ラーメンを4店連続して食べるとは、「チャーハン巡礼記」(2018年2月のブログ)以来の快挙です。
今回はハラール・ラーメンです。ハラールはハラルともいいますが、ここではハラールと表記します。

1.まずはイスラム教に関するおさらい

 たしか高校生のころに習いましたが、もはや記憶はあやふやです。
 イスラム教は7世紀にアラビア半島で生まれました。創始者は預言者ムハンマド。かつてモハメッドと習った気がしますが、ムハンマドのほうが発音として近いようです。イスラム教徒のことはムスリムと呼ばれています。
 信者は世界で約16億人、キリスト教徒に次ぐ信者の数です。世界人口比では約24%*。発祥の地、中東に多いように思えますが、実は半数以上がアジアに住んでいます。ムスリムには信仰の告白、礼拝、ラマダンという断食、貧しい人々への喜捨、メッカへの巡礼など5つの義務があります。

 ハラールはイスラムの教えで「許されている」という意味。豚肉やアルコールが許されていません。食べ物ももちろんですが、飲料、医薬品、化粧品など広い範囲におよんでいます。これをクリアして飲食や製品を提供するためには、専門機関を通じてハラールの認証を受ける必要があります。

*イスラーム教徒人口の推計2013年 店田廣文 Institute for Multi-ethnic and Multi-generation Societies WASEDA UNIVERSITY, Tokyo, Japan 
イスラム教徒の人口比率
イスラム教徒の数はキリスト教徒に次いで多い。半数以上がアジアに住んでいる。

2.ハラール・ラーメン店探訪記

 未知なるハラール・ラーメンはどういうものかとお店にお伺いしました。しかし、知らないカテゴリーのラーメンなので1店ではわからず、続けざまに食べることになりました。

(1)「麺屋帆のる(ほのる)恵比寿店」

 恵比寿のアメリカ橋の近くにあります。店名はホノルルへの出店を目指して、この名前にしたとWebサイトにあります。名前のとおり、ほんわかとして気取りのない雰囲気のお店です。昼時だったせいもあり、お客さまは日本人の方が多かったと思います。
 ラーメンは濃厚な鶏白湯。ハラール・ラーメンだからといって、一般的なラーメン大きな違いがあるということはありません。チャーシューの代わりはチキン。新鮮なイメージ。おいしいです。

(2)「Ayamu-Ya(アヤムヤ) 御徒町店」

 こちらはムスリムの方でいっぱいでした。家族連れだったり、観光客だったり。満員です。繁華街から少し離れた場所にあるお店ですが、近くにイスラム教の礼拝堂(モスク)もあるので人気のようです。日本人のお客さまもところどころに。ここも鶏白湯ラーメン。から揚げなどのサイドメニューも人気のようです。
 台東区はハラールの認証取得に助成金を出しているとのことで、区内にハラール認証のレストランやおみやげショップなどがたくさんあります。

(3)浅草「成田屋」

 浅草寺の裏手、花やしきに近い商店街の一角にあります。近くにホテルがあるのかもしれません。ひっきりなしに東南アジアのムスリム観光客と思われるお客さまが出入りします。
 ここは、ラーメン、まぜソバ、ごはんもの、餃子など多彩なメニューです。日本のおいしさがいろいろ楽しめるのが人気の理由のようです。入り口もかわら屋根に大きな木に墨文字漆塗りの看板。和風のイメージを大切にしています。

(4)新宿御苑前「桜花(おうか)」

 新宿御苑の駅から少し歩いたところにあるお店です。ここもお客さまはムスリム観光客。ラーメンにはちょっとした工夫がしてあります。注ぎ口のついたオリジナルの器に盛られてくるんです。説明を聞くと、最後にラーメンのスープでごはんをたべるとおいしいとのこと。少し濃厚なスープにライスがよく合います。
 ラーメンライスはヤンチャな食べ方だと思っていましたが、こうして食べるとオシャレです。アイデアですね。そのほか、鶏のサイドメニューなどにも「ナルホド」という工夫があって、食べて満足感があります。

恵比寿の「帆のる」、御徒町の「Ayamu-Ya」、浅草の「成田屋」、新宿御苑の「桜花」
恵比寿の「帆のる」、御徒町の「Ayamu-Ya」、浅草の「成田屋」、新宿御苑の「桜花」

3.お客さま(Customer):ムスリム観光客は増加中

 ハラール・ラーメンの主なお客さまはムスリム。日本政府観光局の調査ではインドネシア、マレーシアからの来日客は毎年増加しています。「日本食を食べてみたい」という方も多いようです。今後のハラール・ラーメンの需要が高まると思います。
 ハラールグルメジャパンというムスリム観光客向けの専門サイトもあります。ハラール・ラーメンのお店を検索すると32店でてきます。ラーメン以外の人気メニューは、焼肉、カレー、すし、天ぷらなど。ラーメンは手軽な価格となじみのある麺類であることから人気が高いようです。

来日するムスリム観光客の増加
インドネシア・マレーシアからの来日客は毎年増加/Webサイト ハラールグルメジャパンより

4.自社 (Company ):アルコールの売上げに代わる工夫が必要

 ハラール・ラーメンは、日本人のラーメン通なら一度は食べて「ハラール・ラーメンってさぁ…」と語りたいはず。というわけで日本人のお客さまも少し見込めます。しかし、ハラールのお店では、お客さまにお酒が出せません。おじさんが好きな「ビール、餃子、ラーメン」ができません。
 ビールやワインなどのアルコ―ルのドリンクメニューの販売は、原価率も低いためお店の利益に貢献します。一般のレストランのドリンク比率は20%、居酒屋では40%が理想的といわれています*。ラーメン店はドリンク比率はレストランより低いようですが、それでも販売できない影響は大きいと思います。詳しく存じあげませんが、客単価が低い可能性があります。
 そのために各店とも、サイドメニューやメニューのバリエーションなど、きめ細かな工夫で客単価をあげる工夫をされています。

*Webサイト「CASIO HANJYO TOWN」より

5.競合店(Competitor):日本のラーメン店と競合しない

 ターゲットがムスリムであることから、一般的なラーメン店とは競合しません。ラーメン市場のなかで独自市場でありニッチなポジショニングといえます。
 日本のラーメン市場は約4,400億円、店舗数は約1万5千店。外食市場では回転ずしが約6,100億円でトップ。ラーメン市場は、ハンバーガーに次ぐ3番目の大きな市場です*。しかもラーメン市場は少しづつですが成長しています。
 ラーメン市場では、マクドナルドのような巨大チェーン店はありません。幸楽苑が10%弱でシェアトップ。以下、日高屋などが続いています。リーダーもチャレンジャーもフォロワーもなく、まだ群雄割拠の状態といえると思います。大市場であることから、これからプレーヤーに大きな変化があるのかもしれません。しかし、ターゲットの違いから、このなかでハラール・ラーメンが大きく成長するとは考えにくい状況です。

*外食産業マーケティング便覧2017富士経済
日本のラーメン市場
ラーメン市場は堅調な成長/ラーメン市場ではまだ大手が存在しない

6.国内でのハラール・ラーメン市場の成長は厳しい?

 大雑把ですが、日本の人口ざっと1.2億人。日本のラーメン店は約1.5万店*1。1.2億/1.5万で1店あたり8,000人の商圏人口になります。
 一方、日本に住むムスリム教徒とムスリムの訪日旅行者数を年間に換算すると約14万人になります*2。さきほどのハラールグルメジャパンのサイトからハラール・ラーメン店数32店で計算すると、14万/32で約4,300人の商圏人口になります。
 簡単に結論を出してはいけませんが、8,000人対4,300人ということで、今後の東南アジアのムスリム観光客の増加を見込んでも大きく成長するのかは、やはり難しいかもしれません。やはりニッチな飲食店にとどまる可能性があります。

*1 外食産業マーケティング便覧2017 富士経済
*2 日本政府観光局(JNTO)の各国の訪日旅行者数データと
各国および各地域のムスリム人口比率をかけあわせると
ムスリム訪日旅行者は年間140万人と推定されます。
平均滞在日数は5.2日。日本人とあわせるため1年間にすると
140万人×5.2日/365日=約2万人。
これに日本のムスリム人比率0.1%、1.2億×0.001で約12万人。
合計14万人の計算です。あっていますかね(;’∀’)
各国の来日ムスリム観光客数(推定)

7.ハラール・ラーメンの成長モデル

 国内のハラール・ラーメンはやはりニッチ。ニッチな飲食店では「もうからない」とお考えの方も多いかと思います。しかし、マーケットを東南アジアでみるとどうでしょうか。インドネシア、マレーシア、シンガポールの3国のムスリム人口は約2.2億人。市場規模としていいかんじではありませんか。

 海外での人気日本コンテンツのラーメン。ハラール認証や調理の技術を高め、ブランドを築き、その後、この3国で展開できれば成長が期待できます。日本のラーメンという特殊技術による参入障壁で、当面は現地での競合は生まれないと思います。飲食なのでいつかはマネされるとは思いますが、日本でのブランド力と技術を高めることで大きなビジネスになる可能性があります。
 すでに「帆のる」さんではジャカルタに出店されています。先を読んでいますね。

インドネシア、マレーシア、シンガポールの3国でのムスリム人口は2.2億人
インドネシア、マレーシア、シンガポールの3国でのムスリム人口は2.2億人

8.まとめ。ニッチな飲食店のひとつの成長モデル

 ニッチな飲食店ビジネスは国内で考えるとニッチですが、仮に世界をマーケットにすることができれば、ニッチビジネスではなくなります。日本のハラール・ラーメン店さんが、技術やブランド力を高めて、やがて世界のブランドとして有名になることを期待しています。