The marketing for niche restaurants

時間ニッチ飲食店の事例:レトロな喫茶店はこれからも続く期待できる市場

 ここでは8つのカテゴリーのうち時間ニッチ飲食店の事例についてレポートします。カテゴリーの区分けは別ページを参照してください。またこのカテゴリーの市場と顧客分析は予測概論を参照してください。

●古書店が並ぶ神田の路地裏に集まるレトロな喫茶店

 神田神保町の純喫茶「ラドリオ」。ウィンナーコーヒーの日本発祥の店として紹介されています。レンガの壁と古びたドアや手書きの看板。昭和30年代のレトロなイメージがいっぱいです。
   
 昭和二十年代、三十年代生まれの方ならホイップ・クリームがのったウィンナーコーヒーにはなつかしい思い出があると思います。昭和の香りがするこの店に入ってみたいと思うはずです。「ラドリオはウィンナーコーヒー発祥の店」。この一言で覚えてもらえることは、なににも代えがたい強みです。
   
 近くには有名な老舗喫茶「さぼうる」や本格的なコーヒー店「伯剌西爾(ぶらじる)」、さらに路地の向かいにもレンガ壁の「ミロンガ・ヌォーバ」など昭和レトロの喫茶店がいくつもあります。
   
 神保町にはレトロな喫茶店が集まっています。集積していることで魅力が高まり、遠くからもお客さまが集まっています。高田馬場のミャンマー料理店や月島のもんじゃ焼き店のケースと同じ効果です。

●「残存ニッチ」というニッチ・ビジネス

 ニッチ・ビジネスには残存ニッチ戦略というカテゴリーがあります。早稲田大学の山田英夫教授の『競争しない競争戦略』に詳しく書かれています。これについては前述しました。
     
 市場が衰退期に入ると大手の企業は撤退します。その後、中小の企業が細々と事業を続けていくことで維持される市場です。小さな市場ですが、残り物には福があります。
    
 残存ニッチの典型例は「アナログレコード」です。次々とあらわれる新しい音楽メディアの登場で、アナログレコードは小さい市場となってしまいました。しかし、いまでもレコード盤の愛好家がたくさんいます。ここが「福」です。現在は、東洋化成株式会社が日本で唯一の製造会社となったため独占市場となりました。
    
 レトロな喫茶店というカテゴリーも残存ニッチと考えられます。現在の喫茶店市場ではセルフサービス型がおよそ5,500店、フルサービス型の喫茶店、「いらっしゃいませ。こちらメニューです」といってお水を出してくれる店がおよそ57,400店となっています(外食産業マーケティング便覧)。
    
 純喫茶、名曲喫茶、ジャズ喫茶などのようなスタイルの喫茶店は、全体からみると店舗数は少なく、残存ニッチと考えてよいと思います。

●「思い出に浸る喜び」の市場は永続する

 重要なのは、だれがお客さまなのかです。神保町では本とコーヒーが好きな一定年齢以上の人たちです。ターゲットであるお客さまがしっかりとイメージできていればマーケティングの施策はカンタンです。
     
 純喫茶専門の研究家、難波里奈の『純喫茶へ、1000軒』によると、「ラドリオ」は何年か前に改装したとのこと。「では、今風に変わってしまったのか」ではなく、むしろ昭和の古いイメージを強化するための改装したようです。お店のターゲットをしっかりと認識した施策です。
     
 「時間ニッチ飲食店の予測概論」でお話ししたように、高齢期の人には過去を振り返る必要があります。人生の最終コーナーに向かって過去との折り合いをつける年齢になるからです。過去と上手に向き合うことで、心の安定が保たれます。
     
 20代前後に親しんだ古書店街。そこで昔のままの古い喫茶店で過去の思い出に浸ること。レトロな喫茶店には、高齢者にとって大事な価値があります。
    
 日本の人口構成からすると、60歳以上の人口は4,300万人、全人口の3分の1にあたります。しかも、いまの高齢者は経済的にも豊かです。レトロな喫茶店はまだまだ期待できる市場です。

<参考文献>
山田英夫『競争しない競争戦略』ダイヤモンド社 2015
『外食産業マーケティング便覧2020』富士経済 2020
難波里奈『純喫茶へ、1000軒』アスペクト 2015
佐藤眞一/権藤恭之『よくわかる高齢者心理学』ミネルヴァ書房 2016

※このページは2017年11月15日のブログを改稿して作成しています

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