The marketing for niche restaurants

特定ニッチ飲食店構想:お寺や神社の危機脱出を「ニッチな飲食店」で考える

 3年続いたコロナ禍もあってなのか、お寺や神社は存続の危機のようです。このままでは日本の文化の危機にもなってしまいます。危機脱出の方法として「ニッチな飲食店」があります。「子どもだましだ」なんて言わないでください。いま増えている孤独感に悩む人びとを救えるかもしれません。

●お寺も神社も危機。回復のために「お客さまを創造する」

 宗教法人も信者数も減少の一途のようです。コロナ禍でお葬式は簡素化されました。初詣なども敬遠されました。少子高齢化で檀家や氏子も減少しています。お寺や神社の厳しい状況はあえて説明の必要はないかもしれません。
    
 檀家や氏子はマーケティングでは顧客です。顧客の減少は危機です。経営学の神さまドラッカーは「企業の目的の定義は一つしかない。それは顧客を創造することである」(『マネジメント‐基本と原則』)と言っています。
   
 マーケティングでも最初に考えるのは「お客さまはだれか?」です。新しいお客さまを獲得することを考えてみましょう。

宗教法人と信者数の推移
●現状を分析してみると、チャンスは「孤独化社会」

 「すぐに新しいお客さまが獲得できるなら苦労はないよ」ですね。とりあえずSWOT分析してみましょう。なにかいいアイデアが出てきそうです。
   
S(Strength):強み
 強みのひとつは歴史。お寺でも神社でも昨日、今日できたわけではありません。小さな神社でも「延喜式には…」などと由緒が書かれています。長い歴史は強みです。
   
 意外な強みとして敷地があります。境内には緑もあって、深呼吸したくなるような落ち着いた環境があります。
    
 「お寺や神社なら、来世の幸福とかご利益とかあるじゃん」。これは確実なことではないので、ひとまず置いておきましょう。
    
W(Weakness):弱み
 弱みは経済力です。江戸時代にキリシタンではないことを証明する寺請(てらうけ)制度、つまり檀家制度ができました。これによって経済的な基盤ができました。
   
 しかし、現代では核家族化、人の移動などによって檀家や氏子、つまりお客さまが減少。経済を維持できなくなっています。
   
O(Opportunity):機会
 社会状況としての機会、つまりチャンスは「孤独の増加」と考えます。2019年から家族世帯数よりも単独世帯数がもっとも多くなりました。孤独化が進んでいます。
  
 しかし孤独であることは問題ではありません。妻が外出した日の留守番はウキウキです。不安を感じる孤独感が問題です。
  
 人類は数百万年もの間、群れていることで安全を確保してきました。群れから離れると不安になります。これが孤独感です。孤独感は健康をそこねます。孤独感の解消は宗教にとって大きな機会といえます。
    
T(Threat):脅威
 マーケティングでは顧客の減少、市場規模の縮小は脅威です。日本は人口減少の国。お寺や神社を利用する人が減っています。さらに信心深い、つまり優良なお客さまである高齢者から先になくなっていきます。

●戦略は「飲食店でお客さまを増やそう」

 SWOTの強みと機会を生かしましょう。
    
 強みの敷地と機会の孤独の増加。これを生かす飲食店をつくります。唐突ではありません。かつては幼稚園や学校経営もしていましたね。飲食店によって多くの人が悩む「孤独感」の解消を図ります。詳しくは後述します。
    
 お寺や神社の飲食店は事例があります。築地本願寺「カフェTsumugi」、東京・神楽坂の赤城神社「あかぎカフェ」、東京・豊島区の金剛院「赤門テラスなゆた」などです。しかしお寺や神社の飲食店はまだ多くはありません。ニッチな飲食店です。
    
 大きな成功を収めているのは築地本願寺です。お寺さんらしく早朝8時から営業。モダンなレストランはお客さんでいっぱいです。小鉢など18品の華やかな朝食が人気です。
   
 ねらいはお客さまとの関係性を強めること。無料の「築地本願寺倶楽部」で会員募集。ネーミングがおもしろい「よろず僧談」、終活サポートや生きがいサポートなど「僧力」をあげて関係性を強めようとしています。
    
 日本有数のお寺なので、どのお寺でもとはいきませんが、とても参考になります。テレビでも紹介されたので、ご存じの方も多いと思います。

築地本願寺「カフェTsumugi」、赤城神社「あかぎカフェ」、金剛院の「赤門テラスなゆた」
築地本願寺「カフェTsumugi」、赤城神社「あかぎカフェ」、金剛院の「赤門テラスなゆた」
●獲得したいお客さまは「孤独感」を感じている人

 マーケティングで一番に考えることは「お客さまはだれなのか」です。お寺や神社なら「高齢者」が思い浮かびます。間違ってはいないと思います。
    
 しかし「孤独の増加」に焦点をあてるべきです。もはや一人の世帯数がもっとも多い時代です。悩みがあるときに話し相手になってくれる家族や世話焼きおばさんが近くにいません。
    
 ひとりは気楽なこともありますが、孤独感に襲われるとやっかいです。孤独感は「群れに帰れ」という本能のささやきです。孤独感による不安が大きくなると病気になってしまいます。
     
 英国でも日本でも孤独担当大臣ができたように、現代の社会では孤独は大きな問題。しかも孤独化は、これからもさらに進むはずです。
     
 お寺や神社のかかわりで孤独感の解消ができれば、お客さまを獲得できそうです。「孤独感」を感じている人がお客さまです。

世帯構造別にみた世帯数の構成割合の年次推移
●マーケティングの課題。「どうやってお客さまに来てもらうか」

 マーケティング・ミックス。4Pという視点で考えてみます。ニッチな飲食店には一般の飲食店とちょっと違ったマーケティングが必要です。
   
①製品(Product):いつも新しいメニュー
お寺なら精進料理、神社なら神饌(しんせん)料理です。しかしここでは、まずはお寺や神社に来てもらうことが優先しましょう。気軽なメニューにしたいですね。
   
 飲食店では新メニューでお客さまを呼びます。季節限定メニューも魅力的です。お客さまはお店からの新しいニュースに注目しています。
   
②場所(Place): 庭や境内の魅力
 お寺や神社の境内におしゃれなレストランができれば入ってみたくなります。店に入れば広い庭や本堂、社殿が見えます。一般の飲食店では到底考えられない魅力的な立地です。競争になりません。つまりニッチな飲食店です。
   
③価格(Price): 価格競争をしない
 ちょっと高めの価格でもお客さまは「このお庭があるなら納得」と言ってくれます。近所の飲食店との価格競争はしません。ニッチな飲食店は独自のポジションだからです。適正に利益のでる価格を設定します。
  
④プロモーション(Promotion):人と人との交流
 ニッチな飲食店では、ニッチな情報をもつシェフが集客のポイントになります。お寺や神社の飲食店なら住職や神職の方が店でお客さまと顔をあわせることです。店にだれがいるかはお客さまの関心事です。
   
 ホームページにプロフィールも出しておきましょう。「昔はチョット悪かった」みたいなコメントもいいですね。親近感がわきます。
  
 お寺や神社について話をする機会などを設けて、お客さまと、あるいはお客さま同士が親しくなれるような仕組みにしたいですね。これがプロモーションになります。

●まとめとして。社会の悩み「孤独感」をいやすことで永続化させる

 大昔、ケガや病気は神さまや仏さまに祈ることでしか解決できませんでした。現在は医学で解決できます。しかし、現代の悩み孤独感は医学では解決できません。
    
 個人が中心の社会になり、これからさらに一人で生活する人が増えていきます。孤独は社会全体に広がっていき、孤独感に悩む人も増えていきます。
   
 お寺や神社の飲食店に集う人たちが、緑いっぱいの庭をみながら、ゆるいコミュニティをつくることができれば孤独感がいやされます。さらに、そこで互いに手を差し伸べあうことができれば孤独感から救われることになります。
   
 お寺や神社の飲食店は一般の飲食店とは違います。個人化する社会の悩み、孤独感をもつ人びとの手助けをすることができれば、お寺や神社の永続化につながるはずです。

                   
 

 先日、神社にうかがったときに、お賽銭をしようと思って財布をみたら10円玉が2枚しかありませんでした。千円札はあったのですが…。ゴメンなさい。

<参考文献>
『週刊東洋経済2023年6月号10日号 宗教消滅危機』東洋経済新報社
文化庁『宗教年鑑』
ピーター・F・ドラッカー/上田 惇訳『マネジメント-基本と原則』ダイヤモンド社 2001
安永雄彦『築地本願寺の経営学‐ビジネスマン僧侶にまなぶ常識を超えるマーケティング』東洋経済新報社 2020
島田裕巳『捨てられる宗教 葬式・墓・戒名を捨てた日本人の末路』SB新書 2020
ジョン・T・カシオポ&ウィリアム・パトリック/柴田裕之訳『孤独の科学-人はなぜ寂しくなるのか』河出書房新社 2010

2023年7月17日掲載 2024年6月14日改稿

健康ニッチ飲食店構想の概論:健康食品があるのに「健康飲食店」がない

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