米などの主食を提供するレストランは衰退すると思います。米の値上げや米離れだけではありません。米のような炭水化物(糖質)を「主食」にするという考え方に疑問があるからです。主食という習慣ができたのは最近のことです。人類史の99%の期間に主食はありませんでした。アラカルト、つまりいろいろな食べ物を食べてきたからです。社会は大きく変化しています。21世紀のいま、食習慣も飲食店ビジネスも考え方を変えるときです。
I.本当に「主食」が必要なのか
穀物を主食にすることへの疑問
1.令和の米騒動。なぜ私たちは米を食べるのか?
前回のブログで「うどん屋はあるのにごはん屋がな~い!」と叫びました。2025年の米不足、令和の米騒動があったからです。
ブログでは「米がないなら新しい主食を探せばいい」としました。いま思えば軽率な結論。課題をひっくりかえしただけでした。「コインの裏返し」というやつです。「売上が不足している?じゃ、売上を上げればいいじゃない」と同じ。答えになりません。反省です。
この問題について、本場カリフォルニアのカルローズ米を食べながら、あらためて考えてみました。「そもそも、なんで米を食べるの?」。
農家の方は2025年産の新米の値段があがるのを喜ぶ一方で、さらなる米離れを心配しています。米が高ければ、低価格のうどんやパンにシフトしていくはずです。
ダシの効いたうどん、こんがり焼いたパン、なつかしい味のナポリタン。主食になるものはたくさんあります。米のごはんが必要なのでしょうか。そもそもなぜ米を食べるようになったのでしょうか。

2.「ごはんが好き」は糖質が好きなだけ。
あつあつの白いごはんに塩ジャケ、明太子、たまごかけごはん…。炭水化物は魅力的です。炭水化物とは糖質と食物繊維。白いごはんはほぼ糖質です。
糖質は脳内に快感をもたらすドーパミンを分泌させます。これによってさらに糖質が欲しくなり、「あぁ、白いごはん食いてぇ」となります。糖質には快感の依存性があります。
糖質はごはんだけでなくパン、砂糖、じゃがいも、ビールなど多くのものに含まれています。ビールで乾杯、フライドポテトをつまんでラーメンで仕上げてスイーツも食べて寝る。糖質まみれの食生活はカロリー過多です。糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病の原因になります。
「糖質制限」という言葉が10年前ごろに出現しました。ごはんなどの糖質の摂取量を減らすことです。これによって体重をコントロールしたり健康を維持したりします。
いまでは「糖質オフ」のビールなどの商品がたくさんスーパーで売られています。健康を気にするなら糖質を減らすことが大切と理解されるようになりました。
しかし減らせと言われても、日本人なら白いごはんが食べたくなります。「だって昔っから日本人は白いごはんだよ」。「でも、昔っていつのこと?」。

3.日本人は約3000年前にごはん好きになった。
およそ4万年前に日本列島に人が住みはじめたようです。「日本列島のあちこちで四万年前の地層から人々がつかっていた旧石器が発見されている」(斎藤成也『日本列島人の歴史』)。
そのころは毛皮のパンツをはいてイノシシを追いかけて、海岸でハマグリをひろっていたはずです。狩猟採集社会です。
米を食べはじめたのは縄文時代晩期の約3000年前とのこと。朝鮮半島から稲作が伝わったようです。それ以来、日本人は米好きになりました。日本のことを「瑞穂(みずほ)の国」ともいいますね。
稲作のはじまりは約7000年前。中国の浙江省の河姆渡(かぼと)遺跡が最古の稲作遺跡といわれています。そこから日本などアジア各地に稲作が広まったようです。
中近東では約1万数千年前から農耕がはじまりました。定住化、集団生活、人口増加、狩猟動物の減少などが原因です。同じころに全世界で農耕がはじまったようです。
米、小麦、雑穀やイモ類などの根菜を主食にしました。それまで肉、魚、木の実、野菜などからとってきた栄養素を米のような炭水化物から摂るようになったのです。食料が十分に生産されることによって、人類社会と文化が発展しました。
ヒトが主食を食べるようになったのは、つい最近の1万年前。ホモ・サピエンスの誕生を20万年前とすると昨日のようなできごとです。

4.米の問題点。栄養バランス、供給不足、食事づくり…。
穀物の主食、特に米にはいくつかの問題があります。
(1)栄養バランスが良いのか。
前述の糖質への依存性による食べすぎ。カロリー過多です。また栄養バランスにも問題があります。
白米ばかりを食べていた江戸時代。「江戸市民は平均して一日五合(750g)の米を消費していた」(佐藤洋一郎『米の日本史』)とあります。
「五合って、どんだけぇ~?」。白いごはんで1,700g。なんとお茶碗で10杯です。
江戸時代の男性の平均身長は155㎝~160㎝ぐらいとのこと。「日本人の歴史において、江戸時代人の背丈の低さは記録的であった」(片山一道『骨が語る日本人の歴史』)。
米食だけではたんぱく質不足になります。身長も伸びません。またビタミンB1不足で「江戸わずらい」といわれる脚気(かっけ)にも悩まされました。
かつては三大栄養素でした。いまは、たんぱく質・脂質・炭水化物に、ビタミン・ミネラルと重要になってきた食物繊維を加えて六大栄養素ともいうようです。
米食では炭水化物の摂取はできてもほかの栄養素はカバーできません。大豆と比較すると大きな違いがあります。


(2)供給が不安定ではないか
気候変動などによる供給不足の問題もあります。1991年にフィリピンのピナトゥボ火山が噴火。1993年は冷夏になり米が不作。平成の米騒動となりました。
火山の噴火や気候変動などの低温化による米の不作。江戸時代は飢饉ばかりでした。1732年の享保の大飢饉、1782年~1788年の天明の大飢饉、そして1833年~1839年の天保の大飢饉などたくさんの飢饉がありました。
米だけに頼ることは適切ではありません。令和の米騒動のように、いったん供給が不足するとパニックです。
(3)食事づくりの変化
家族も変わりました。100年前のように多くの家が農家で世帯人数が10人もいるような大家族ならば、米という主食が必要でした。米をたくさん炊いておけばメザシとお新香で全員の食事を一気に用意できるからです。
2024年、日本の世帯で一番多いのは単独世帯(34.6%)です。約3分の一がおひとり様。少し残念ですが食事も個食化しています。
食事のたびに、たくさんの米を炊く必要はありません。もはや炊飯器のない家庭も多いはずです。

5.21世紀に糖質の主食は必要ない。
白いごはんが食べたいならパックごはんのほうが便利です。米という主食がどうしても必要ということではありません。
完全栄養食のカップライスもパンもコンビニで売られるようになりました。完全栄養食のパウダーなども販売されています。完全栄養食での食事がいいことなのかは疑問ですが。
主食を食べるのをやめても大丈夫そうです。1万年前にもどって、主食ではなくいろいろなものを食べるのはどうでしょうか。といっても野山でイノシシ狩りをしたり、海でサカナを獲ったりするわけではありません。
穀物を中心にして食べない。食のバラエティ、多様性を大切に食べるということです。バラバラな食べ物という言い方がよくなければ「アラカルト」。これが「脱主食アラカルト・レストラン」の構想です。以下がその具体的な施策です。

II. 脱主食型アラカルトレストラン構想
ターゲットとマーケティング・ミックスで考える
6.ターゲット。「脱主食アラカルト・レストラン」の顧客はだれか。
ここからはマーケティングを考える必要があります。「雨宮くん(私のことです)、アイデアは面白いけど、これだとお客さんは来ないよね」。ニッチな飲食店のマーケティング企画室としては悪夢のような言葉です。来てほしいお客さまをしっかりと決めておかなければなりません。
コアのターゲットは糖質オフに興味のある人です。生活習慣病の黄色信号、赤信号の人たちです。「糖尿病が強く疑われる」男性は約17%、女性は約9%です(「令和5年国民健康・栄養調査」厚生労働省)。そのほか高血圧、高脂血症の人もたくさんいます。市場としては十分です。
スーパーでは糖質オフ商品を買っているはずです。残念ながら、いまの飲食店では糖質オフ対応の店は見つかりません。ニーズがあるのに市場は答えていませんね。「脱主食型アラカルト・レストラン」の価値はここにあります。
さらにマーケティング・ミックス(4P)でも考えてみましょう。以下です。
7.製品:プロダクト(Product )。アラカルトで。
脱主食のレストランではメニューを小皿のアラカルトで提供します。肉、魚、乳製品、豆類、野菜など幅広く栄養価を考えて用意。ごはんやパスタなどの炭水化物もアラカルトとして出します。炭水化物も必要な栄養素のひとつです。
外食チェーン店のように単品メニュー、大量仕入れ、大量製造でコスト削減はできません。提供するなら冷凍技術なども使う必要があると思います。
「回転寿司」のような形式もよさそうです。料理が小さなお皿でぐるぐるまわると楽しそうです。回転寿司のひとつの成功要因も小さな量の料理をに好きに選べることだと思います。
「麻辣湯(マーラータン)」が人気なのも、好きな野菜などのトッピングが自由に選べることです。あるいは「前菜の盛り合わせ」のようなスタイルも心が躍ります。

8.価格と場所:プライス(Price)とプレイス(Place)。都心でそれなりの価格で。
「ニッチな飲食店」なら低価格での提供はありません。また近隣の店と価格競争もしません。お客さまにアラカルトで選んでもらうことで客単価はそれなりにあがるはずです。
「ニッチな飲食店」なら場所は都心です。しかし繁華街の目立つ立地の必要はありません。「ニッチな飲食店」なら、わかりにくい場所でもお客さまがわざわざ探し出してくれます。
9.プロモーション(Promotion)。いつも「新メニュー登場」で。
脱主食なら「なにを食べさせてくれるの?」とお客さまは思うはずです。「新メニュー登場」のキャッチフレーズがお客さまをひきつけます。
「新登場、新発売、新商品、新製品、新サービス」。これらはもっとも人をひきつける言葉です。TVのCMでもスーパーの棚でもこれらの言葉に目がとまります。
小皿の料理、季節のメニューも立派な新メニュー。新メニュー登場と言えます。アラカルトでメニュー数が多いことから、いつも「新登場」の告知ができるはずです。
ニュースは大切です。店頭での告知、Webサイト、SNSでお知らせしましょう。いつもなにか新しいニュースのある店はお客さまにとって魅力的な店です。「なにこれ、行ってみたい」という店になるはずです。

まとめ。社会の変化に飲食店ビジネスも対応する。そして、さらに…。
主食が必要なのかを考え直す時代です。米が高くなっているだけではありません。健康的な食べ方、食料の供給、家族の形態…。飲食も時代とともに変化しています。飲食店ビジネスも社会の変化に対応すべきです。
変化には新しいビジネスチャンスもあります。「脱主食型アラカルト・レストラン」で、食の人類史に新しい1ページを加えられそうです。
ここで少し飛躍しますが、「脱主食型アラカルト・レストラン」はやがて世界が注目するレストランになるかもしれません。
日本人のシェフたちは小さなアラカルト料理をつくっていくうちに、盆栽のような「ミニチュアアート」の料理世界に入っていくのだと思います。
小さな皿の上に料理のひとつの世界をつくっていく。それはほかの国のシェフたちが真似できない特別な世界をつくりだすと予測します。考えてみると未来が楽しみです。

ということで…「え?どうして裸になっているかって?」「だって毛皮のパンツにはきかえてヤリもって、これからイノシシとりに行くんでしょ…」「え、ちがう?…」。
<参考文献>
池谷和信編『食の文明論 ホモ・サピエンス史から探る』農文協 2021
斎藤成也『日本列島人の歴史』岩波ジュニア新書 2015
佐藤洋一郎『米の日本史 稲作伝来、軍事物資から和食文化まで』中公新書 2020
夏井 睦『炭水化物が人類を滅ぼす 最終解答編 植物vs.ヒトの全人類史』光文社新書 2017
山田 悟『糖質制限の真実 日本人を救う革命的食事法ロカボのすべて』幻冬舎新書 2015
厚生労働省『令和5年国民健康・栄養調査』
