(はず)って気弱。断言したいのですが、山梨県の田舎生まれでいつもモジモジタイプ。でも心のなかでは「ゼッタイ」と思っています。歴史を振り返ってみると同じようなことが起きているからです。

 絵画の世界です。19世紀まで絵画は風景や人物を写して描いていました。1839年、タゲレオタイプという写真が登場。状況が変わりました。カメラで写せば現実世界は見たままに描写されます。画家が技術を駆使して見たものを写しとる必要はなくなりました。

 カメラの普及で画家たちは多くの仕事を失いました。しかし、写実という苦行からも解放されたのです。画家たちはこれまでにない新しい表現を始めました。はなやかな色彩の印象派。そう思っていてもみんな言わないヘンテコリンな絵のキュビズムやフォービズム。

 マルセル・デュシャンは小便器を横にして作品「泉」としました。このごろはバンクシー。作品がオークションで落札されたとたんにシュレッダーで裁断しました。「なにこれ?」「どうして?」ですね。現代アートは新しい世界を見せてくれます。手で写すという作業がなくなって新しいことが始まったのです。

 食事の大事な役目は栄養補給。食事しなくても栄養補給ができればいいわけです。すでに「完全食」があります。シリコンバレーなどで、仕事がとてもとても好きな人たちが食べているようです。一食分の栄養素がつまったドリンクのようなものをゴクンゴクン。食事の時間を節約しています。

 完全食があるのなら食事にも新しい道ができます。食事には会食という役割もあります。これは大切です。親しい仲間との食事は楽しみですね。晩さん会のような儀式もあります。「こんどメシ行こうよ」と嫌いな上司の思惑つきの食事会もあります。会食がある限り、絵画が現代のアートを目指したように、食事も新たなアートに向かうはずです。

 荒唐無稽ではありません。すでにテーブルアートのお店があります。原宿の「ソロモンズ」さんです。店内はロマネスクな感じ。1990年ごろのバブルの時代を思い出します。いまはなにしているのでしょうか。バブルに踊り、バブルに酔ったあの人この人…私もですね(^_^)。

 しばし華やかな料理を楽しんだあとデザート。テーブルアートです。うやうやしい儀式がはじまります。黒いペーパーにフルーツソースで花や文字が描かれていきます。そして、最後に大きな白い球(ホワイトチョコ)を豪快にテーブルにたたきつけます。ガシャン(た~ま~や~!)。いろいろなお菓子が飛びだしてきて完成。コレはアートやぁ~。

原宿「ソロモンズ」、テーブルアート
「ソロモンズ」テーブル・アートのデザート

 「ただのインスタ映えだよ」という方いるかもしれません。しかし、海外ではすでに進化しているようです。以下の内容は本とネット情報なので伝聞です。不確かな部分はご容赦ください。

 シカゴの著名なレストラン「アリニア(Alinea)」。オーナーシェフのグラント・アケッツ氏による独創的でクリエイティブな料理が提供されています。煙がでたり、石のうえにのっていたり、風船がでてきたり…。ネットで見ただけなのでよくわかりません(^_^)。しかし、芸術的であることはわかります。「ソロモンズ」さんのテーブルアートもここがお手本のようです。

 ロンドンの有名なレストラン「ザ・ファット・ダック(The Fat Duck)」では『不思議の国のアリス』の物語のなかの「気のふれた帽子屋」をテーマにしたメニューがあります。そのテーマづくりには映画『リトルダンサー』の脚本家リー・ホールが協力しているとのこと。

 考えてみるとスープ、メイン、デザートなどのコース料理はただの順番です。一方、物語をもとに料理が出されるのならワクワクした体験ができます。「また行ってみたい」と記憶に残ります。脚本家という芸術家が参加した食事の新しい道だと思います。

 アーティストでイーティング・デザイナーのマライエ・フォーゲルサングさんの作品。テーブルの天井から白い布をたらし、会食者はそこから首だけ出します。そして互いに出てきた料理を提供しあいます。たとえば、片方にメロン、反対側に生ハムを提供すると自然に交換しあって「メロンの生ハム添え」を食べることになります。食欲を満たすということだけではなく、食べることの意味を体験で感じるということのようです。

 食事による新しい体験ができるアートの世界がこれから広がるはずです。

 ところで、日本にどのくらいの芸術家がいるかご存じでしょうか。著述家、美術家、音楽家などで約48万人とのことです(2015年国勢調査:図1)*。総就業者数は約5,890万人。となると国民の1%近くは芸術家です。しかも、芸術家の50%以上が東京都と近郊の県に住んでいます(図2)。こんなに多くの芸術家がいるのなら、食事の世界にもっとアーティストが入ってきていいと思います。

 栄養補給という機能から解放された未来の食事は、現代アートのような作品になる。であるならば、シェフピカソ、シェフバンクシーたちの登場が待たれますね。

 レストランの銀色のトレー2枚を使って裸で踊ったらアートかなと思っている方、それ間違いですよ。ただのお笑いです。100%芸術じゃありませんから(^_^)。

国勢調査2015年、芸術家人口と構成
図1:芸術を職業とする人は約50万人いる
首都近郊およびその他道府県の芸術家人口比率
図2:芸術家の40%以上が東京に在住している

*出典:総務省国勢調査平成27年 15歳以上の男女就業者
<参考>
Travel Book https://www.travelbook.co.jp/topic/2200
チャールズ・スペンス著 長谷川 圭訳『「おいしさ」の錯覚』角川書店 2018年
AXIS WEB MAGAZINE https://www.axismag.jp/posts/2014/04/45109.html