こんぶなどの海藻、今はシーベジタブル(sea vegetable)とも言います。世界でも食材として期待がたかまっています。海藻食は日本の伝統。世界のなかでもっとも豊かな海藻食文化があります。早めに元祖として新しいメニューを開発し、海藻料理専門レストランをオープンさせましょう。永遠の儲かりブランド「元祖レストラン」の名が手に入ります。いまがチャンスです。

I.海藻レストランがなぜ注目されるのか

 食べて健康になりたい。食材としての新しい発見。

1.海藻ベンチャー企業「シーベジタブル」が熱い

 2016年、海藻を愛する二人の若い起業家によって新たな海藻食文化をつくる会社「合同会社シーベジタブル」が設立されました。

 海藻の生産・加工・販売から研究開発、協業など意欲的な活動を行っています。2025年5月にはテレビ番組「ガイアの夜明け」でも紹介されました。
   
 たとえば黒のりの生産。おにぎりに欠かせないのりは、最近の気候変動などによって生産量が減少、価格も高騰しています。
   
 シーベジタブル社では、黒のりの陸上養殖での量産化に成功。画期的な成果となっています。そのほか、すじ青のり、とさかのり、はばのりなどの多くの海藻類を生産し販売しています。
   
 最近ではセブン‐イレブンが同社のすじ青のりを使った「塩焼そば」を販売。さらに高級食品販売のディーン&デルーカは同社のとさかのりを使ったサラダや海藻パスタなどを販売しています。
   
 社名の「シーベジタブル」は海藻の新しい呼び名でもあります。1977年にジュディス・クーパー・マドレナー(Judith Cooper Madlener)がシーベジタブルの呼称を提唱したとのこと(『海藻の食文化』今田節子)。いいネーミングだと思います。
   
 日本語の海藻も英語のsea weed(海草)も食欲があまりわきません。しかしシーベジタブルとなると途端にイメージが変わります。「海の野菜」なら食べものとして響きます。食品会社から専用のドレッシングが発売されるかもしれません。
    
 海藻ではなく海の野菜、シーベジタブルとなれば日本や世界の食文化も変わると思います。これまで、あまり表舞台に出てこなかった海藻が脚光を浴びることになります。シーベジタブル、これから熱くなりそうです。

シーベジタブル社の製品

2.海藻食は古代からの日本の食文化。やがて消えてしまうのか

 知っている海藻は?「のり、こんぶ、わかめ、ひじき」。え、まだある?「てんぐさ、あおさ、もずく、海ぶどう」。先生ですね。「あかもく、えごのり…」。もうシーベジタブル博士です。
   
 海藻は日本近海で約1,500種類。植物のように思えますが正しくは藻類です。菌類のきのこと同じように胞子で増えるものです。
   
 日本では古代から食べられてきました。万葉集にも「玉藻(たまも)」などとして多くの和歌に詠まれています。玉藻とは藻類の美称です。

山部宿禰赤人(やまべのすくねあかひと)
潮干(ひ)なば玉藻刈りつめ家の妹(いも)が浜づと乞(こ)はば何を示さむ 

 潮が引いたらせっせと玉藻を刈り集めておきなさい。家に待ついとしい子が浜の土産を乞い求めたなら、この玉藻のほかに何も見せるものはないのだから。(万葉集(一)伊藤 博訳註)

 和食ならこんぶの出汁(だし)ですね。1908年(明治41)年、池田菊苗(いけだきくなえ)がこんぶから「うま味」成分としてグルタミン酸の抽出に成功。協力者の鈴木三郎助によって「味の素」が発売されました。それまでの塩味、酸味、苦味、甘味に新たにうま味が加えられ五味となりました。
    
 海藻を使ったメニューでは「ひじきの煮物」「若竹煮」「こぶ巻き」などが思い浮かびます。どれも伝統的な和食。でもちょっと地味なかんじです。現代の食卓で活躍できていません。これが少し問題だと思います。
   
 近年、国内では消費も生産も減少しています。家計調査年報では乾物・海藻の年間支出額は2006年以降、10,000円を下回っています。
   
 こんぶの主な生産地は北海道です。生産量は温暖化による水温の上昇などもあって30年間で三分の一にまで減少しています。
   
 世界でも類をみない日本の海藻食文化。このままではやがて失われてしまうかもしれません。

乾物・海藻の年間支出金額
こんぶの生産量

4.日本人が長寿なのは海藻を食べるから?

 世界で海藻食が注目される理由のひとつは「健康」です。低カロリーであること。第6の栄養素といわれる食物繊維も豊富。ミネラル、ビタミンなどもたっぷりです。
   
 こんぶ、わかめ、ひじきとキャベツ、たまねぎの栄養素を比較してみます。海藻類は野菜類と比べて食物繊維、カルシウム、マグネシウム、ヨウ素、βカロテン(ビタミンA)などに優れています。
   
 日本人は1日あたり平均での海藻を9.8g食べています(令和5年国民健康・栄養調査/厚生労働省)。日本が世界のなかでも最長寿の国のひとつであることの要因は海藻を食べることであるという専門家もいます。
   
 スーパーの棚には「機能性表示食品」「トクホ(特定保健用食品)」「糖質カット・低カロリー」など健康訴求の商品が目立っています。人びとは健康にこだわっています。健康になりたいという病気にかかっているようでもあります。
   
 一方で飲食店ビジネスでは安いことやたくさん食べられることなどにこだわっています。食品会社のような健康訴求に関心がありません。消費者の変化に気が付いていないともいえます。
   
 海藻=シーベジタブルのもつ健康機能はこれから間違いなく期待されるものとなります。海藻は海の野菜、シーベジタブル。価値ある食材ということがわかれば「シーベジタブル社」のような企業活動が広がり、消費も生産も伸びるはずです。

海藻と野菜の栄養素比較

5.ケルプ・ハイウェイ。人類は海藻で進化した

 日本ではあたり前の海藻食。韓国などの東アジアの国ぐにを除くと世界で食べる国は少ないようです。「海岸に落ちているものをどうして食べるの?」でしょうか。
   
 『海藻の歴史』(カオリ・オコナー著)ではアジアの国ぐに以外のハワイ、北米の太平洋岸・大西洋岸、メキシコ、チリなどの多様な海藻料理も紹介しています。
   
 ヨーロッパで主に海藻食の習慣があるのはイギリスとアイルランドのようです。
   
 イギリスのウェールズ地方では「ラバー(あまのり)」が食べられています。ラバーをゆでてペースト状になるまで煮つめます。そのまま食べたりオートミールに混ぜたりするとのこと。
   
 ウェールズの対岸の国、アイルランドでも海藻が食べられてます。赤い海藻(紅藻類)のダルスもそのひとつ。乾燥させたものを揚げて、焼いて、煮て、刻んでとどんな料理にでも使えるようです。
   
 アイルランド人は1845年からのじゃがいも飢饉で多くの人が移民としてアメリカにわたりました。海藻が豊富だった移住先のマサチューセッツ州などではアイルランドで食べていたダルスも食べていたようです。
   
 やがてアメリカの食文化とも融合し、新しい食べ方が広がっていきました。現在ではダルスとレタスとトマトのサンドイッチ、BLTではないDLTサンドも登場しています。
   
 人類と海藻は地球規模でかかわっています。古代、人類がユーラシア大陸からアメリカ大陸にわたったことはご存じかと思います。
   
 人びとは千島列島からアリューシャン列島、ベーリング海峡をわたりアメリカ大陸に到達。アラスカ、カナダ、アメリカの北太平洋沿岸を南下して約1万8500年前にチリ南部に到着したとされています。
   
 そのルートは「ケルプ・ハイウェイ」とよばれています。ケルプとはこんぶのこと。こんぶのある海岸沿いに移動したのです。栄養豊かなこんぶ、海藻が育むさまざまな魚や貝、アザラシなどの動物を食べて移動していったと考えられています。
   
 人類が世界中に広がったのは海岸の海藻の存在がカギになっていたのです。人類の歴史はこれまでも、これからも海藻と強く結びついているはずです。

ケルプハイウェイ

II.「シーベジタブルレストラン」のマーケティング戦略

 お客さまが知らない海藻料理専門レストランをどうしたら繁盛店にできるか。

 マーケティングの基本STP、つまりセグメンテーション=市場の細分化、ターゲティング=ターゲット市場の選定、ポジショニング=自社の立ち位置などから考えます。
   
 さらにサービス・マーケティングの7P(製品・場所・価格・プロモーション・人・プロセス・物理的証明)からも考えてみます。ここから「海藻」は「シーベジタブル」とします。

6.ターゲットは女性。シーベジタブルの腸活で悩みを解決

 セグメントはシーベジタブル。競合のない新しい飲食店なのでポジショニングはありません。ターゲットの選定が重要です。
   
 ターゲットは女性に絞ります。健康や体重管理を気にする人たちです。低カロリー、食物繊維が豊富、ミネラル、ビタミンがたっぷり。シーベジタブルなら女性の健康的な食事としてピッタリです。
  
 東京・初台の「かんてんぱぱcafé」。かんてんメーカーの伊那食品工業(株)のアンテナショップ兼レストランです。
  
 お客さまのほとんどが女性。目的は「腸活」です。かんてん(乾燥)の約80%は食物繊維。来店してランチを食べたお客さまは、ショップでお土産のかんてん製品をたくさん買って帰ります。
  
 腸活の目的のひとつは「お通じ」です。多くの女性の悩みです。スーパーやドラッグストアで売られている機能性表示食品など保険機能食品が示す効能の2番目が「整腸効果」です。いかに多くの人がこれに悩んでいるのかがわかります。
  
 腸活には食物繊維が必須。ところが食物繊維の摂取が不足しています。厚生労働省が目標とする食物繊維の摂取量は1日あたり男性21g、女性19g。しかし実際には14g前後しか摂れていないようです(厚生労働省e‐ヘルスネット<食物繊維の必要性と健康>)。
   
 食物繊維の訴求は女性に響くはずです。提供する価値は「シーベジタブルの食物繊維で腸活」。ここをおさえておけばターゲットの女性がかならず来店するはずです。

効能としての整腸効果
かんてんぱぱcafe
伊那食品工業のアンテナショップ「かんてんぱぱcafé」。かんてんメニューで女性に人気です。

7.プロダクト。メニュー開発で元祖の店になる

 店のメニューはこぶ巻きとわかめのみそ汁。これでは女性のお客さまに来ていただけません。「シーベジタブル?海藻?海藻だけに気ノリがしないわ。ほほほ」と言われそうです。ノリ越えなければいけません。新しいメニュー開発が必要です。
    
 元祖メニューのレストランになることです。「ニッチな飲食店」のもっとも効果的な戦略です。このホームページでもニッチな飲食店の戦略「元祖メニューをつくる」としてお伝えしてきました。
  
 たとえば東京・銀座の「煉瓦亭」。明治32年からポークカツレツ、エビフライ、オムライスなど「洋食」と言われるメニューを開発しました。 
  
 東京・赤坂の四川飯店。昭和30年代に辛い四川料理を日本人向けにアレンジ。麻婆豆腐、担担麵、エビチリソースなどのメニューを開発しました。
   
 そのほか東京・渋谷のスパゲッティ専門店「壁の穴」は和風スパゲッティ。東京・日本橋の「吉野鮨本店」はトロの握り。長崎の「四海樓(しかいろう)」はちゃんぽん。「日本橋三越本店」はお子様ランチ…。
  
 元祖になれば覚えてもらえ「あの店にいきたい」となります。リンドバークはだれもが知っていますが2番目に大西洋を横断した人はだれも知りません。ちなみにですがバート・ヒンクラーさんだそうです。
  
 これまでの料理の歴史から考えれば新メニューは難しい話ではありません。『海藻の歴史』のなかでも世界の国ぐにのちょっとビックリするような料理が紹介されています。新メニューのヒントになるはずです。
    
 世界の中でシーベジタブルはあまり使われていない食材です。元祖メニューの可能性に満ちています。新メニューが広がれば元祖です。名前が知られ、多くのお客さまが店にやってくるはすです。

8.プロモーション。「コンテンツ」。のりが食べられるのは英国人女史のおかげ

 Webサイトなどで伝える情報はコンテンツ。これを活用することをコンテンツ・マーケティングといいます。
   
 昔からあるシーベジタブルですが、実はよく知りません。情報が必要です。しかし情報だけではカタイ。つまらないですね。楽しい話、おもしろい話、話題になる話が必要です。
   
 たとえば、こんな話があります。のり養殖技術の発展に大きな貢献をした英国人女性がいます。藻類学者のキャスリーン・メアリー・ドゥルー=ベイカー(Kathleen Mary Drew-Baker、1901年~1957年)博士です。ウェールズでのりの生態を研究。1949年、のりの複雑な繁殖サイクルを解明、ネイチャー誌に発表しました。
   
 これを知った九州大学の瀬川宗吉教授が、それまで困難だった大規模なのりの養殖技術を革新。以後、大量に安定してのりの生産ができるようになりました。
   
 ドゥルー女史の功績をたたえるために、熊本県宇土市の有明湾を一望できる小高い丘に碑が建てられています。また毎年4月には地元の人たちによってドゥルー祭も行われています。
   
 いま私たちが毎日のりを食べられるのはイギリス人のドゥルー女史のおかげです。恵方巻を食べるときに向く方向はイギリスのある西北西にすべきです。
   
 理解が深まれば興味もわいてきます。これがコンテンツ・マーケティングです。時間と手間がかかります。しかし強豪ボクサーを打ち倒すためには、たくさんのコンテンツというボディブローの連打が必要です。

9.人。AIの時代、人からの信用できる話に価値が生まれる

 サービス・マーケティングの手法として「人(ピープル)」があります。お客さま、経営者・スタッフ、関係者などの人です。
   
 シーベジタブルのことを「伝える人」が必要だと思います。お店でお客さまと話す、コンテンツに登場するなど実際に顔を見せる「人」が大切です。
   
 はじめての店に入るとき、そこにどんな人がいるのか不安ではありませんか。「だまって食え!」と言う店主がいるかもしれません。しかしホームページやSNSで「店の人」が登場していれば安心です。
    
 直接顔をあわせて話ができれば情報の信頼につながります。それは重要なプロモーションであるクチコミにもつながります。
   
 「クチコミならSNS」かもしれません。飲食店でも熱心にインスタに情報をアップしている店もあります。SNSも大切ですが、それだけに頼らないほうがいいと思います。
   
 『情報通信白書』にもありますが、SNSなどの情報を信用できないと思う人も多くいます。ネット情報はまず疑うのが常識です。大切な要件と思えるメールのリンクをクリックするのは勇気が必要です。
   
 AIなどの利用でフェイクニュースが激増。ネットのクチコミへの信頼は失われています。店の人と直接話したこと、実在する友だちが経験したこと、食べたときの話など、人から人へのクチコミが有効です。
  
 店の「人」が直接お客さまと接すること、語ることが新しいお客さまを呼び込むプロモーションになると思います。

情報通信白書

10.まとめ。古くからある海藻で新しい取り組みをして進化する

 シーベジタブルレストランは「ニッチな飲食店」です。知られていない「ニッチな飲食店」にお客さまに来てもらうためのマーケティング戦略をいくつかお話ししました。
    
 まずは「ターゲット」の選定。腸活など健康に関心のある女性としました。また「プロダクト」として新しいメニューの開発。できれば元祖メニューとなって認知の拡大につなげたい。
   
 さらに「プロモーション」としてコンテンツによる情報提供。それも、できれば楽しい、おもしろい、話題になる話を提供すること。
   
 最後に「人」。シーベジタブルのことを伝える人が必要ということです。聞いた人に信用してもらうためには直接顔をあわせ、会話すること。
   
 SNSやネット情報の使い方も考えながら、人から人へと直接つながる情報の価値を大切にしたいですね。
  
 ケルプ・ハイウェイをたどった人類。その進化はシーベジタブルのおかげとも言えます。いまの時代に、あらためてシーベジタブルでもう一歩進化したいものですね。

      

 海藻については知らないことばかりでした。重箱の隅にこびりついた「わかめ」をつつくつもりで書いてみました。ふと気がつくと、さっき食べた焼きそばの「青のり」が歯に…。海藻は身近なものです。

<参考文献>
合同会社シーベジタブルホームページ https://seaveges.com/
テレビ東京『ガイアの夜明け』2025年5月15日放映
伊藤 博訳『新版 万葉集 一 現代語訳付き』角川ソフィア文庫 2009
清水洋美『池田菊苗 うま味の素「グルタミン酸」発見』汐文社 2021
汲玉(きゅうぎょく)『ヨウ素たっぷり海藻浄化レシピ』文化学園文化出版局 2011
医歯薬出版編『日本食品成分表2024八訂』医歯薬出版 2024
ルーカス・カッシンガー/井上 勲訳『藻類 生命進化と地球環境を支えてきた奇妙な生き物』築地書館 2020
カオリ・オコナー/瀧 和子訳『海藻の歴史(「食」の図書館)』原書房 2018
雑誌『vesta ヴェスタ 来るべき未来の食』味の素食の文化センター 農山漁村文化協会 2023