睡眠に注目する人が増えてきました。市場も成長しています。「睡眠負債」という言葉も定着しましたね。睡眠不足は仕事の能率の低下ばかりかヒトの寿命も縮めてしまうようです。睡眠の改善には腸活など食事も大きく影響します。ニッチな飲食店として睡眠改善の食事と15分ほどの睡眠をセットにする「お昼寝食堂」が提案できそうです。しかもスタッフもいっしょに寝てしまう食堂です。

●睡眠の問題は社会の問題

 2017年6月に放送されたNHKの「睡眠負債が危ない」が話題になりました。睡眠負債とは睡眠不足が慢性化した状態のことです。睡眠負債は2017年の流行語大賞のトップ10にも選ばれました。
    
 最近では、睡眠の質を改善するヤクルトの乳酸菌飲料「Yakult1000」(機能性表示食品)が人気です。品薄で手に入らないと騒がれるほど。「日経トレンディ」が選ぶ2022年ヒット商品の第1位にも輝きました。
    
 睡眠不足が重なると認知症、がんなどの健康リスクが高まります。寿命も縮むことになります。また睡眠不足で大きな事故もおきています。1秒から10秒ほど寝てしまうマイクロスリープ(瞬間睡眠)が起こるからです。
    
 2012年には関越道でバスの大事故がありました。1989年のアラスカ沖のタンカー事故、さらに1986年のチェルノブイリの原発事故なども睡眠不足が要因とされています。
     
 睡眠不足の問題は深刻です。その人だけの問題ではなく社会の問題と言えます。

●睡眠関連の市場は成長。飲食店ビジネスもチャンス

 睡眠への関心が高まりや「Yakult1000」の人気などから睡眠関連の市場が成長しています。特に機能性表示食品などの健康食品市場の成長が顕著です。
    
 飲食店ビジネスでもここに着目するべきです。以前からシツコクお話ししていますが「健康食品はたくさんあるのに健康飲食店はありません」。健康食品ビジネスは低く見積もっても2兆円市場。しかし25兆円といわれる外食市場に「健康飲食店」はありません。
    
 目の前の「焼き肉」の流行を追いかける飲食店ビジネス。睡眠の改善も流行中です。「健康飲食店」として飲食店ビジネスも睡眠市場に参入できるはずです。 

ストレス緩和・睡眠サポート市場
●どうしたら睡眠不足を改善できるのか

 睡眠時間が7時間から8時間で死亡リスクがもっとも低くなるようです。ところが日本人の睡眠時間を調査した厚生労働省の調査によると、6時間以上7時間未満の人が34.7%、5時間以上6時間未満の人が23.9%となっています。全体の3分の2が7時間未満です。特に女性では7割が7時間未満となっています。
    
 昭和の終わりごろのバブル期に「24時間戦えますか」という栄養ドリンクの広告がありました。日本では睡眠時間を削って働く、勉強するのが美徳という風潮があります。
    
 しかし睡眠に関する研究が進んだ現在、睡眠不足は健康を害し、生産性を下げるとわかっています。先進国に対する近ごろの日本の遅れの要因も睡眠不足かもしれません。積極的に適切な睡眠をとるべき時代になっています。
    
 睡眠の改善のためにはどうするのか。答えは簡単。しっかり8時間寝ること。そして食事も含めた規則正しい生活をすることです。「ははは、それができりゃ、苦労しないよ」の声が聞こえてきます。毎日必死の日本人には難しいことかもしれません。

男性女性別睡眠時間(厚生労働省)
●睡眠負債の返し方。「昼寝」

 睡眠不足を解決するひとつの方法として昼寝があります。ナップです。昼ごろに15分から20分だけ眠ることです。
     
 少し寝ただけで睡眠不足は解決しないとされています。しかし別な見方もあります。ヒトは二相睡眠の動物という考え方です。二相睡眠とは一日に2回眠ること。夜に7時間ほど寝て、午後に30分から60分の昼寝することです。
     
 睡眠科学者のマシュー・ウォーカーは著書『睡眠こそ最強の解決策である』で以下のように述べています。

二相睡眠の起源は文化とは関係ない。これは生物学的な習慣だ。地域による文化の差に関係なく、すべての人類が、午後になると眠くなる遺伝的な性質を備えている。
(中略)
現代人の生活は本来の睡眠パターンから外れているということだ。人間は本来、二相睡眠をする生き物だ。しかし工業化によって変化が起こり、単相睡眠になってしまった。

 つまりヒトは一日に2回眠るのが普通。ランチの後に眠くなるのは「胃に血液が集まって脳に血がいかないから」ではなく、ヒトとして当然ということになります。
    
 スペインなど南欧では「シエスタ」という午後の昼寝の習慣があります。EU加盟などでシエスタする人も減ってきているようですが、スペインは平均寿命の長さで世界上位の国です。地中海食だけでなく昼寝もこの長寿に関係があるのかもしれません。
    
 先進的な企業では「パワーナップ」として午後に15分から20分の昼寝休憩するところもあります。これでスッキリすると仕事の効率も高まります。
   
 昼寝はコーヒービジネスでも関心が高まっているようです。世界的な食品会社ネスレでは「コーヒーナップ」として、コーヒーを飲んで昼寝することを勧めています。原宿には期間限定ですが睡眠カフェの店が登場しています。そのほか東京都内にこうした店が数店舗あるようです。
    
 睡眠市場が成長するなら、ニッチな飲食店のマーケティング企画室としても指をしゃぶって寝ているわけにはいきません。「お昼寝食堂」を提案します。

ナスカフェ「睡眠カフェ」
ネスカフェ「睡眠カフェ」
●「お昼寝食堂」構想。ちょい寝の提供

 ターゲットは都心のビジネス街の頑張り屋さんの男女です。ストレスによる睡眠不足を改善したいと思っている人たちです。来店は基本的にひとりですね。どのような店にするのかはマーケティング・ミックスの4Pで整理してみましょう。
    
(1)製品(Product):15分睡眠の場所提供
 ランチのあと昼寝のできるスペースの提供です。ランチも提供します。発酵食品や食物繊維などの睡眠改善によい食事です。お弁当の持ち込みもOKにしませんか。とりあえず食後に横になりたい人も多いはずです。朝7時からの営業で朝食も提供します。睡眠改善のためには朝食が大切だからです。
    
 午後4時以降の仮眠は夜の睡眠に影響があるようです。午後3時には閉店します。ネット販売や物販もしたいものです。楽しく夢がみられそうなパジャマや枕もいいですね。
    
(2)場所(Place): オフィス街の隠れ家
 店は職場に近いこと。繁華街の1階よりも「こんなところに?」という裏路地や地下1階など落ち着きそうな所がよさそうです。
   
 昼寝はソファタイプがいいようです。ベッドでは深い眠り(ノンレム睡眠)に落ちて起きられなくなってしまいます。観葉植物などをおいてパーテーションがわりに。どうしてもという人のための個室タイプ。どうするか検討です。
    
(3)価格(Price): 時間利用の料金
 利用料金は30分、45分、60分利用の3タイプ。時間による価格設定です。これにランチの食事料金などがプラスされます。
  
 毎日、利用していただくのが理想です。リピート利用です。定額のサブスクリプション・サービスで固定客を増やしたいと思います。
    
(4)プロモーション(Promotion):正しい睡眠の情報提供
 睡眠に関してはまだまだ研究がはじまったばかりです。「食べると血液が胃に集まる」とか「睡眠は1日3時間でも大丈夫」など根拠のない話や間違った俗説がたくさんあります。
   
 睡眠について最新の正しい情報を提供することで信頼が高まり、お客さまが来店するはずです。基本は情報提供、コンテンツ・マーケティングです。

●ところで飲食店は睡眠不足ではないのか

 ここまで書いてきて、はたとヒザとホッペを叩いてしまいました。「飲食店で働く人こそ睡眠不足ではないか」。
   
 ディナーやお酒を出す店での終業は夜の11時、12時があたりまえでしょう。そこから後片付け、明日の準備…。睡眠が十分とは考えられません。
    
 睡眠の問題を解決するなら飲食店が先かもしれません。EU諸国では勤務間のインターバルを義務化しています。終業から次の就業まで最低11時間を確保する規定です。
    
 人手不足解消のために賃金をあげて人を確保するのも大切ですが、十分な睡眠時間を提供することでも従業員の確保はできると思います。
    
 睡眠の問題は個人だけの問題ではありません。企業だけの問題でもありません。自治体や政府など国としても取り組むべき問題です。ヒトの健康と寿命、社会の生産性と安全性、そして未来の子どもたちの問題だからです。
   
 ということで「お昼寝食堂」では、お客さまの横のソファでスタッフも寝ているかもしれません。用事があっても起こさないでくださいね。

<参考文献>
マシュー・ウォーカー/桜田直美訳『睡眠こそ最強の解決策である』SBクリエイティブ 2018
NHKスペシャル取材班『睡眠負債 ‘’ちょっと寝不足‘’が命を縮める 』朝日新書 2018
西野精治『スタンフォード式 最高の睡眠』サンマーク出版 2017
日本睡眠改善協議会編 白川修一郎、福田一彦、堀 忠雄『基礎講座 睡眠改善学 第2版』 ゆまに書房 2019
厚生労働省『令和3年度 健康実態調査結果の報告‐睡眠時間』2022