The marketing for niche restaurants

地域ニッチ飲食店の予測:移民による食文化の力。ペルー発の「日系料理」

 南米のペルーが注目されています。あまり知られていませんが、ペルーは世界でも指折りの美食の国です。とくにペルーの「日系料理」。これからブレークするかもしれません。
 
 要因のひとつは多様な移民たちの食文化。実は日本もすでに移民の国になっています。このことを意識すると日本の「美食力」もさらに強くなるはずです。

●美食大国ペルーの代表「日系料理」。日系移民たちの活躍

 ペルーと言えばインカ帝国、マチュピチュ、フジモリ元大統領などが思い浮かびますね。飲食の世界では「美食大国」としても有名です。
   
 英国の料理雑誌が主催する「世界のベストレストラン50」のトップ10にはペルーのレストラン「マイド(Maido)」や「セントラル(Central Restaurante)」などが常連です。
   
 「マイド」はその名前からわかるように日系三世のミツハル・ツムラのレストランです。ペルーでは日本料理とペルー料理をミックスした「日系料理」というカテゴリーができています。
   
 ペルーの食材は多彩です。アンデス原産のジャガイモや唐辛子、暖流と寒流がぶつかる豊かな漁場の魚介類、アマゾンのさまざまな野菜や果物などです。
   
 また食文化も多様です。16世紀に征服者としてやってきたスペイン人、その後の農園労働のために奴隷としてやってきたアフリカ人、さらに19世紀末には中国人や日本人が移民としてやってきました。
  
 ペルーの豊かな食材と世界の国からきた人たちの食文化が融合。現代となって「美食の国」が誕生しました。とくに日本からの移民の三世たちが料理界で活躍。「美食の国ペルー」に貢献しています。

●各国料理は現地化がポイント。完成されている「日系料理」

 日本で人気になるためには工夫が必要です。出身国のレシピのままでは受け入れられません。日本人向けにアレンジする必要があります。現地化(ローカライズ)です。ここが人気料理になるためのポイントです。
  
 戦後すぐに中国から日本にやってきた「四川飯店」の陳建民。とっても辛い四川料理を日本人向けにアレンジ。麻婆豆腐、海老チリソース、回鍋肉、担担麵などのメニューをつくりました。いまや日本の中華料理の偉大な定番メニューです。本国の味を日本人の好みにあわせたことが成功の要因です。
   
 ペルーの日系料理はすでにこの問題をクリアしています。日系人がつくった料理だからです。
  
 調味料はペルーお得意の唐辛子やレモン。これに日本のしょうゆ、わさび、みそ、柚子胡椒などを合わせています。
   
 刺身をスパイシーソースで食べる「ティラディート」、クリームチーズで食べる巻きずし「マキ・アセビチャード」など。想像できる味と想像できない味があり興味をそそられますね。
  
 世界的にも認められている「日系料理」。大きな潜在力があります。もし日本にやってきたら爆発的なヒットになるかもしれません。

●ピザもフライドチキンも移民の独立心から

 移民大国のアメリカ。食文化でも移民たちが活躍しました。移民たちの食文化はアメリカの大きなビジネスにつながっています。
  
 フライドチキンはアメリカ南部のケイジャン料理。植民地時代のフランスとアフリカの食文化が融合してできあがりました。
  
 ピザはイタリア移民がアメリカに広げました。もともとはナポリの地方料理。ピザが好きになったアメリカ人がイタリアの観光地で「食べたい」と注文することから、イタリア全土にピザが広がったとも言われています。ピザのチェーン店やデリバリービジネスもアメリカで生まれて世界に広がりました。
  
 ファストフードの王者、ハンバーガーもドイツ移民たちの郷土料理ハンバーグから発展しました。マクドナルドは伝説の経営者レイ・クロックがフランチャイズ・システムを開発し、世界的なビジネスとなりました。
  
 移民たちは雇われて働くことよりも独立して成功することを望みます。家族や同郷の人たちの力を借りて飲食店や小売店などからビジネスをはじめます。「国を出て新天地で成功したい」というバイタリティがあります。
   
 世界で共通する移民たちの姿です。移民のもつ民族性は飲食の世界では大きな競争力です。移民たちの力が大きな食ビジネスの道を開くということです。

●日本の人口の3%が移民。移民の食文化を活かしたい

 日本にやって来る移民も増えています。移民に正確な定義はありません。なので、日本では移民とは言わずに在留外国人などとしています。日本にいる在留外国人は約288万人(法務省2020年12月)。日本の人口1億2,600万人の約2%です。
  
 さらに、永住権のある人、すでに日本国籍を取得した人もいます。移民事情の研究家の望月雄大の『ふたつの日本「移民国家」の建前と現実』によると、これらの人たちを含めると日本の人口の3%程度、約400万人が移民と言えるようです。
   
 移民の国はアメリカだけではありません。毎年、多くの外国人が入国するドイツでは、すでに移民と移民の子孫が全人口の2割を超えているようです。
   
 海外からやってくる外国人には難民となってくる人たちもいます。日本ではほぼ認められないことから悲劇も生まれています。また、技能実習生でやってきた人の中にも契約違反や人権侵害などで苦しんでいる人たちもいます。世界では移民の排斥が政治的に利用されています。
   
 移民や難民については後ろ向きの日本。しかし、食文化や食のビジネスを発展させるという面では、むしろ前向きに考えることでいい結果がでるはずです。これから日本発で回転ずしやハンバーガーを越えるようなビッグビジネスが生まれるかもしれません。

●日系料理店。ペルー移民の子孫たちが活躍するお店に

 ペルー移民。日系料理をつくった日系三世の祖父たちです。1899年から1923年までに、契約農民として1万8,000人以上がペルーに渡りました。
   
 第1便にのったのは790人。1年で約15%、124人が亡くなるという厳しい状況で働きました。スペイン語がわからない、医療体制がない、契約と違う、さらに日本人排斥運動など苦難の連続でした。想像もできない苦労を味わったのだと思います。
  
 現在、ペルーに住む日系人は約10万人と言われています。日本にいる日系ペルー人は約4万8,000人。この数の多さ。考えさせられます。
    
 ペルーに渡り苦しみ味わい、その後に永住した人たちの子孫です。二重の移民です。その人たちが日本に来て、また同じ苦しみとならないように期待したいものです。
   
 まだ知られていない美食の国ペルー発の「日系料理」。日本でブームを起こし、根づくことを期待します。移民たちはやがて独立して自分の店や会社を持つことが夢です。何年後かに、日系の三世、四世たちが日本で人気となった日系料理の店で活躍する姿を見たいと思います。

国籍別在留外国人

<参考文献>
ルイス・ハラ『日系料理 和食の新しいスタイル』エクスナレッジ 2017
ダナ・R・ガバッチア『アメリカ食文化―味覚の境界線を越えて』青土社 2003
室橋裕和『日本の異国: 在日外国人の知られざる日常』晶文社 2019
望月雄大『ふたつの日本「移民国家」の建前と現実』講談社現代新書 2019
NHK取材班『データでよみとく外国人“依存”ニッポン』光文社新書 2019
アメリア・モリモト/今 防人訳『ペルーの日系人移民』日本評論社 1992

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