昭和バブルのころに社会人でした。毎日がパーティのようでしたね。平成になってぐっと厳しくなり自分の未来が心配になりました。令和ではさらに停滞する社会や気候変動で日本の未来までもが心配になってきました。心配が重なると心に不調をきたす人も出てきます。問題です。世界から観光客を引きよせる魅力的な日本の飲食店。その力で心の健康回復にも貢献できるのではないでしょうか。

●人工知能が私を追い越していく。未来が心配

 「チャットGPTってなに?」などといっているうちに、自分の仕事がなくなりそうです。すごいスピードで進化しています。お祭りのリンゴ飴売りからIT企業の社長まで「仕事がなくなる」と心配しています。
    
 仕事がなくなるなら、CMをやっている転職会社に頼んでも簡単に転職できないかもしれません。心配です。
   
 縄文時代に野山でイノシシやシカを追いかけていた時代がなつかしい。もう戻れません。猛烈に変化する社会についていくのは大変。未来が心配。それは心に大きな負担です。心の健康を考える時代です。

●金持ちになった会社。変わらない私。生活が心配

 未来の心配だけではありません。いまの生活も心配です。
   
 平成以降、企業の利益が増加しています。政府(内閣官房)の報告資料にもはっきりと書かれています。2000年から20年の間に会社の貯金(内部留保)は3倍近く増えています。
   
 一方で給料は増えていません。非正規社員や雇用の流動化で企業の人件費は20年の間に増えることはなく、むしろ減らしています。
   
 OECD諸国の成長と比べると悲しいほど成長がありません。20年の間に米国の約半分(77,463ドル)になり、平均(53,416ドル)をぐっと下回る低賃金(41,509ドル)なってしまいました。
    
 昭和時代の終身雇用や年功序列はもうありません。会社で一生懸命働いても未来の給料は約束されていません。そこにきてこの物価高。「この給料ではやっていけない」。また心配になってしまいます。

大企業の財務動向
一人当たりの年金賃金推移(OECD)
●「明日、会社に行きたくない」。仕事が心配

 ブラック企業が話題になったのは2010年ごろでした。ブラック企業には長時間労働、過剰なノルマ、パワハラなどいくつの特徴があります。いずれにしろ企業利益が優先です。その結果、若い人たちがメンタルを壊してしまいます。
  
 これによる職場からの離脱は個人だけではなく、医療費を含め将来の日本社会までの大きな損失につながります。
   
 厚生労働省(令和4年労働安全衛生調査)によると仕事でストレスを感ずる人は全労働者の82.2%。楽しく働いている人は少ないようです。要因は仕事の量・責任・質、セクハラ・パワハラを含む対人関係など多岐にわたります。
    
 精神科の患者数も増加しています。特に躁うつ病を含む気分障害の患者数が増加しています。職場でのストレスが関係しているはずです。
    
 定期的な健康診断など「身体の健康」への関心は高まっています。「心の健康」への関心も高まっていますが、患者数の増加を考えるとまだまだのようです。
    
 未来、生活、仕事など心配が多い社会。心の健康を保つためにどうするべきか。この深刻な課題について飲食店ビジネスでなにかできないものでしょうか。

仕事や職業生活に関する強いストレスの内容別労働者の割合
精神病疾患を有する外来患者数の推移
●健康食品があるのに「健康飲食店」がない

 ところが、日本の飲食店は健康に興味がありません。コンビニやドラッグストアにたくさんの「健康食品」があるのに「健康飲食店」はありません。
    
 飲食店ビジネスの興味はトレンド(流行)。いまは「おにぎり」ですね。タピオカドリンクのときもそうでした。ブームになると同じような店がたくさんできます。やがて過当競争。そしてあきられてウンザリされて消えていきます。
     
 マーケティングが不足しています。昨今では政治でもNPOでもあらゆる事業がマーケティングです。飲食店もマーケティングを進めるべきです。
    
 「マーケティング?難しそう」なんていわないでください。難しくありません。まずは「お客さまはだれなのか」です。ここに着目すると無駄が減ります。選挙になると議員の先生も有権者の目をみながら必死に握手しますよね。だれがお客さまかを見きわめるためです。
    
 私の考えですが、9割の飲食店は面倒なマーケティングなどする必要はありません。「おいしいものが食べたい」というお客さまが多いからです。
    
 しかしそれでは「満たされない」お客さまが1割います。健康を考えている人たちです。
    
 加工食品の市場は約20~25兆円といわれています。ビール、菓子、マヨネーズ、私の好きなチクワなどのような食品です。そのなかに健康をテーマにした商品がたくさんあります。
    
 雨後のタケノコのごとく商品が出てくる「機能性表示食品」もそうです。国が認めた「保険機能食品」です。そのほかも含めると健康志向の商品市場は1.5兆円ほどにもなっています。これ以外にもカロリーオフ、減塩、食物繊維入りなどの商品も数多く出回っています。
    
 ざっと考えると食品の1割は健康がテーマです。それなら世の中の飲食店も1割ぐらいが「健康飲食店」になってもいいはず。チャンスです。お客さまに健康ニーズ(需要)があることは加工食品市場の例でわかっているからです。
    
 健康は身体だけでなく「心の健康」も大切です。心を健康にする栄養素もすでに研究されてきています。ここに注目することで新しい飲食店ビジネスができるはずです。

健康志向食品の市場規模動向
●「明日、会社に行きたくない」と思ったら「メンタルヘルスレストラン」へ

 本格的に憂うつな気分になったら病院に行く必要があります。しかしその時点では病気です。そうならないために予防への取り組みが重要です。
  
 ストレスの対処には、趣味などの気晴らし、運動で身体を動かすことなどが効果的といわれています。どうしてもなら「逃げる」、一時的避難も有効なようです。
     
 食事でもストレスの対処ができそうです。うつ症状は鉄などの栄養素の不足が原因と指摘するお医者さんもいます。つまりバランスのとれた栄養素の摂取です。
     
 ストレスやメンタルヘルスに良い影響を与える栄養素はタンパク質、鉄、ビタミンB群と脳に密接につながる腸のための食物繊維の摂取などが勧められています(『職場のメンタルヘルスケアと実践』)
    
 これらの栄養素を適切に含む食事の提供ができれば心の健康に役立つはずです。新しい飲食店ビジネスにもなるはずです。

●マーケティングで考える「メンタルヘルスレストラン」構想

 店のお客さま(ターゲット)はメンタルを強化したい人です。リピート利用が期待できます。お客さまは長期に利用することになるからです。リピート客は飲食店にとっての宝物です。
    
 マーケティングの基本の4P(製品・場所・価格・プロモーション)でざっと店の構成を考えてみましょう。
    
(1)製品(プロダクト):タンパク質、鉄、ビタミンB群の栄養素を含むメニュー
 適切な栄養素のメニューづくりがポイントです。管理栄養士さんに助けてもらいましょう。また持ち帰りメニューに力を入れてもいいと思います。さらに栄養補助食品やサプリメントなどの物販も重要だと思います。
   
(2)場所(プレイス):通勤の途中で立ち寄る店
 主要駅の駅ナカや駅近くがよいと思います。職場の近くでは心が休まりません。帰宅途中に夕飯利用で立ち寄れるなら便利です。疲れていては家で夕飯をつくることもできません。朝食の提供もできるといいですね。
    
 近所に、少し運動ができるジムやサードプレイス(心が休まる第3の居場所)のコーヒーショップがあるところもいいかもしれません。

(3)価格(プライス):高い品質を満たす高い価格
 必要な栄養素を十分に提供するには品質の良い食材が必要です。この食材の原価とメニュー開発費などを基準に価格設定します。一般の店より高くなりますね。
   
 メンタルヘルスの飲食店はニッチです。ニッチなら価格競争はしません。安くする必要もありません。

(4)プロモーション:ちょっと悩ましい「店名」
 店の一番のプロモーションは店名です。わかりやすい、覚えやすい名前が必要です。ここが難しい。「メンタルヘルスレストラン」ではお客さまにはハードルが高すぎます。…いま答えがわかりません。またまた宿題としてご勘弁です。
   
 プロモーションのアイデアです。サボテンのような小さな観葉植物を置くレストランはどうでしょうか。自分専用の小さな植木鉢を来店のたびにテーブルに置き食事します。毎日通って植物を育てることで心が休まるかもしれません。
   
 忘れてはならないことはコンテンツ・マーケティングです。心の健康と栄養バランスについての正しい情報(コンテンツ)を潤沢にお客さまに伝えることです。

●まとめとして。「心の健康」と飲食店ビジネスは日本の未来

 心の健康を損なうことは、個人にとっても社会にとっても大きな損失です。貴重な労働力が失われます。国や企業も負担する医療費も増えてしまいます。ましてや20代、30代の若い人たちならば日本の未来の大きな損失です。
   
 心の健康のためには、食事の栄養素のもつ意味が大きいことがわかってきています。ここに飲食店ビジネスの大きなチャンスがあります。
    
 心の健康は日本の未来のためにも、世界に冠たる日本の飲食店ビジネスがさらに成長するためにも注目すべきテーマだと思います。
    
    
    
 私の心の健康法は「社会や人のために働くこと」と人には言っています。本当は週刊文春の新聞広告を見ることです。ちっちゃいなぁ。

<参考文献>
内閣官房新しい資本主義実現本部事務局『賃金・人的資本に関するデータ集』令和3年11月
『HBフーズマーケティング便覧2022』富士経済 2021
竹中晃二『ヤング中高年 人生100年時代のメンタルヘルス』集英社新書 2022
中村好男監、タニカワ久美子『職場のメンタルヘルスケアと実践 ストレス対処のための運動・栄養・休養』講談社2018
飯塚浩『小さな町の精神科の名医が教えるメンタルを強くする食習慣』アチーブメント出版 2022
藤川徳美『うつ消しごはん―タンパク質と鉄をたっぷり摂れば心と体はみるみる軽くなる!』方丈社 2018