The marketing for niche restaurants

時間ニッチ飲食店の事例:老舗飲食店は「平和」がつくったのか

 ここでは8つのカテゴリーのうち時間ニッチ飲食店の事例についてレポートします。カテゴリーの区分けは別ページを参照してください。またこのカテゴリーの市場と顧客分析は予測概論を参照してください。

●150年以上続いている老舗。ニッチな飲食店

 「飲食店、10年続く店は1割」と言われています。飲食店ビジネスは厳しさをあらわす言葉としてよく使われています。できたばかりの店が、ほんの数か月で閉店するのはよく見かけますね。
   
 行列ができる店も成功例だと思います。しかし、長寿であることも成功例だと思います。ネットで調べた限りですが、1868年の明治維新以前に創業した飲食店が東京でも31店あります(2021年現在)。つまり創業から150年以上の店です。ニッチな飲食店です。
  
 しかし生存競争の厳しい飲食業界です。老舗飲食店がどのようにして生き残ってきたのか気になるところです。

●実は、老舗大国の日本

 日本は世界的にみて長寿の企業が多い国です。帝国データバンクによると創業100年以上の企業は、日本国内で約2万社、200年以上の企業が約1,000社、300年以上の企業も435社あります(『百年続く企業の条件』)。すごいことです。これ以外にもデータ化されてない企業もあるので、実際にはもっと多いようです。
    
 最も古い企業は大阪の「金剛組」。西暦578年創業です。日本の元号は西暦645年の「大化」からはじまっています。元号ができる前ですね。山梨県にある「西山温泉慶雲館」は705年(慶雲2年)の創業です。なんと1000年以上続く企業が6社もあります。
    
 世界の老舗企業と比較すると、そのすごさがわかります。世界で200年以上の歴史を誇る企業は5586社。そのうち3146社、全体の半分以上の56%が日本の企業です。続いてドイツが837社、3番目がオランダで222社です(Wikipedia List of oldest companies)。日本は圧倒的な老舗企業大国です。

●老舗大国になった理由は平和

 「日本の経営が優れていたから」という結論ではありません。国土のほとんどが破壊されるような戦争が少なかったからです。
    
 老舗企業が多くなった要因として、よく言われることがあります。家訓を大切にした経営、感謝・勤勉・誠実などの社風、従業員との家族的な関係などです。しかし、同じ帝国データバンクの資料から、もう少し詳しく見てみると違う見方ができます。
   
 企業全数のなかの創業100年以上の老舗企業数は19,518社です。帝国データバンクに収録されている企業数は1,188,474社(2009年出版時現在)。全国平均にすると1.64%です。老舗企業が多いのは京都、島根、新潟などで3%を超えています。
   
 一方、少ないのは沖縄県。わずか0.08%です。ほかの都道府県と比較して極端に低い数字です。全国平均の約20分の1。原因は戦禍です。以下「百年続く企業の条件」から引用です。

一方、老舗企業が際立って少ないのは沖縄県だ。これは、第二次世界大戦末期に、空襲と米軍の上陸戦によって壊滅的な人的・物的損害を受けたことが要因だ。(中略)このように老舗の存続は、戦争被害の多さによっても左右される。つまり第二次世界大戦によって、人だけでなく多くの企業も命を絶たれたということだ。

 上記の帝国データバンクの日本の収録企業数は約119万社です。老舗企業数は1万9,518社です。仮に沖縄県の老舗出現率0.08%で計算すると、日本の老舗企業数は約950社になってしまいます。この数字、前述のドイツの老舗企業数とほぼ同じレベルですね。
     
 ヨーロッパ諸国では激しい戦争の歴史があります。日本では近代に国内で激しい戦争が少なかったという歴史があります。
    
 日本は経営技術や経営者の心意気によって老舗企業大国になったのではない。ただ地理的、歴史的偶然で平和が続き、老舗企業大国になったということです。平和のありがたさがこのデータであらためてわかります。老舗ができるためには平和が必要です。

老舗企業の出現率。沖縄だけが低い
●老舗飲食店はニッチと元祖

 では、日本の老舗の飲食店はどのくらいあるのでしょうか。残念ながら飲食店は規模が小さく、株式会社のような企業でないことが多く、帝国データバンクのような正確な情報がありません。
  
 Webサイトの「老舗食堂」、ウィキペディア「日本の老舗一覧」などを参考に調べてみたところ、東京で明治以前に創業した老舗飲食店は約30店ほどのようです。なかには300年以上という店もあります(2022年現在)。これ以外にもあるかもしれません。入っていない店の方すいません。
    
 さきほどの老舗出現率の表から考えても、おそらく京都などには、もっと古くもっと多くの老舗飲食店があるのだと思います。
     
 一覧でみると、うなぎ、蕎麦(そば)、寿司などの日本の伝統的な業態がおよそ3分の2あることがわかります。老舗ということなら当然なのかもしれません。
    
 もうひとつ興味深いのは、ちょっと変わった料理の店があることです。私の大好物、「ニッチな飲食店」です。
   
 いのしし、どじょう、あんこう、豆富(豆腐の別名ですね)の専門店です。両国のいのしし料理「ももんじや」は1718年(享保3年)創業。もう300年以上にもなります。ときどき、店の脇に食材となるいのししが吊り下げれられています。かなり衝撃的です。
   
 もうひとつ注目すべきことは、「元祖」の店があることです。人形町の「玉ひで」。親子丼の元祖の店として有名です。現在も店の前には行列ができています。もともと玉ひでは鶏すきの店として1760年(宝暦10年)に創業。親子丼は5代目の女将が1891年(明治24年)に考案したといわれています。
    
 日本橋の「千疋屋総本店」。1834年(天保5年)創業。フルーツは古くは水菓子とよばれていました。水菓子の販売からしばらくして、1868年(明治元年)に果物食堂を始めています(千疋屋総本店Webサイト)。現代のフルーツパーラーです。「元祖フルーツパーラー」と言っていいと思います。 
   
 老舗の飲食店になるためには、ニッチな飲食店であったり元祖メニューの店であることが有利になるとも言えますね。ちなみに当企画室では元祖メニューの店もニッチのひとつと考えています。

●「平和」だけではなくニッチや元祖に

 うなぎ、蕎麦(そば)、寿司などの伝統的和食の市場は伸びていません。むしろ小さくなっています。ここまで続いてきたのは平和の恩恵を受けたからです。これから先は厳しい状況にもなるかもしれません。
    
 前述のように、ニッチなカテゴリーの飲食店や元祖の店であれば、これからも老舗飲食店として続いていけるはずです。さらに「老舗」という長い歴史をもつという珍しさが加わり、ますますお客さまが集まるはずです。
   
 「平和」だけでは老舗飲食店にはなれない。老舗飲食店になるためにはニッチや元祖などの要素が必要になるということです。

東京の老舗飲食店一覧

老舗飲食店

東京最古と言われるタカサゴはカレー店に。笹巻すしの店は1702年創業。元祖親子丼の玉ひで

※このページは2019年7月2日のブログを改稿して作成しています

<参考文献>
帝国データバンク史料館・産業調査部編『百年続く企業の条件』朝日新聞出版 2009年
Wikipedia:List of oldest companies、日本の老舗一覧
老舗食堂 https://shinise.tv/

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