このページでは、これから出現すると予測できるニッチな飲食店についてお話しします。8つのカテゴリーに分類しています。分類については別ページをご覧ください。予測の具体例は、このページ以降のページをご覧ください。
時間は超えることができない。一度つくりあげた競争力は崩れない
時間ニッチの飲食店とは、元祖メニューの店・老舗飲食店・レトロ飲食店などです。過去を資産とする飲食店です。「時間」という競争力があります。他の店があとからやって来ても追い越されることがありません。
1.市場はあるのか:つくることは難しい。できあがると価値がある
元祖メニューの店・老舗飲食店・レトロ飲食店の市場は大きくはありません。成長することもありませんが減少することもありません。ときに閉店することがあります。しかし、その次の古い店が入れ替わるだけです。
●時間は究極の競争力。お店はすぐにつくれない
元祖メニューの店と言われるには、そのメニューが世間に行きわたるまでは認めてもらえません。元祖メニューの店を丹念に取材した菊地武顕の『あのメニューが生まれた店』でも紹介されている店は約50店しかありません。「元祖メニュー」の店となるとお客さまがやってきてくれます。
老舗飲食店と言われるためには100年ではまだまだです。100年以上の老舗を探訪するWebサイト『老舗食堂』によると、東京では150年以上昔の明治以前創業の飲食店が約30店あります。調べていませんが京都や大阪には相当数の老舗飲食店があると思います。
レトロな飲食店に定義はなく、主観になるのでたくさんあるかもしれません。それでもレトロな飲食店と言われるためには、お店のたたずまいにも古い雰囲気などが必要です。カンタンにはつくれないでしょう。時間がかかります。だから競争力があります。
時間ニッチの飲食店は一度できあがると他の店ではマネができません。時間をさかのぼることができないからです。だれにも負けないポジションになります。ニッチな飲食店のひとつの理想的な姿です。
2.顧客はだれなのか:一定年齢になると「過去」はおいしさのひとつ
時間ニッチの飲食店は年齢が高くなると必要になってくる飲食店のです。いつの時代でも過去をなつかしむ人が一定数で存在します。お客さまは毎年消えていき、そして生まれてきます。
●お客さまを発達心理学で考える
元祖メニューの店・老舗飲食店・レトロ飲食店に集まるお客さまは、比較的年齢が高い傾向にあるようです。年齢が高くなるほど、なつかしいお店が好きになるのはなぜでしょうか。
発達心理学者のエリク・H・エリクソンは、人には幼児期から高齢期まで8つの発達段階があると言っています。8つの最後の段階にあたる高齢期とはおよそ60代以上です。エリクソンは、この時期の課題を「統合対絶望」としています。
人生の終盤になると、人は自分の過去との折り合いをつける必要がでてきます。「過去に辛かった出来事がいまの自分をつくったんだ」という肯定感が必要になってきます。そうでないと悔いたまま死ぬことになります。「絶望」につながってしまいます。やりなおす時間がないからです。
過去を思い出し、意義あるものと確認して、現在と残された未来を「統合」することが必要です。これによって心の平穏を保つことができます。
認知症の高齢者の療法にも過去を思い出す回想法があります。過去を思い出すことによって、人との交流が増えるなど、改善の効果があるようです。
高齢になるほど過去が懐かしく恋しくなります。私もそうだと感じますが、過去の記憶を少しずつ都合の良いように美しく書き換えています。「あれで良かったんだ。あのころが良かったんだ」。
●過去を楽しむことがおいしさになる
時間ニッチの飲食店では料理だけでなく回想を誘う装置も必要ですね。店の外観、店内のつくり、昔の本や雑誌なども役にたつと思います。お客さまが少しの間、過去を楽しめるような空間をつくることができれば人気のお店になりそうです。
ここに来るお客さまは1年ずつ減っていきます。来ることができなくなるからです。同じように、未来のお客さまが毎年生まれてきます。お客さま全体が急に増えることはありません。急に減ることもありません。
ということで、過去という時間の概念を使うことで、高年齢の人をお客さまにすることができます。発達心理学の考え方を利用したニッチな飲食店ビジネスと言えそうです。
<参考文献>
菊池武顕 『あのメニューが生まれた店』 平凡社 2013
難波里奈『純喫茶へ、1000軒』アスペクト 2015
佐藤眞一/権藤恭之『よくわかる高齢者心理学』ミネルヴァ書房 2016
2022年6月3日掲載 2024年6月14日改稿