1.はじめに

新御徒町の「給食当番」さん。給食をテーマにしたニッチなお店です。
ニッチビジネスの分類では「特殊ニーズニッチ」でしょうか*。
お昼時だったので女性客でイッパイ。
懐かしいアルミ食器や小道具で楽しい雰囲気です。
* 出典:山田英夫『競争しない競争戦略-消耗戦から脱する3つの選択』日本経済新聞出版社

2.結論として、「ニッチビジネスの成功例」

給食をテーマにしたニッチな飲食店です。
創業も1990年。すでに28年にもなり認知度も高いと思います。
揚げたての「あげパン」が美味しい。リピート顧客の獲得につながっていると思います。
重要なポイントは、来店客が懐かしさを味わいたいと思っている点だと思います。
違う言い方をすると「美味しさ」を求めていません。
しかし、おすすめの「あげパン」を食べると、揚げたてアツアツ。
かつて給食で食べたものと断然違い、その美味しさに感動します。
感動すると誰かに伝えたくなる。ここに大きな成功要因があると思います。

給食当番

3.3Cで環境分析してみると、スッキリしています

(1)顧客(Customer)-女性中心に給食体験を持つ幅広い層

近隣は、かつては下町情緒豊かな地域だったかもしれません。
しかし、大江戸線の新御徒町の駅もでき、
マンションや商業ビルもどんどん建設され変貌しつつあるようですね。
ランチタイムは近所のオフィスに努める女性がいっぱいでした。
夜は「飲み放題」のメニューもありますね。小学生なのに(笑)。
近隣から都内全域を含めた「給食好き」層がターゲットになると思います。

(2)競合(Competitor)-競合出現。同業態居酒屋チェーンが多店舗展開

近隣に直接競合する店はありません。
代々木上原のブータン料理店ではありましたが、
通常ニッチな飲食店では、競合が近くにあることは少ないと思います。
しかし、同じ給食をテーマにした「個室家座香家 6年4組 」が、
東京の3店を含めて全国で8店チェーン展開されています。
一般的に飲食では「参入障壁」が低く、競合が出現しやすい業態です。
ニッチな飲食店でも「独自技術」や「ブランド力」を持つ必要があります。
当面、競合のチェーン店の動向を注視しておく必要がありそうですね。

(3)自社(Company)-明快なコンセプトで迷いのない経営

ニッチビジネスは自社分析では悩みが少ないのが特徴だと思います。
給食テーマの飲食の提供。このお店で為すべきことについて悩む必要はないと思います。
悩まなくていいというのは、毎日が楽しいことだとも思います。
ナイキのスローガン「JUST DO IT.」を思い出します。「やるっきゃない!」。
ターゲットのお客さまに給食テーマでドンドン。
何をするかを考えるのは楽しいことだと思います。

4.お客さま視点で、さらにマーケティングの4C分析

マーケティングの4Cという視点では考えてみます。以前は4Pと言われてました。

(1)顧客の価値(Customer Value)―あげパンの美味しさ

4Pで言うプロダクト。懐かしさを味うことがお客さまの目的です。
味が求められていないところがポイントだと思います。
そこにあげパンというキラーメニュー。
揚げたては美味しいです。ビックリ。また来たくなります。
当時のものをブラッシュアップして美味しいメニューを提供する
という考え方はアリではないかと思います。

(2)顧客の費用(Customer Cost)―低コストで低価格の提供

給食メニューなので低価格で提供されていると思います。
ニッチビジネスの視点からは、少し「モッタイナイ」かもしれません。
ここだけでしか提供できないのですから、
付加価値を付けたちょっと高めのメニューも提供すべきだと思います。
「マス・マーケターは高い売上高、ニッチャーは高いマージン」が
マーケティングの神さまF・コトラーの言葉です。

(3)顧客の利便性(Convenience)―単独店舗。ネットビジネスはどうか

お客さまとの接点はこのお店だけです。デジタルマーケティングの時代です。
手間をかけずに、ネットを使い、給食テーマのビジネスが何かできそうな気がします。
創意工夫で売上がぐっと伸びる可能性がありますね。

(4)顧客とのコミュニケーション(Communication)―テレビ取材で実質的な「利益」

店内の壁に取材に来た有名なタレントさんの色紙がいっぱいです。
最近多くなったお散歩番組では必ず取り上げられることと思います。
PR会社では、テレビで放送された時間、記事に掲載されたスペースを広告費に換算して
費用と効果を評価しています。
このお店のメディアへの露出は実質的にニッチなコンセプトが稼ぎ出した金額と
考えても良いと思います。

5.これからの課題-ご近所とのおつきあいで成長を高める

台東区では人口が増加しています。お店の住所の元浅草も同様です。
これはビッグチャンスです。人口が大きく減少する日本ではもはや珍しい現象。
いわゆる人口の都心回帰現象だと思います。お客さまの増加が見込めます。
ただし、昼間人口はどうやら現状維持が精いっぱいのようです*。
ご近所にお住まいの方々のリピート需要を狙うことで成長できると思います。
一般に小売店ビジネスの王道は「ご近所ナンバーワン」のお店になることです。
言うは易しで、結構大変です。
でもニッチな飲食店の場合、コンセプトが明快なことで、この点でかなり有利です。
「給食当番」さん、今後も成長が見込めると思います。
*総務省「国勢調査」、台東区ホームページ町丁名別世帯・人口数

元浅草1丁目の世帯数と人口、台東区人口と昼間人口