このページでは、これから出現すると予測できるニッチな飲食店についてお話しします。8つのカテゴリーに分類しています。分類については別ページをご覧ください。予測の具体例は、このページ以降のページをご覧ください。
飲食店ビジネスが生理的欲求を満たした後に向かう「愛好」市場。主役はオタク
マズローの5段階欲求説では生理的欲求のあと、安全の欲求、所属と愛の欲求、承認の欲求へと続き、最後に自己実現の欲求となります。
食べること、つまり空腹を満たすことは生理的欲求です。飢餓に苦しむ人がいない現在の日本。ほぼ生理的欲求は満たされたと言っていいでしょう。飲食店ビジネスも次の段階に進むことになるはずです。
ここでの「愛好」とは「所属と愛の欲求」「承認欲求」にあたるものです。つまり食べることで自分自身を確かめることです。
1.市場はあるのか:「愛好」の市場は70兆円の余暇活動市場
愛好の市場は余暇活動市場です。余暇はレジャーとも言いますね。仕事を離れ、自分の好きな世界に入り心と身体を休めることです。さらに、それによって新しい自分を見つけることもあります。余暇活動の市場規模は70兆円にもなります。ここに愛好の飲食店ビジネスが入ることになります。
●余暇活動とは4つ。スポーツ、趣味、娯楽、観光
『レジャー白書』(日本生産性本部)によると余暇活動は大きくは4つのカテゴリーに分類されます。スポーツ、趣味・創作(映画や音楽など)、娯楽(ギャンブルや外食など)、観光・行楽(旅行や遊園地など)などです。
市場規模は約70兆円。大きな市場です。1996年のピーク時には90兆円を超えていました。日本の経済を反映しているのか、ここのところやや元気がありません。それでも外食市場約25兆円に比べると巨大な市場です。
●余暇活動の飲食店ビジネスはニッチな飲食店
マズローの学説は心理学です。したがって科学的に証明されているものではありません。しかし、これを信じるなら生理的欲求以降の「所属と愛の欲求」「承認欲求」に関する飲食店ビジネスにチャンスが生まれるはずです。
余暇に関する飲食店ビジネスは、まだカテゴリーとして存在していません。それでもすでにいくつかが実現されていると思います。
ネコなどの動物好きが集まるカフェ、アニメファンのためのレストラン、プロ野球の特定のチームを応援する居酒屋、忍者レストランのような観光客のためのエンタメレストランなどがその例だと思います。ニッチな飲食店です。
2.顧客はだれなのか:オタクです!
顧客は、この余暇活動に参加する人びとです。となると日本に住むほぼすべての人になってしまいます。それではターゲットと言えないので、ここではアニメやマンガなどのオタクに注目しています。
●オタクは収集・共感・創造とこだわり
オタクには明確な定義がありません。一般的にアニメ、マンガ、アイドル、ゲームなどに興味をもつヒトをオタクと呼んでいます。また、鉄道、カメラ、自転車などが好きな人もオタクと言われますね。
自己紹介で「文房具オタクです」と言っても、もはやかつてのような違和感はありません。自分がとくに好きなことがあれば、それは「オタク」です。
共通することは、収集すること、共感すること、そこからなにかを創作することです。ガンダムのフィギアを収集したり、アイドルのファンクラブイベントに参加したり、コスプレしたり同人誌をつくったりしますね。
趣味でも同じようなことをしています。少し違うのはこだわりの強さです。そばで見ていて「こだわりがスゴイ」と思えば、その人をオタクと呼びます。自分でも「こだわっている」と思えば「私はオタク」でいいと思います。
●成長を続ける日本のオタク産業
1970年代からはじまったアニメブームあたりからオタク市場がはじまりました。ガンダム、エヴァンゲリオン、ポケモン…。「ももクロも入れてくれ」。「ハイ」。オタク市場は人気キャラクターの出現で急成長しました。
オタクの定義はないので市場規模は測れません。たとえば、ひとつの例としてデジタルコンテンツ市場は約13兆円となっています(経済産業省『2020年デジタルコンテンツ白書』)。カテゴリーはマンガ、アニメ、映画、音楽、ゲーム、ライブエンタメなどです。
象徴的なコンテンツとしてアニメ市場を見てみます。2兆5千億円を超える市場になっています。テレビや映画だけでなく商品化ビジネスや海外市場までも含めた広義のアニメ産業市場です。ときにマイナス成長があっても長期的に見ると大きく成長しています。
●オタックをSWOT分析する。強みは強固なファン層
SWOT分析は、自身の強み・弱み、外部から見た機会・脅威の4つの面からビジネスとして分析するものです。
強みは、なんといっても強固なファン層です。しっかりとした顧客の存在はビジネスにとって魅力的です。
弱みは、飲食につながるイメージが少ないことです。未来社会やロボットアニメのキャラクターと飲食はなかなか結びつきません。ここは後述します。
機会は、アニメに見られるように市場の大きさと成長力です。主な収益源は商品化ビジネスです。フィギュア、ぬいぐるみなどのキャラクターグッズなどの販売のことです。
脅威は、人気の浮き沈み。みんなが「大好き」といったのに、あっという間に消えていってしまったものもたくさんありますね。ここのコントロールは難しいものと思います。
●オタク市場と飲食店は結びつくのか、つかないのか
前述のアニメ産業のジャンル別の売上高を見てみます。
2019年の市場規模は約2兆5,000億円。そのうち48%、1兆2,000億円が海外でした。次いで商品化で23%、5,800億円となっています。以下パチンコ台などの遊興が13%、3,200億円と続きます。
海外は、映像、ゲームなどさまざまなジャンルが一括して集計されています。実質的に市場の屋台骨をささえているのは商品化ビジネス、つまりキャラクターグッズなどの物販です。キャラクターグッズは大事です。昔、ディズニーランドで買ったミッキーマウスの目覚まし時計は、壊れてしまっても捨てられません。
でも、そもそもアニメなどのオタク市場と飲食店ビジネス、あまりなじみがありません。飲食店ビジネスとしてないのかもしれません。しかし、あるのかもしれません。
市場としてあるかないか。ここで、別ページで紹介したコトラーの「裸足の国で靴を売る」のお話しをご覧ください。その国の人が靴をはいているのか、いないのかだけでは、靴が売れるかは判断できません。市場があるかないかは、しっかりとマーケティングしてみてからということになります。
当企画室では、ここについて将来性があると考えています。いまのところマズローの学説について大きな反論がないからです。具体的な予測例については以下に続くページをご覧ください。
<参考文献>
A.H.マズロー『人間性の心理学-モチベーションとパーソナリティ』産業能率大学出版部 2011
フランク・ゴーブル『マズローの心理学』産業能率大学出版部 2011
野村総合研究所オタク市場予測チーム『オタク市場の研究』東洋経済新報社 2005
中山淳雄『オタク経済圏創世記』日経BP 2019
一般社団法人日本動画協会『アニメ産業レポート2020サマリー』2020
経済産業省 商務情報政策局『デジタルコンテンツ白書2020』2020
2022年6月2日掲載 2024年6月13日改稿