なぜ、ビジネスとして小さいニッチに焦点をあてるのか。自分の中でもいまだに百家争鳴中。しかし、少しずつ整理されてきました。それは、ニッチの時代が来ているからです。
1.簡潔な社会から煩雑(はんざつ)な社会へ
煩雑はこんがらがって煩わしいこと。繁雑よりも面倒な感じですね。日本の社会は今まで比較的静かでした。しかし、新しい時代は総じて、めんどくさい社会でもあります。これからは世界の国々と同じように、ちょっとだけ煩雑な社会になっていくと思います。それに対応する仕組みが必要になります。以下3つの例です。
(1)多民族が住む国に
日本にいる外国人は約273万人(法務省2018年末)。日本の総人口は約1億2659万人ですから約2%、50人にひとりが外国人の計算になります。
私の住む江戸川区西葛西。朝の駅は多言語にあふれています。ガラガラとスーツケースを運ぶアジア系の観光客。駅員さんが一生懸命英語で行き先案内をしています。電車を待つ人の何割が日本人なのだろうかと。そんな疑問も「何をして日本人というのか」という反問にうまく答えがでません。海外からやってきて、日本国籍をとった方も多いはず。日本人は…、などと書き出すとその後が書けなくなってしまいます。
日本は多民族が住む国だということを受け入れる必要があります。文化、習慣や考え方が違います。一人ひとりに細かな対応が必要になります。
(2)家族はさらに分裂
分裂と書くとやや過激でしょうか。細分化のほうがやさしい言葉かもしれません。明治の頃は大家族。昭和では核家族。今は、さらに小さくなり単独世帯(ひとり住まい)。家族イコール同居することではなくなりつつあります。世帯構造では夫婦と未婚の子世帯は29.5%(下図参照)。次いで単独世帯26.9%。夫婦ふたり世帯が23.7%です。おじいちゃん、おばあちゃんに孫という三世代世帯はマレな存在。パパとママに子ども二人、だんらんのある理想家族は少数派になっていきます。
グラフのとおり、やがて単独世帯がトップになるのは時間の問題です。単独世帯は気がねなく自由に暮らせます。しかし、高齢者ならちょっと寂しく心細い生活ですね。インスタ映えのようなSNSの利用で耐えるのか。シェアハウスで暮らすというような工夫をするのか。
これからは核家族中心だけではなく単独世帯、ふたり世帯など多種類の暮らし方の違いに応える必要があります。
(3)ヒトの多様性
デーブ・スペクターさんのツイッターが面白いです。以下かいつまんで。…日本人の先生の教え「差別しちゃダメでしょ。人間はみんな同じなんだから」。アメリカ人の先生の教え「差別しちゃダメでしょ。人間はみんな違うんだから」。これはアメリカ人の先生に1本。
多様性あるいはダイバーシティ。性別、人種、国籍、宗教…。LGBTQもあります。最近Qもついてきましたね。クエスチョニング。ひとそれぞれが違うことを認め、理解して受け入れること。これができないとアチコチで対立がおきてしまいます。逆にこれができれば、ビジネスにも新たな発見や成長もあると思います。
2.煩雑化にこたえられる社会へ
住民、家族、個人…それぞれに違いのある煩わしく、複雑な社会。しかし、デジタル化とネットの進化がこれに対応できます。タマゴとニワトリ論でいけば、デジタル化とネットの進化したことで煩雑な社会が生まれたのかもしれませんが。以下、デジタル化とネット技術に関する話です。
(1)ニッチな商品に光があたった
ロングテール*の発見。アマゾンの成功が実例です。これまで売れなかった本もネット上にたくさん並べられるようになったり売れるようになりました。売上高は、まるで大型の草食恐竜のしっぽのようになります。
それまでは大きな売上を持つ商品だけが注目されてきました。マスメディアによる広告、大量生産によるコストダウン、消費者が大量に買って大量に消費する社会。商品は大企業が広告するようなものしかお店に置くことができませんでした。ところがそれは、水面に浮かぶ氷山のようなもの。デジタルデータとネットの技術により、氷山の下に隠れていた膨大な商品が水面に浮かび上がってきました。水面下にあったニッチな商品でも売れるようになったのです。販売額が少ない商品も集めると大きなビジネスになります。これによって多くのニッチな商品にも光があたりました。
*参考「ロングテール『売れない商品』を宝の山に変える新戦略」クリス・アンダーソン ハヤカワ新書
(2)生産と販売の低コスト化
特にネットの情報力が強くなっています。SNSなどの利用で小さな事業者でも広告や販売促進にあまりコストがかかりません。狙ったターゲットにピンポイントの情報を送ることもできるようになりました。ネットの利用はますます増大。日本の広告費の統計でも、ネット広告費が間もなくトップに躍り出ます。さらに勢い余って天井を破りそうです。
製造に関しても3Dプリンター技術が進化。低コストで多品種の少量生産や一人ひとりにあわせたカスタマイズ生産もできるようになりました。音楽、写真、デザインなどのコンテンツ制作も無料や低価格ソフトを使って制作できるようになりました。
販売も自らが実際の店舗を持つ必要がありません。ネット上に店舗を作って販売できます。アマゾンや楽天のようなプラットフォームを持つ事業者を経由して販売することもできます。
できないことやわからないことはネットで検索すればだいたいのことはわかります。本を調べたり先生に聞くよりも手軽で豊富な解決策やヒントがたくさんあります。
(3)買う側が見つけてくれる
ニッチであるならば、お客さまが買いたい商品を自ら探し出してくれます。ニッチなビジネスに必要なのは、明確なコンセプト、ターゲットの設定。これにもとづいてコンテンツ(記事)を作成し、SNSやWebサイトに掲載します。それができればお客さまは、検索で自ら調べて、実際の店舗かネットのお店にきてくれます。
また、お客さまとのコンタクトも手軽になりました。継続的に販売を行っていく上では、お客さまとの関係性=CRM(カスタマー・リレーション・マーケティング)を強くすることが必要です。ご存じの方も多いかもしれません。パレートの法則。2割のお客さまが8割の売上をつくるといわれています。一度だけのお客さまではなく、繰り返し購入してくれるお客さま=リピーターが必要です。お客さまの一人ひとりへの情報提供や交流ができれば、ビジネスは順調になるはずです。
3.ニッチ・ビジネスを見い出す
でも、まだ問題が残ります。どのようにニッチ・ビジネスを見出すかです。
経営学では市場で勝つための理論をこれまで考えてきました。多くはマネジメントやITの最先端の知識や技術。これを学び、これにもとづいて施策を実行してきました。
マーケティングでも人口統計、価値観やライフスタイル基準などでターゲット分析を行ってきました。十把一絡げ(じっぱひとからげ)のザックリしたマス・マーケティング。その後、データやテクノロジーを駆使して詳細な分析を行うようになりました。
しかし、経営学もマーケティングも最先端の知識で解答を出していく限りは、どの企業も解答が同じようになってしまいます。そうなると解決策に大きく投資し、スピーディに実行した企業が勝利します。でも、それも新しい技術が他社から出てくれば、すぐに敗退です。
どのようにニッチ・ビジネスを見つけるか。これについては、まだ確かな方法論がないと思います。経営学ではブルーオーシャン戦略*、誰も手をつけていない市場を見つけ出すという考え方もあります。あるいは「自分が好きなことを突き詰めればよい」*という考え方もあります。マーケティングでは、すき間ビジネスとして、誰もが手をつけないシェアが小さなビジネスだと考えています。
ヒントは生態学にあるのではないかと思います。ニッチについて最も研究を行っているのは生態学です。生態学でのニッチは「ある生物種が生きていける環境条件のことを表す」と定義しています。ひとつの生物種がひとつのニッチを持つとしています。
生き物は地球上に出現して以来30数億年の歴史があります。生き残るための試行錯誤、工夫を長大な時間のなかで重ねています。ニッチ・ビジネスの戦略として見習うことや解決のためのヒントが多数あるはずです。詳しくは別ページでお話しします。
*参考「学んでみると生態学はおもしろい」伊勢武史 ベレ出版
4.まとめ:ニッチが輝きだした
煩雑な社会となり、それにともなってニッチが魅力的になってきました。コンセプトとターゲティングを明確化することで、ニッチなビジネスであっても成長が期待できます。デジタル化とネット技術によって存在意義が見出されるようになったからです。ニッチであることに光があたり、輝きはじめたのです。かといって、やみくもにニッチ・ビジネスをスタートするわけにはいきません。さまざまな手法について考えましょう。