The marketing for niche restaurants

ニッチな飲食店の戦略:ニッチを見つける  

 

 どのようなニッチを、どのように見つけ出すかです。これが重要です。選んだニッチによって飲食店の一番重要なポイント、お客さま(顧客)が決まるからです。
   
 ニッチだからといって、狭いだけの市場を選ぶとただの市場の細分化になってしまいます。「ヒラメの縁側だけの料理屋」。確かにニッチですが、これだと、ただ珍しいだけの飲食店です。生き残れる可能性がなくなってしまいます。
   
 「ブルー・オーシャンだ。誰も手をつけていない市場を探すべきだ」と思う人もいるかもしれません。でも、ちょっと違います。『ブルー・オーシャン戦略』(W・チャン・キム /レネ・モボルニュ)は大きな市場を見ています。ニッチ戦略とは別のものです。

 ブルー・オーシャン戦略をニッチ戦略と混同するのも望ましくない。マーケティング分野では、精緻なセグメンテーションによってニッチ市場を巧みに手中に収めることが重視されているが、ブルー・オーシャン戦略はこれと逆の方向を目指す。買い手グループ間の大きな共通点に着目して市場の脱セグメンテーションを図り、できる限り大きな需要を取り込もうとするのだ。  (第11章レッド・オーシャンの罠を避ける)

 ニッチの探し方。ここでは3つです。ひとつは社会で問題になっていることを解決すること。もうひとつは、経営学者ピーター・ドラッカーが言う「すでに起こった未来」を探すこと。最後のひとつは大事なことです。自分が好きなことはなにかです。
    
 また、ニッチを決めるときに「使命(ミッション)」について考えることです。さらに、ターゲットとなる顧客を決めることが大切です。ターゲットについては別ページでご説明します。

1.社会の問題はたくさんある。この問題を解決すること

 飲食店に関係した社会の問題は、まずは「健康」だと思います。健康で困っている人がたくさんいます。飲食店ビジネスはこの問題に無関心です。儲かりそうもないと思っているからでしょう。
   
 健康について、もっと真剣に取り組むべきだと思います。そのことが、長い目でみると成長につながるはずです。「その話、もう聞いた」なんて言わないでください。とても気になっていることです。
   
 社会の問題のなかからニッチを探すということでは、SDGs(Sustainable Development Goals)がヒントになります。いま流行中ですね。
   
 SDGsで取り上げているのは、貧困や飢餓、気候変動などの問題です。社会に問題があれば、課題として解決する必要があります。そこには「仕事」があります。
   
 飲食店ビジネスで貧困や気候変動の問題まで解決できません。しかし、「飢餓をゼロに」や「海の豊かさを守ろう」など飲食に身近な目標もあります。
   
 たとえば、海洋資源については天然資源の漁獲をおさえ、養殖で資源を守るようにと言っています。居酒屋などでは「天然本マグロ」などをいいものとして売っています。未来を考えると、天然よりも養殖魚のよさを売りにするお店にチャンスがあるはずです。
    
 世界中の人が毎日食事をしています。食べることに関連して困っている問題がたくさんあります。そこからニッチな飲食店ビジネスになるものを見つけ出すことは、それほど難しくないことだと思います。

2.すでに起きている未来がある

 さらにいいヒントがあります。経営学者のドラッカーが教えてくれています。ドラッカーは「すでに起こった未来を探せ」と言っています。これから先に起こるだろうことがわかっているなら、そこにビジネスの機会があるからです。ドラッカーは5つの領域を示しています。

(1)人口構造

 日本では人口減少と高齢化が進んでいます。このことは数十年も前から予測されていました。人口の増加率が着実に減少していたからです。人口の変化は確実な未来です。
   
 2023年の出生者数は約73万人を割り込み、過去最低が予測されています。これから先も人口は、さらに減り続けます。どうするのかを考えておくべきです。ニッチな飲食店のビジネス機会にもなります。

 この問題を解決する赤ちゃんが増えそうなレストランはできないでしょうか。

(2)知識

 新しい知識が社会に広まるのには時間がかかります。しかし、昔、映画でみた空飛ぶクルマ。すでにドローンで実験が始まっています。間もなく現実になるはずです。
   
 「空飛ぶクルマ用のドライブスルーレストラン」ですか。いいですね。まだ少し早いかもしれませんが。でも、いま開発中の新しい技術はどこかのタイミングで社会に登場するはずです。

(3)ほかの産業、ほかの国、ほかの市場

 アメリカなどではじまったビジネスを先に取り入れること。明治維新や第二次大戦後、多くの実業家がこのパターンで成功しました。
  
 飲食では、世界一と言われるスペインのシェフ、フェラン・アドリアが開発した調理法「エスプーマ」。食材をムース状にすることで話題になりました。すでに日本でも広がっています。
   
 スイスのレストランでは、タブレットに料理を盛りつける試みがおこなわれているようです。炭火の映像と音を背景にステーキが出てきたら味わいも変わるのではないでしょうか。

(4)産業構造

 産業界で起きている変化です。ドラッカーはたとえば「素材革命」だと言っています。農業から生まれる食材がわかりやすいですね。かつて新大陸から来たジャガイモやトマトがそうでした。

 飲食店に関連するものなら「昆虫食」「代替タンパク」「完全食」もありますね。調理法が普及へのきっかけです。新しい食材の普及には専門の料理家がどうしても必要です。レストラン・飲食店での経験から家庭へと広がっていきます。

(5)企業の内部

 つまり「もめ事だ」とドラッカーは言っています。おもしろい言い方です。アメリカの電話会社ATTが、電話の新規加入の時代が終わり、組織が右往左往してもめた事例をあげています。
   
 もめ事があるのは、問題があるから。解決する必要があります。飲食でもトラブルはたくさんありますね。お客さまと、あるいはスタッフ同士など。解決方法を考えることが新しいニッチな飲食店になるかもしれません。

3.あなたの好きなことはなにか

 『ニッチ(Niche)新しい市場の生態系にどう適応するか』の著者J・ハーキンは、ニッチ市場を見つけて味方につけるためには「カルトを育てる」ことだと言っています。
  
 カルト宗教というと、ちょっと引いちゃうかもしれませんがそれほどではありません。ハーキンは具体的な例として、トム・ヒックスというバイクショップ(サザン・カリフォルニア・モーターサイクルズ)の経営者の歩んできた道を紹介しています。以下引用です。

 イタリアのオートバイブランド、ドゥカティのみを扱っていて…(中略)、ノーブランドのパーツやアクセサリーも一切置いていない。売り場にはドゥカティの関連商品が所狭しと並び、レースに参加したドゥカティライダーのサイン入り写真が壁を埋め尽くし…(中略)、初めて訪れた人には、ショールームというよりもドゥカティの聖地のように見えるだろう。
……
 ヒックスはまぎれもないバイク信者だった。オートバイの魅力に取り憑かれ、自分の話に耳を傾けてくれる人すべてを、自分と同じように信者にしようとした。そのためには、店にきてくれる顧客を信者のなかに組み入れる必要があるとわかっていたので、自分のショールームにバイクの素晴らしさを語ってくれる伝道師となる信者が集まれるようにした。

 オートバイに恋した彼は四度の離婚と一度の破産を経てショップを開きました。バイクという好きなことに集中したこととファンづくりで成功したようです。
   
 「このやり方がカルト集団だ。キリスト教も最初はカルト宗教として生まれた」とハーキンは言っています。このバイクショップの本質は小さな宗教活動かもしれません。
   
 ハーキンの言っていることは「好きなことを一生懸命にやる」です。自分の強みとは結局「それが好きだから」ではないでしょうか。好きなことならば、毎日考え続けても、一日中働き続けても楽しいはずです。
   
 しかし、「好きならゲームでもゴルフでもいいのか」。そんなことはありませんね。そこに価値があるのかが大切です。仕事をすべき価値、すなわち使命(ミッション)について考える必要があります。

4.どれを選ぶのか。使命(ミッション)について考える

 ここまで、どうしたらニッチな飲食店の「ニッチ」を選び出せるかについて書いてきました。ニッチを見つけ出すことは小さな市場を選ぶことですから、それほど難しくないと思います。しかし、選んだニッチのどれにするかは決心が必要です。
  
 決心の手助けになるのは「なにをしたいのか」という自問です。お店ですから自分だけでなく、スタッフや協力してくれる人、お客さまもふくめてひとつの組織です。組織ならば、なぜ存在するのかの理由がなければなりません。これが使命(ミッション)です。
    
 「すでに起きている未来」で出てきたドラッカーが使命についても語っています。救急病院の例です。最初、救急病院のメンバーが考えた使命は「健康」でした。しかし、よく話し合ったあとで使命は「患者の安心」だと気が付きました。
   
 かつぎこまれた患者と家族にとっては、医者の「あすの朝にはよくなっているでしょう。心配はありません」という言葉が大切だということにたどりついたからです。
   
 よく考えた使命があれば、判断で迷うことがありません。その使命を達成するためになにをすればいいのかを一番に考えればいいわけですから。
   
 ドラッカーは「使命はシンプルな言葉にすること」と言っています。できればTシャツにプリントできるようなものとしています。「だれにでもわかる」という意味です。
   
 また「金のために妥協してはならない」とも言っています。やがて魂を売ることになるからです。「フェラーリに乗りたいからビジネスをやりたい」はダメかもしれません。いつも使命について考えていることが大切です。

●まとめ:「ニッチな飲食店」ならニッチを決めなければなりません。難しいことです。しかしニッチを決めない限りは始まりません。ニッチが決まれば、マーケティングでもっとも大切な「お客さま」が決まるからです。お客さまについては別ページでご紹介します。

<参考文献>
P.F.ドラッカー『経営者に贈る5つの質問』ダイヤモンド社 2017
P.F.ドラッカー『創造する経営者』ダイヤモンド社 2007
W・チャン・キム /レネ・モボルニュ『ブルー・オーシャン戦略』ダイヤモンド社 2015
ジェームズ・ハーキン『ニッチNICHE』東洋経済新報社 2013

2022年12月28日掲載 2024年6月19日改稿

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