書評です。『しょぼい喫茶店の本』(池田達也、百万年書房)についてです。

 これが「しょぼく」ないんです。大学は卒業したが一生懸命には働きたくない若者。わかるなぁ。その著者が自力で「しょぼい喫茶店」をはじめる話です。

 都心から離れた駅。2階の居ぬき店舗。手書きのカンバンなど…。山あり谷ありの物語。「そうかぁ…しょぼいんだ…」と一度本を閉じました。が。あれ?もしかしたらと思い、再読。これがスゴイんです。マーケティングとして完璧ともいえる仕上がり…。

①SNSマーケティング

Twitterで資金集め、スタッフ募集、話題性でシェアとフォロワー獲得。フェイスブックでもシェア。さらにアマゾンの欲しいものリスト、noteの有料ブログ、クラウドファンディングなど無料で使えるSNSのツールをフル活用しています。

②ブランディング

店名「しょぼい喫茶店」。それを段ボールに殴り書きしてカンバンに。手作りの内装…。意図したのか意図していないのかわかりません。しかし、結果的には一貫しています。立派なブランドです。

③コンテンツ・マーケティング

コンテンツというとわかりにくいかもしれません。要は中身です。自身やお店のことでお客さまと交流しています。特にこの「本」です。就活に悩むところから起業、開店、開店後のさまざまなことが書かれています。人気本ですね。
物語が優れています。失敗からはじまり、やがて旅(SNSなど)に出ます。そこで旅の仲間を見つけます。武器(資金やスタッフ)を獲得します。主人公の熱意に多くの仲間が集まります。そして勝利(開店)。RPGのストーリーと同じ構成要素です。上手にストーリーが書けています。
出版によって有名になりました。新聞に書評もでました。こんな風に生きたいと思う人にはバイブルです。これがコンテンツ・マーケティングです。

 本では自然に、ナリユキでこうなったように書かれています。しかし、マーケティングという視点で読むと恐ろしいほどの高い技術です。ところが、コロナ禍のはじまりのころの4月に閉店とのこと。行ってみたかったのにです。「しょぼい喫茶店はやはりダメだったのか」と…。いやいや、ここまでの経緯を考えるとそんなことではないはずです。

 本だけでは見えてこないものがあります。「使命」です。アメリカの人はミッションといいます(^_^)。難しくいってます。つまり、心のなかにある「やりたいこと」です。おそらく著者はなんらかの使命を認識しているはずです。だから「コロナ→すぐ閉店」ができたのだと思います。いま、使命は見えていません。次のときには面白いものを見せてくれるのかもしれません。

 脱帽すべきマーケティング戦略。「しょぼい」といわれて「しょぼい」と思ってしまった私。前からそう思っていましたが「やっぱり俺はショボイ」(^_^)。

しょぼい喫茶店の本