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ニッチ・マーケティングについて

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 ニッチ・マーケティングについては、マーケティングの神さまP・コトラーの著書から引用させていただくのがわかりやすいと思います。また、ニッチ・ビジネスを研究している早稲田大学の山田英夫教授の『競争しない競争戦略』の「ニッチ戦略」が大変参考になりますので、こちらについても紹介させていただきます。

1.競争地位別戦略。独自市場のリーダーになるニッチャー

 コトラーは、競争地位別戦略として、市場のプレーヤーを4つに分類しています。最大シェアをもつリーダー、シェアトップに挑戦するチャレンジャー、リーダーをマネて利益確保するフォロワー、そして独自集中のニッチャーです。それぞれが、市場の中でどのような戦略をとるべきかについて説明しています。

コトラーの競争地位別戦略
参考:コトラー著書、山田英夫『競争しない競争戦略』・野村総合研究所「経営用語の基礎知識」ほか

 コトラー先生の話などからニッチ・ビジネスについてまとめると、大きな企業が手を出さない独自で小さな市場で一番になること。お客さまは限られていること。お客さまを研究し密接な関係をつくること。独自の商品やサービスを提供すること。付加価値により高い価格を設定して利益を得ること。ということになります。

2.ニッチャーのマーケティング戦略

 しかしコトラーはニッチャーの戦略について、あまり説明してくれていません。ニッチャーはリーダーやチャレンジャーのように大企業にならないので興味がないのかもしれません。それでもいくつかの企業の事例として紹介しています。以下引用します。

 A.T.クロスは、有名な金と銀張りの筆記用具で、高価格筆記用具市場というニッチ市場に特化している。家族経営のタイヤ・ラックは年間200万の特製タイヤを、自社のあるインディアナ州サウスベンドから、インターネットや電話や郵便で販売している。このような企業には、高い価値の提供、高い価格設定、製造コストの削減達成、強力な企業文化とビジョンの形成という傾向が見られる」(中略)
 戦略計画研究所が数百の事業単位を対象に行った研究によると、投資収益率は、比較的小さな市場では平均27%であるが、比較的大きな市場では11%にすぎなかった。なぜニッチ市場はこれほど収益性が高いのだろうか。主な理由として、マーケット・ニッチャーは標的顧客をよく知るようになるので、当該ニッチにさしたる戦略もなく売っている他の企業よりも、ニーズにうまく応えられるということがある。
(『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版』(P451・P452)

 また経営学者として著名な一橋大の沼上幹(つよし)教授は『わかりやすいマーケティング戦略』ではニッチャーの戦略定石について、わかりやすく表にまとめています。

ニッチャーの戦略定石

 「4P‘s構築の基本方針」は「狭いターゲットへのファインチューニング」としています。4Pはプロダクト、プライス、プロモーション、プレイスのこと。この4つのマーケティング手法をまとめることがマーケティング・ミックスですね。まさしく前述のように「お客さまを研究し密接な関係をつくること。独自の商品やサービスを提供すること」ですね。

3.ニッチ・ビジネスは11に分類できる

 コトラーはマーケット・ニッチャーの戦略を以下のように11に分類しています。またニッチについて新しく創出したり、拡大したり、守る必要があるといっています。さらに新たに市場に参入するならニッチから入るべきであるともいっています。

ニッチの専門化説明
エンドユーザー専門化企業1種類の末端使用者に対応する専門化した企業。
垂直レベル専門化企業生産・流通の価値連鎖における特定の垂直レベルの専門化した企業。
顧客サイズ専門化企業小規模、中規模、大規模のいずれかの顧客サイズに集中販売する企業。
特定顧客専門化企業販売を1社のみまたはごく少数の顧客に限定する企業。
地理的専門化企業特定の地域や地方、あるいは世界の特定地域でのみ販売する企業。
製品専門化または 製品ライン専門化企業単一の製品ラインあるいは製品を取り扱ったり製造している企業。
製品特徴専門化企業特定の製品あるいは製品特徴を生み出すことに専門化している企業。
注文製作専門化企業製品を個々の顧客用にカスタマイズする企業。
品質・価格専門化企業その市場で最低品質または最高品質のものを生産する企業。
サービス専門化企業他の企業が提供できないサービスを提供する企業。
チャネル専門化企業1つの流通チャネルのみに専門化した企業。

4.山田英夫教授のわかりやすいニッチの分類

 コトラーの分類は、専門的で少しわかりにくい気がします。早稲田大学の山田英夫教授は『競争しない競争戦略』のなかで、質と量2つの軸を使って10のニッチ戦略に分類しています。こちらがニッチについて、わかりやすく説明されていると思います。以下、僭越ながら簡単に紹介させていただきます。
  
 質的限定と量的限定の二つの軸で考えています。「質」は、他社がマネできない独自の技術ということです。「量」は、市場が必要とする量が少ないということです。

 この2軸からできる4つの象限で10のニッチ・ビジネスが分類されています。左下は質的限定も量的限定も低い場合で、他の企業がたやすく参入できるのでニッチ・ビジネスにはならないということです。

山田教授のニッチの10分類

以下が『競争しない競争戦略』で例示されているニッチ戦略と実例企業です。こうしてみるとわかりやすいですね。詳しくは『競争しない競争戦略』をご覧ください。

戦略の分類戦略名事業内容実例企業
質限定のニッチ戦略技術ニッチリーダー企業が持っていない技術分野での事業マニー株式会社:手術用の縫合針で世界一の品質
 チャネル・ニッチリーダーが追随できないチャネルでの事業大同生命保険株式会社:中小企業の経営者向けの生命保険販売。税理士を通じて販売する
 特殊ニーズ・ニッチ特殊なニーズに対応した技術・サービス事業トーシンテック株式会社:タクシー用自動ドア専門のメーカー
量的限定のニッチ戦略空間ニッチ限られたエリアだけでの事業セイコーマート(株式会社セコマ):北海道でシェアトップのコンビニチェーン
 時間ニッチ限られた時間だけでの事業株式会社LSIメディエンス:ドーピング検査の専門機関。スポーツ大会の開催時に一斉に行う
 ボリューム・ニッチリーダー企業が参入できない小さな市場での事業バタフライ(株式会社タマス):競技人口の少ない卓球用品専門メーカー
 残存ニッチ製品ライフサイクルが衰退期の縮小市場での事業東洋化成株式会社:アジア圏唯一のアナログレコードの製造会社
 限定量ニッチ意図的に生産・供給量を意図的に絞る事業Be-1(日産自動車株式会社):大衆車マーチのシャーシを使って限定1万台で発売
質・量限定のニッチ戦略カスタマイズ・ニッチ完全オーダーメイドの製品やサービスを行う事業株式会社銀座山形屋:スーツの仕立て。型紙を残すので次からは生地を選ぶだけ
 切替コスト・ニッチ製品・サービスを切替えるとコストがかかる事業クオリカプス株式会社:医薬品のカプセル製造。カプセルを変更すると認可が取り消しとなるため、切替コストが高くなる
山田英夫『競争しない競争戦略』より

5.「ニッチな飲食店」のカテゴリー分類


 当室で研究している「ニッチな飲食店」について山田教授の手法でも分類できます。しかし2024年まで当室で「ニッチな飲食店」を調べてきたところ、山田教授の分類方法を参考にして2軸を使って、あらためて「ニッチな飲食店」を8つに分類するほうが理解しやすいと考えています。これについても別のページで解説しています。そちらも、ぜひご覧ください。
   
(2025年3月6日改稿)

<参考文献>
フィリップ・コトラー、ケビン・L・ケラー/恩藏直人監『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版』‎ 丸善出版 2014
山田英夫『競争しない競争戦略 環境激変下で生き残る3つの選択 』ダイヤモンド社 2015
沼上 幹『わかりやすいマーケティング戦略〔第3版〕』有斐閣アルマ 2023

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