1.綿密な計算で成功した2店舗展開

 イスラエル料理店「Ta-im(タイーム)」。ニッチなカテゴリーですが、恵比寿と丸の内で2店舗を展開。どちらも人気店です。ランチに伺いましたがどちらも満席。食レポのブログではありませんが「おいしい」です。

 2店とも立地にあわせたお客さまの見極めがとても良く、成功事例だと思います。この成功には、綿密に計算された戦略と、さらにその奥にあるイスラエル人らしい「失敗を恐れないことへの姿勢」があるのだと思います。

2.イスラエル人のためのお店

 本店は恵比寿と広尾のちょうど中間ぐらいの住宅街。カウンターがメインで席数は9席。ランチは外国人の女性でほぼいっぱい。皆さん、ご主人やスタッフの方とにぎやかにお話ししています。

 イスラエル料理店は、都内では他に江古田と三田にあるだけ。議論好きといわれるイスラエル人の交流の場としての意義が大きいのだと思います。

 イスラエル料理には、ユダヤ教独自の食事の規定である「コーシャ(Kosher)」があります。コーシャには原料・製造方法などに細かい決まり事があり、認証が必要*1。詳しくはわかりませんが、厳しく戒律を守るユダヤ系イスラエル人にとっては外食する場合に、安心して食事のできる専門レストランが必要なのかもしれません。イスラエル料理専門店というのは、日本に住むイスラエル人にとって大事な場所なのだと思います。

 

住宅街の一角、恵比寿の本店・二重橋スクエアの丸の内店・お持ち帰りメニューも人気

3.ニッチな飲食店の教科書のようなお店

 他のお店と競争せずに儲かるお店になるためには、マネされないことが必要。そのためにはマネされない独自技術があればよいわけです。コーシャには認証が必要で、イスラエル人以外でイスラエルレストランを開くのは事実上、難しいことだと思います。

 こうなると他のお店がこのカテゴリーに入れない「参入障壁」といえます。「タイーム」は、この参入障壁によって、近隣エリアでオンリーワンであり、ナンバーワンとなります。ニッチな飲食店のあり方として見本のようなお店です。

4.日本人のためのお店

 丸の内の新しいビル、二重橋スクエアの地下1階。こちらの「タイーム」は丸の内女子で、30席がほぼ満席。

 イスラエルへの日本人旅行者は2017年で約17,000人。中東地域の紛争報道も多く、日本人には観光はもちろん、料理としてもなじみがありません。基本的にイスラエル料理は日本国内ではニッチな市場ということです。そのままでは、たくさんのお客さまの支持はえられないと思います。

 このお店では、野菜中心で乳製品も使用しないビーガン料理のメニューや人気のイスラエルワインなどをアピール。健康に気を配り、知性豊かで好奇心いっぱい、ワイン好きの丸の内女子にはお気に入りのお店だと思います。ファサード、内装、壁面のデザインもシンプルでかわいくスマートです。

 ひよこ豆のコロッケ「ファラフェル」やひよこ豆のペースト「フムス」など初めてといえるメニューがいっぱい。友だちとの話題になったり、インスタにもアップしたりできそうです。価格設定も「う~ん」絶妙。

 おいしいし、人気店。しかし、なぜ恵比寿でわずか9席のお店が、丸の内の超ど真ん中に席数30のお店を出すことにしたのでしょうか。テナントとして要請されたとしても、それなりの目算がないかぎり、かなり勇気のいることではないでしょうか。

 

エルサレム市内・観光地の死海・日本からの渡航者は2017年に約17,000人

5.失敗を恐れずに挑戦する姿勢

 1948年建国のイスラエル。歴史を見ると、失敗を恐れずに、新しいことにチャレンジすることが必須のお国柄のようです。ベンチャーへの投資額や国民一人あたりの起業率の高さでは世界有数。スタートアップ・ネーションとも呼ばれています。イスラエル建国当初の厳しい状況のなかで「あえて何かを始めない限りは、問題が解決しない」ことを肌身で感じているのだと思います。

 現地では道端に「Enjoy your troubles, it’s life. 」と書かれているとのこと。失敗についても寛容で、ベンチャー投資家の発言として「12回目までは許す。13回目は本当の失敗」という記事も読みました*2。

 教育への投資は惜しまず、ノーベル賞の受賞者も世界で断トツに多いユダヤ系の人々。丸の内のお店も、数値的な計算も含めて綿密に計画し、戦略・戦術が練られ、そのうえで起業家精神を発揮してのオープンではないでしょうか。イスラエル人の生きる姿勢がすごいですね。ここから日本全国へ、あるいは世界への展開もあるのかもしれません。

 

人口は建国65年で約8倍868万人・一人あたりのGDPは世界26位・ナスダック上場企業は94社*3

 

<参考>
「知立国家イスラエル」米山伸郎著 文春新書刊
*1Webサイト 株式会社ヤマミズラ OU Kosher日本事務所・KLBDコーシャ日本事務所
*2Webサイトacademyhills 第2のシリコンバレー:イスラエル流・起業家マインドの鍛え方。榊原健太郎
*3ナスダック(NASDAQ)はアメリカ合衆国のベンチャー企業向けの株式市場