The marketing for niche restaurants

特定ニッチ飲食店の事例:ムスリム観光客のためのハラール・ラーメン

 ここでは8つのカテゴリーのうち特定ニッチ飲食店の事例についてレポートします。カテゴリーの区分けは別ページ参照してください。またこのカテゴリーの市場と顧客分析は予測概論を参照してください。

●世界の観光客の来日目的は「ラーメン」?

 コロナ禍で外国人観光客はまったく姿を消してしまいました。飲食店さんも大変でした。しかし間もなく観光客が戻ってきます。以前のような、にぎやかさを取り戻していくと確信しています。

 海外からの観光客が楽しみにしているのは日本の食事です。観光庁の調査でも観光客が訪日前に楽しみにしていることは「日本食を食べること」で28.0%(単一回答)と圧倒的な第1位です。
     
 そのなかでもラーメンの人気は高く「訪日旅行で満足した食事」としてラーメンは第2位、21.0%(単独回答)でした。日本旅行の楽しみは食事。なかでも気軽に味わえるラーメンを食べること。これが世界の旅の常識なのかもしれません。

 世界からやってくる観光客のなかにはムスリム(イスラム教徒)の人たちもいます。ムスリムの人たちにはハラールという食事のルールがあります。代表的な禁忌は豚肉です。豚肉は食べられません。
   
 その豚肉、日本の大事な観光資源であるラーメンにも使われています。チャーシューやトンコツスープなど豚肉はラーメンにとって欠かせない食材です。

 はるばる日本にやって来たムスリム観光客にとっても日本のラーメンは「できることなら食べてみたい」食事です。しかし街のラーメン店では食べられません。ハラールがあるからです。
 
 そんなムスリム観光客の要望にこたえるラーメン店があります。それがハラール・ラーメン店です。しかしハラール・ラーメンをつくるには専門機関の認証が必要です。

訪日前に期待していたこと
訪日外国人消費動向調査
●全国で30店、東京で9店のハラール・ラーメン店

 ハラールはイスラムの教えで「許されている」という意味です。イスラムでは豚肉やアルコールが許されていません。食べ物ももちろんですが、飲料、医薬品、化粧品など広範囲にわたって使うことができません。
    
 これをクリアして飲食や製品を提供するためには、専門機関によるハラールの認証を受ける必要があります。世界全体では200以上、日本にもいくつかの機関があります。
    
 「ハラールグルメジャパン」というムスリム観光客向けの専門サイトがあります。このサイトによると国内にはハラール・ラーメン店が30店あります。そのなかで東京には9店があるようです。
  
 上野の御徒町には「あやむや(AYAM-YA)」というハラール・ラーメン店があります。近所にはモスク(イスラム教の礼拝堂)、マスジド・アッサラームがあります。恵比寿には「帆のる」、ジャカルタに支店もあります。ムスリム観光客の宿泊が多い浅草には「成田屋」というハラール・ラーメン店があります。

 東京都内のラーメン店を検索すると6,589店が出てきます(食べログ)。全国で30店のハラール・ラーメン店はニッチな飲食店です。

●世界で2番目に多いイスラム教徒。日本にはインドネシアとマレーシアから

 イスラム教は7世紀にアラビア半島で生まれました。創始者は預言者ムハンマド。かつてモハメッドと習った気がしますが、ムハンマドのほうが発音として近いようです。

 信者は世界で約18億人、人口比では約24%(『世界と日本のムスリム人口2018年』早稲田大学 店田廣文)。信者が最も多いのはキリスト教徒で25億人です。これに次ぐ信者の数です。
   
 発祥の地、西アジアに多いように思えますが、実は半数以上がアジアに住んでいます。特にインドネシア。世界でもムスリムが多い国で、約2憶人のムスリムが住んでいます。

 ムスリムの日本観光という面では、このインドネシアとマレーシアが注目されています。日本政府観光局の調査ではインドネシア、マレーシアからの来日客は約90万人、2019年まで毎年増加してきました。インド、中東諸国からは遠い日本。それに比べればこの二つの国からは「日本はすぐそこの国」です。
   
 ムスリム観光客のなかでも「日本でラーメンを食べてみたい」という方も多いはずです。コロナが終わり、インドネシアやマレーシアの観光客が戻ってくればハラール・ラーメンの需要はまた高まると思います。しかし、これまで以上に高まるものなのでしょうか。

宗教別の人口
世界各国のイスラーム教徒の人口
インドネシア・マレーシアの訪日観光客数
●ラーメン市場は大市場で成長中。ハラール・ラーメン店は成長するか

 日本のラーメン市場は約4,500億円、店舗数は約1万6千店。外食市場ではハンバーガーが約7,000億円でトップ、次いで回転ずしが約6,700億円です。ラーメン市場は、これに次ぐ3番目の大きな市場です。しかもラーメン市場は成長しています(外食産業マーケティング便覧 以下同資料)。
   
 現在、ラーメン市場にはマクドナルドのような巨大なリーダーがいません。大きいチェーン店は日高屋、幸楽苑など。それでも10%弱のシェアです。以下多くのチェーン店がリーダーを目指して群雄割拠の状態です。市場は毎年成長し、これからも成長が予測されています。
   
 大雑把ですが、ラーメン市場を4,500億円、日本の人口を1.2億人とすると年間一人あたり3,750円のラーメンを食べています。4~5杯ぐらいでしょうか。またラーメン店総数は約1万6千店となっています。となると1店舗あたりの売上高は約2,800万円になります。

 一方のハラール・ラーメン、どこまで行けるかです。ターゲットがムスリムでありハラールの認証が必要であることから一般的なラーメン店とは競合しません。ラーメン市場のなかで独自な市場です。

 マレーシア人の約61%、インドネシア人の約87%がムスリムとのことです(世界と日本のムスリム人口2018早稲田大学店田廣文)。2019年の来日観光客、マレーシアの501,700人の61%、インドネシアの412,800人の87%をあわせると664,477人となります。ムスリム観光客はざっと65万人ですね。

 ムスリム観光客が旅行中に2杯程度、約2,000円分のハラール・ラーメンを食べるとします。全体で13億円の市場です。日本のラーメン店の売上高2,800万円で計算すると46店と出てきます。
    
 ラーメン体験は一度だけ、半分の1,000円分を食べるとすると23店分の市場しかありません。ハラール・ラーメン店は現状がギリギリの店舗数かもしれません。

 これ以上、大きく成長するのかというと、来日観光客の増加を考えても、やはりニッチな飲食店にとどまると思います。
  
 日本が世界に誇る「ラーメン」です。小さな日本のハラール・ラーメン市場よりもムスリムが多い海外のほうが成長の可能性が高いと思います。特に3億人に近づき、アメリカに次ぐ世界第4位の人口を誇るインドネシアに注目です。
  
 インドネシアは親日国です。ここに進出してインドネシアの人びとに受け入れられると世界的な飲食店ビジネスへと成長できそうです。
   
 日本でのニッチな飲食店ビジネスから脱却して成長する飲食店ビジネスへ。詳しくは「成長ニッチ飲食店の予測」のページをご覧ください。

ラーメンの市場推移
インドネシアの人口推移

<参考文献>
国土交通省観光庁『訪日外国人の消費動向 2020年1-3 月期(速報)報告書』
『外食産業マーケティング便覧2020』富士経済
イスラーム教徒人口の推計2013年 店田廣文 Institute for Multi-ethnic and Multi-generation Societies WASEDA UNIVERSITY, Tokyo, Japan

※このページは2019年5月27日のブログを改稿して作成しています

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