ニッチ・マーケティングについては、マーケティングの教科書のような人、P・コトラーのお話しから引用させていただくのがわかりやすいと思います。また、早稲田大学の山田英夫教授の著書「競争しない競争戦略」(日本経済新聞出版社)のなかの「ニッチ戦略」が大変参考になりますので、こちらについても紹介させていただきます。

1.小さな市場のリーダーになるニッチャー
P・コトラーは、競争地位別戦略として、市場のプレーヤーをリーダー、チャレンジャー、フォロワーとニッチャーという4つに分類。それぞれが、市場の中でどのような戦略をとるべきかについて説明しています。
ニッチビジネスについてまとめると、大きな企業が手を出さない小さな市場で一番になる。お客さまは限られた人。独自の商品やサービスを提供し、それにより高い利益を得る。ということになります。
P・コトラーの競争地位別戦略 |
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類型 |
特徴 |
基本の政策 |
リーダー |
業界市場内のシェア最大企業。競合の新製品には即時に対応し無力化 例)シェア40% |
全方位戦略 ・製品:全分野のラインを揃える ・価格:他社と価格競争を行わない ・チャネル:開放型 ・プロモーション:市場全体の拡大 |
チャレンジャー |
リーダーに挑戦する企業。リーダーができない戦略による地位奪取を目指す 例)シェア30% |
差別化戦略 ・製品:リーダーと差別化 ・価格:リーダーができない価格戦略 ・チャネル:開放・選択・専属型 ・プロモーション:自社製品集中 |
フォロワー |
リーダーにあえて追随する企業。低コストで開発、生産し、利益を確保 例)シェア20% |
模倣戦略 ・製品:リーダー企業に追随 ・価格:リーダー製品より低価格 ・チャネル:開放型 ・プロモーション:小規模 |
ニッチャー |
リーダーが扱わない分野に資源を集中する企業。高い利益率を確保 例)シェア10% |
独自集中戦略 ・製品:独自ポジショニング製品 ・価格:高い利益確保ができる価格 ・チャネル:選択・専属型 ・プロモーション:ターゲット集中 |
参考:山田英夫著「競争しない競争戦略」(日本経済新聞出版社)・野村総合研究所「経営用語の基礎知識」

2.ニッチ・ビジネスは11に分類できる
P・コトラーは、11のマーケット・ニッチャーの戦略に分類しています。また、ニッチについて新しく創出したり、拡大したり、守る必要があるといっています。また、新たに市場に参入するならニッチから入るべきであるともいっています。
ニッチの専門化 | 説明 |
エンドユーザー専門化企業 | 1種類の末端使用者に対応する専門化した企業。 |
垂直レベル専門化企業 | 生産・流通の価値連鎖における特定の垂直レベルの専門化した企業。 |
顧客サイズ専門化企業 | 小規模、中規模、大規模のいずれかの顧客サイズに集中販売する企業。 |
特定顧客専門化企業 | 販売を1社のみまたはごく少数の顧客に限定する企業。 |
地理的専門化企業 | 特定の地域や地方、あるいは世界の特定地域でのみ販売する企業。 |
製品専門化または 製品ライン専門化企業 | 単一の製品ラインあるいは製品を取り扱ったり製造している企業。 |
製品特徴専門化企業 | 特定の製品あるいは製品特徴を生み出すことに専門化している企業。 |
注文製作専門化企業 | 製品を個々の顧客用にカスタマイズする企業。 |
品質・価格専門化企業 | その市場で最低品質または最高品質のものを生産する企業。 |
サービス専門化企業 | 他の企業が提供できないサービスを提供する企業。 |
チャネル専門化企業 | 1つの流通チャネルのみに専門化した企業。 |
出典:P・コトラー著、恩蔵直人監修、月谷真紀訳「マーケティング・マネジメント」基本編 (株)ピアソン・エデュケーション刊
3.山田英夫教授のわかりやすいニッチの分類
F・コトラーの分類は、専門的で少しわかりにくい気がします。早稲田大学の山田英夫教授は著書「競争しない競争戦略」のなかで3つのタイプと10のニッチ戦略に分類しています。こちらがニッチについて、ぐっとわかりやすく説明されていると思います。以下、僭越ながら簡単に紹介させていただきます。

分類の方法として、質的限定と量的限定の二つの軸で考えています。「質」は、他社がマネできない独自の技術ということです。「量」は、市場が必要とする量が少ないということです。この2軸からできる4つの象限で10のニッチビジネスが分類されています。質的限定も低く、量的限定も低い場合は、他の企業がたやすく参入できるのでニッチビジネスにはならないということです。
以下が10のカテゴリーです。以下が「競争しない競争戦略」で例示されているニッチ戦略と実例企業です。こうしてみるとわかりやすいですね。詳しくは「競争しない競争戦略」をご覧ください。
戦略の分類 | 戦略名 | 事業内容 | 実例企業 |
質限定のニッチ戦略 | 技術ニッチ | リーダー企業が持っていない技術分野での事業 | マニー株式会社:手術用の縫合針で世界一の品質 |
チャネル・ニッチ | リーダーが追随できないチャネルでの事業 | 大同生命保険株式会社:中小企業の経営者向けの生命保険販売。税理士を通じて販売する | |
特殊ニーズ・ニッチ | 特殊なニーズに対応した技術・サービス事業 | トーシンテック株式会社:タクシー用自動ドア専門のメーカー | |
量的限定のニッチ戦略 | 空間ニッチ | 限られたエリアだけでの事業 | セイコーマート(株式会社セコマ):北海道でシェアトップのコンビニチェーン |
時間ニッチ | 限られた時間だけでの事業 | 株式会社LSIメディエンス:ドーピング検査の専門機関。スポーツ大会の開催時に一斉に行う | |
ボリューム・ニッチ | リーダー企業が参入できない小さな市場での事業 | バタフライ(株式会社タマス):競技人口の少ない卓球用品専門メーカー | |
残存ニッチ | 製品ライフサイクルが衰退期の縮小市場での事業 | 東洋化成株式会社:アジア圏唯一のアナログレコードの製造会社 | |
限定量ニッチ | 意図的に生産・供給量を意図的に絞る事業 | Be-1(日産自動車株式会社):大衆車マーチのシャーシを使って限定1万台で発売 | |
質・量限定のニッチ戦略 | カスタマイズ・ニッチ | 完全オーダーメイドの製品やサービスを行う事業 | 株式会社銀座山形屋:スーツの仕立て。型紙を残すので次からは生地を選ぶだけ |
切替コスト・ニッチ | 製品・サービスを切替えるとコストがかかる事業 | クオリカプス株式会社:医薬品のカプセル製造。カプセルを変更すると認可が取り消しとなるため、切替コストが高くなる |
出典:「競争しない競争戦略」山田英夫著 日本経済出版社刊
4.ニッチな飲食店のカテゴリー分類
「競争しない競争戦略」で分類された10のカテゴリーに、ニッチな飲食店をあてはめて考えてみます。これについては、他のページに記載します。そちらをご覧ください。
<追記:新たなニッチな飲食店の分類方法について>
2024年のこれまで、当室でニッチな飲食店を調べてきたところによると、上記のニッチ・ビジネスでの10のカテゴリー分類よりも、ニッチな飲食店として8つに分類するほうが理解しやすいと考えています。これについても別のページで解説しています。そちらも、ぜひご覧ください。
(2025年2月14日改稿)