッチです。そんなニッチな店が駅周辺に20店ほど集まっています。高田馬場はリトルヤンゴンと呼ばれるようになっています。
   
 同じような例は月島もんじゃストリートです。ここには東京のニッチな料理「もんじゃ」のお店が100店近くあります。組合もあり組織的な活動を行っています。
   
 どちらもシロアリと同じように集団として環境に働きかけていると言えます。
   
 もうひとつは「ニッチな飲食店のコンテンツ・マーケティング」です。ネットなどにニッチに関する情報を積みあげていくことです。
   
 ビーバーが切り倒した木を積みあげていくのと同じです。少しずつ地道にニッチな情報をサイトなどに積みあげていきます。独自の情報は興味のあるお客さま(ターゲット)にとっては役にたつものです。手間はかかりますが強力なニッチができあがります。
    
 ニッチな飲食店でも熱心なお店はサイトやSNSでニッチに関する情報を出しています。また出版などでその地位を築いています。

●まとめ。「未来をつくる」が早い

 パーソナル・コンピュータの父と言われるアラン・ケイの有名な言葉があります。「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」。未来がどうなるかを心配するよりは、サッサと自分でつくったほうが確実で楽しいということです。
   
 ニッチも同じです。どこにあるのかを探すよりは自分でつくってしまったほうが早いはずです。ニッチ同士で集団をつくるか、ニッチの独自情報を積みあげてつくるかです。
  
  
 ニッチ構築の手法はまだほかにもたくさんあると思います。発見したら、また報告します。でも…これから自分探しの旅に行くので時間がかかるかもしれません。

    

<参考文献>
ジョン・オドリン=スミー、ケヴィン・レイランド、マーカス・フェルドマン/徳永幸彦、佐倉 統訳『ニッチ構築―忘れられていた進化過程』共立出版 2007年
マイク・ハンセル/長野 敬、赤松眞紀訳『建築する動物たち ビーバーの水上邸宅からシロアリの超高層ビルまで』‎青土社 2009年