ていねいなサービスをしない友だち対応の飲食店です。飲食サービス業は儲からないビジネスの筆頭です。特に個人の飲食店は外食チェーン店と同じようなサービスをする余裕はありません。お客さまが友だちなら「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」「またご利用くださいませ」は不要です。サービスを見直して、新しいメニューをつくり、儲かるビジネスを目指しましょう。

●日本でもっとも稼げない業種なのに、無料のサービスもする

 「お客さまは神さま」は大手の外食チェーン店の仕事です。外食チェーン店のメニューはハンバーガー、カレー、ラーメン、牛丼…、どこも同じようです。
    
 コモディティ化ともいいます。同じようなメニューならば、サービスでがんばらないとよそに負けてしまうからサービスをしています。
    
 「いらっしゃいませ」から豪華なメニューブック。ポイントカードにキャンペーン。かわいいユニフォーム。そして水も無料でスマイルもゼロ円です。大変な費用がかかります。
    
 こんなにやっても飲食サービス業は日本でもっとも生産性が低い、つまり儲けが少ない業種です。しかもダントツのビリです。
   
 外食チェーン店でさえも儲からないなら、個人の飲食店では「お客さまは神さま」などとサービスをしている場合ではないはずです。どうやって稼ぎを増やすかを考えるべきです。

飲食サービス業の労働生産性
●サービスしたら、かえって売上げが落ちる

 「サービス・マーケティング」という研究があります。
    
 従業員が「この店はいい店だ。この店のためにがんばろう」と思うようになると、お客さまに心のこもったサービスができる。すると、お客さまが「この店は良かった。また来よう」と思う。そうなると店の売上が増加するということです。
    
 従業員満足度の向上で顧客満足度が向上、やがて売上も増加という理論です。
   
 では現実の飲食店の従業員は満足しているのでしょうか。ほど遠いはずです。地球と冥王星ほどの遠さか、それ以上でしょう。
   
 給与が低い、重労働、拘束時間が長い、職場環境が劣悪…。アルバイトも集まりません。この状況でサービスとなると従業員への負担が大きくなります。ただでさえ忙しいのに、さらに忙しくなります。
    
 こうなると不機嫌です。表情も暗くなります。「サービス・マーケティング」の理論が逆回転。従業員が不機嫌になる。接客が悪くなる。お客さまが減少。売上も減少。店長が不機嫌。従業員はさらに不機嫌…。負のスパイラルです。
    
 個人の飲食店のサービスはどこまで必要なのか。考え直すべきではないでしょうか。

●お客さまは神さまじゃない。誤解しているだけ

 「お客さまは神さまです」。この言葉の元になった三波春夫さん(故人)の事務所から「お客様は神様について」というコメントが出ています。真意とは違う意味で使われていると言っています。

「三波春夫」といえば、『お客様は神様です』というフレーズがすぐに思い浮かぶ方が少なくないようです。印象強くご記憶いただいていることを有難く存じます。
 ですが、このフレーズが真意とは違う意味に捉えられたり使われたりしていることが多くございますので、ここにちょっとお伝えさせて頂きます。
 三波本人が生前にインタビューなどでこのフレーズの意味を尋ねられたとき、こう答えておりました。
 『歌う時に私は、あたかも神前で祈るときのように、雑念を払ってまっさらな、澄み切った心にならなければ完璧な藝をお見せすることはできないと思っております。ですから、お客様を神様とみて、歌を唄うのです。また、演者にとってお客様を歓ばせるということは絶対条件です。ですからお客様は絶対者、神様なのです』(中略)
「お客様は神だから徹底的に大事にして媚びなさい。何をされようが我慢して尽くしなさい」などと発想、発言したことはまったくありません。

 お笑い芸人などによって「お客さまは神さまです」という言葉がおもしろおかしく伝わってしまいました。
    
 「お金を払う客は神さま。だから要求に応えるべき」ということではありません。「お客さまは神さま」は誤解されています。お客さまについて考え直すべきです。

●サービス料金を請求しないなら、お客さまはパートナー

 高級なレストランの会計には「サービス料」がついてきます。サービスしています。一方で一般の飲食店はサービス料金をもらいません。
    
 飲食店は食材費、家賃、人件費で約70%、経費などが20%で残り10%程度が利益というのが一般論です。東京など競争も激しく賃料や人件費がかかるところではもっと低いと思われます。
   
 個人の飲食店は料理を一生懸命つくって、それに見合ったお金をいただくわけです。お金は提供する料理の対価です。お金にはならないサービスで利益を減らしています。
   
 お金を払うからお客さまが「偉い」という誤解も広まってしまいました。500円の持ち帰りの弁当に箸が入っていなかったと文句をいうお客さまのために、遠くまで箸をもっていき、謝罪までします。
    
 食事を提供して、それに対してお金をもらう。お客さまと店は対等な立場です。互いの便益を求めるパートナーです。お客さまとの関係性を考え直すべきです。

●サービスなしでもイケてる3つの事例。事前の了解が原則

 サービスがないとお客さまが来なくなっちゃうと心配ですね。安心してください。サービスの少ない店、ちゃんとあります。
   
(1)奴隷ではない宣言の居酒屋。お客さまは認識
 2018年にネットで話題になったのでご存じの方もいると思います。神田の居酒屋「コンロ家」さんです。
    
 <「おい、生ビール」…1,000円(税別)…。「すいません。生一つください」…定価。「お客様は神様ではありません。また、当店のスタッフはお客様の奴隷ではありません。当店にとって一人一人が大切な奴隷(取消二重線)宝物なのです。皆様のご理解とご協力をお願いいたします。>という告知です。
   
 ネットで好意的に炎上してお客さまがたくさん来たことから、セルフサービス型に転換しました。店のお客さまは自発的に自分でビールを注いだり、ハイボールをつくったりします。
   
 この告知で店の考え方を理解したようです。サービスを減らしていますが、フレンドリーなお客さまがたくさん来店しています。
    
(2)学生食堂。最初からサービスは求めない
 メニューはカレー、ラーメンなどにいくつかの定食。おいしさ優先ではなく、ボリュームと価格とスピードです。カウンターに出てきたものを受け取り、食べ終わったら片付けます。お茶も水も自分で注ぎます。
    
 ビジネスとして成立しないかというと、そんなこともありません。地の利を生かして一般客を入れたりもしています。
   
 学生食堂の悪口は、あまり聞いたことがありません。サービスに対して期待値が低いからです。利用者はサービスがないことに十分に納得して来店します。
    
(3)銀座の高級鮨店。サービスはサービスの価値低下
 銀座の鮨屋については書けるほどの経験がありません。経営学者の山内 裕(ゆたか)さんの『「闘争」としてのサービス』からです。
  
 サービスとは「闘い」と言っています。詳しくは書籍をご覧ください。ここでは「著者からのメッセージ」を引用します。   

◇東京の鮨屋で表情を変えない親方を前に緊張しながら注文する客。
(中略)笑顔でフレンドリーに、顧客のために顧客ニーズを充たそうとするサービスは結果的にサービスの価値を低下させてしまいます。
 サービスは客のニーズを充たすのではなく、客を否定するところから始まります。サービスは高級になるほど、いわゆる「サービス」が減少します。

 ミシュラン三つ星の鮨屋。ピリピリとした雰囲気のする親方と来店客。一般の飲食店のような目に見えるサービスはなさそうです。どちらかというと親方が偉くなっています。でもお客さまは喜んでいます。そして繁盛店です。サービスが少なくても大丈夫そうです。
  
 3つの事例でわかるのは、事前にお客さまがサービスのないことを知っていることです。わかっているので問題がないのです。サービスをなくす、少なくするなら事前の「仕組み化」がポイントのようです。

コンロ家、学生食堂、銀座の鮨屋(イメージ)
コンロ家、学生食堂、銀座の鮨屋(イメージ)
●「お客さまは神さまじゃない友だちだ」宣言の飲食店

 サービスのない店に、いきなり入ったらびっくりです。しかし、あらかじめサービスがないことを知らせておけば問題はありません。
    
(1)店名で知らせる。「友だちの家の台所」
 まずは店の名前です。店名でサービスがないことがわかればお客さまは納得して入ります。ここでは仮に「サービスのない飲食店 友だちの家の台所」としました。
    
 飲食店にとって店の名前は重要です。一度で特徴が理解できて、すぐに記憶できる名前が必要です。ユニークな店名なら広告にもなります。
  
 友だちの家にごはんを食べに来たら「よぉ」ですね。「冷たいものが冷蔵庫にあるから勝手にだして。グラスはそこ」。食べ終わったら、いっしょに皿まで洗いこともあるでしょう。
  
 友だちの家の台所のような店であることを店名でわかってもらいましょう。

(2)ルール(利用規約)をわかりやすく
 ルールがわからないと心配で店には入れません。<水とおしぼりは自分で><注文はカウンターで>など、明示しておかないと友だちでも入ってもらえません。店内やホームページにもわかりやすく説明しておきましょう。
  
 これを書いていて気が付いたことがあります。飲食店の「利用規約」です。
   
 航空会社、ホテル、タクシー、などサービス業の会社には利用規約があります。これがないとサービスの基準がわからなくなりトラブルになってしまうからです。
  

 サービス業の代表の飲食店にはあまりこれがありません。規模が小さいので当然かもしれません。
   
 探したらホテルの飲食店のものが見つかりました。目的は「反社会勢力」の排除、予約キャンセルの対処、そしてクレーム対策です。
  
 これからの飲食店には必要ですね。特にサービスしない店なら利用規約をつくっておくのが賢明だと思います。

●友だちたくさん作戦で売上アップ

 サービスしないばかりでは、お客さまに来てもらえません。友だちなら友だちをたくさんつくりましょう。
  
(1)自己紹介
 転校生がきたら注目は自己紹介ですね。店のメンバーの自己紹介をしましょう。ホームページだけでなく店内にパネルで顔写真、手書きの自己紹介文、できれば心が真っ白だった幼稚園のころの写真とか、ヤンチャだった中学生のころの写真とかも見せたいですね。
   
 趣味、特技はもちろんです。趣味が同じならすぐに友だちになれます。個人情報に厳しい時代です。しかし自分のことを知らせることによってお客さまの信頼も得られます。
  
(2)交換日記
 仲良しなら「交換日記」もいいですね。店のニュースや好きなドラマの話、あんなこと、こんなこと。SNSやブログもいいですが、手書きの日記帳を店に置きます。
   
 1行でも2行でもよさそうです。お客さまにも書いてもらえるかもしれません。友だちが増えます。
   
(3)いっしょに遊ぶ
 友だちならいっしょに遊びます。たとえば店のイベントです。クリスマス、ひな祭り…みんなが楽しめる企画です。友だちの輪が広がります。

●まとめとして。サービスを減らして新メニュー開発を

 サービスしないことによって生まれる時間で新しいメニューを開発しましょう。
   
 新メニューの提供は飲食店の切り札、キラーコンテンツです。企業であればイノベーションです。
   
 しかし新メニューづくりは大変です。いつも考えて試し続けなければなりません。時間がかかります。
   
 メニューのオリジナル性が高ければ「元祖」の店になれます。元祖になれば、ほかの店がマネしても勝てません。
    
 元祖メニューの店にはお客さまが「ぜひ一度」とやってきます。永遠の繁盛店になれます。ニッチな飲食店のひとつの目標です。
    
 サービスを見直して、新メニューをつくりましょう。新メニューによって生産性が低い、儲からないビジネスから脱却しましょう。

            
 銀座のミシュラン三つ星鮨屋さん。今回、たくさん勉強させていただきました。お店訪問の準備は完了です。しかし難しいかもしれません。絵に描いた餅、畳の上の水練、机上の空論…。ほかには? 砂上の楼閣…、蜃気楼…。どんだけ?

<参考文献>
フィリップ・コトラー、トーマス・ヘイズ、ポール・ブルーム『コトラーのプロフェショナル・サービス・マーケティング』ピアソン・エデュケーション 2002
三波春夫オフィシャルサイト「お客様は神様です」について 
https://www.minamiharuo.jp/profile/index2.html
山内 裕『「闘争」としてのサービス 顧客インタラクションの研究』中央経済社2015
京王プラザホテル 飲食店利用規約 https://www.keioplaza.co.jp/img/restaurant_agreement.pdf