お米が心配ですね。でも近い将来の食肉不足も心配です。米と同じで問題は価格。いまのうちに日本が得意な大豆料理のレストランを増やすべきです。大豆はたんぱく質などの栄養価に優れています。豆腐など日本の伝統食だけでなく、世界の豆料理やフードテックの大豆食品料理などを取り入れましょう。大事なことは、大豆料理の技術と知識を地域で共有することです。大成功した事例があります。
1.令和の米騒動。騒ぎはお米だけで終わるのか?
2025年の春。「お米がない」と叫んでいます。しかし、いつか米だけでなく「肉がない」と叫ぶときがくるかもしれません。
2025年の世界の人口は約80億人。2050年になると100億人近くになります。食肉の不足はもう見えています。生きていくためには肉や魚などのたんぱく質がどうしても必要です。
牛・豚・鶏などの食肉の消費量は世界全体で2023年は約3億3,300万トン。10年後の2033年は約3億7,200万トンで約4,000万トン増加すると予測されています(OECD/FAO)。
そのうち先進国の増加量は10年で4.5%、約500万トン程度です。健康や環境、アニマルウェルフェアなどの問題から増加量は小幅です。
一方、発展途上国は16.8%、約3,300万トンの増加となります。所得や人口の増加によって食肉の消費量が大幅に増えます。
食肉は生産コストがかかり高価格です。金持ちなら大丈夫です。「私は金持ち」という人はここから先読まなくて大丈夫ですよ。そうでない人は「肉は我慢」でしょうか。肉を求めても食べられない人が出てきそうです。
すでに日本の二人以上の家庭のエンゲル係数は2014年ごろから上昇中です。この先、食費のためにたくさんお金を使うことになります。肉を買う余裕がなくなるかもしれません。どうしたらいいのでしょうか?
もう答えは出ています。大豆です。大豆料理のレストラン市場は拡大しそうです。


2.大豆をどうやって食べるのか?
乾燥した大豆の33%はたんぱく質です。必須アミノ酸9種類も含まれています。大豆は肉と同じように栄養価が高い食べ物です。ビーガンやベジタリアンたちの大切な食べ物になっていることからもわかります。
もうひとつは生産量です。世界で生産される大豆は約4億トン。多くは大豆油などの原料となっています。人類が食べるものとして十分な量があります。
さらに最近ではフードテックとして、大豆を肉のように加工した大豆ミートが開発されています。大豆ミートのハンバーガーなら食べてもそれとわからない人もいると思います。
食肉に代わるたんぱく質として食肉の細胞を増殖させる培養肉、たんぱく質が豊富な昆虫食なども注目されています。しかし「フランケンシュタインみたいな肉?」とか「虫を食べるの?」という人がいるはずです。食べたいと思うフードテック食材のアンケートでも大豆ミートが人気です。大豆ミートがもっとも現実的な解決策だと思います。
となると大豆をさまざまな料理にして上手に食べられるようにすることが未来の肉不足の解決策になります。


3.日本にたくさんある大豆食品。世界にもおいしい豆料理がある
栄養価も生産量も優れている大豆。日本には大豆を使った食品が豊富にあります。豆腐、油揚げ、湯葉、豆乳、しょうゆ、みそ…。外国人には不人気でも日本人が大好きな納豆もありますね。
レストランということでは、豆腐料理専門店が都内にも古くからいくつかあります。少し珍しい納豆料理の専門店もあります。
世界の国ぐにには豆料理がたくさんあります。中近東では、ひよこ豆をペーストした「フムス」やコロッケのように揚げた「ファラフェル」が食べられています。
ベジタリアンが多く、豆をたくさん食べるインドでは「ダール(豆)カレー」などが有名です。都内のインド食材店をのぞいてみると、驚くほどたくさんの種類の豆が販売されています。
そのほかメキシコのチリコンカーン、ブラジルのフェジョアーダなど世界の各国に名物豆料理があります。大豆料理のレストランのメニューとしても取り入れたいものです。


4.フードテックの大豆ミート。肉の魅力に勝てるのか?
前述の大豆ミートを使ったメニューもたくさんでてきています。ビーガンやベジタリアン向けの大豆ミートのハンバーガーはマクドナルドやモスバーガーでも販売されていますね。
東京・原宿のビーガン料理「ヴィーガンビストロじゃんがら」では、特製ダレで味付けした大豆ミートがジュージューの鉄板焼きで提供されています。
新しい豆料理を開発する飲食店もあります。新百合丘駅近くの豆料理専門店「カフェ ピース」。こだわりの豆料理です。写真は大豆ミートとひき肉のミートボールです。新しい工夫がありますね。
どれもおいしくできています。しかし残念ながら豆料理には肉や魚ほど食欲をそそる魅力はありません。「やっぱり肉が食べたい」が本音です。
毎日のように大豆を食べるには、もっとたくさんの新しい大豆料理のレシピが必要です。大豆料理の開発。すぐにできそうもありません。どうしたらいいのでしょうか。難しいことですが、それを可能にするヒントがスペインにあります。

5.レシピを共有して成功した美食の街サン・セバスティアン
スペイン北部バスク地方のサン・セバスティアン。新バスク料理の街です。世界でも最高峰ともいえる美食の街。街全体で料理の知識を共有して大成功した都市です。
この地域一帯に世界中から観光客が押し寄せています。地域全体で料理技術や知識を共有する活動が実りました。以下『現代バスクを知るための60章‐「新バスク料理とガストロノミー産業‐バスク・ガストロノミーの功績」上田寿美』から引用です。
その歩みは、ドノスティアの料理人であるファン・マリ・アリサク(Juan Mari Arzak, 1942年~)とペドロ・スビハナ(Pedro Subijana, 1948年~)が1976年にマドリードで開催された雑誌『グルブ・デ・グルメ』のイベントで、 ポール・ボキューズ(1926~2018年)らが提唱するフランスの新しい料理(ヌーベル・キュイジーヌ)運動に感銘を受けたことに始まる。イベントから戻った二人は、ギプスコア県にゆかりのある料理人らとグループを結成し、新バスク料理の模索を開始した。バスク料理界の重鎮であり、このグループの一員であるルイス・イリサル(Luis Irizar, 1930~2021年)によれば、結成当初のメンバーはレストラン経営者を含む11人であったという。そこでは互いの技術や知識を惜しみなく与え合うというグループの理念に基づき、各料理人が研究を重ねた最上のレシピがグループ内で共有された。
『現代バスクを知るための60章』P323
新バスク料理の活動はレシピの共有だけではありませんでした。世界料理学会の開催、料理大学の設立、食文化関連の博物館の設立など多岐にわたっています。
サン・セバスティアンの成功はレストラン一軒の成功を目指すのではなく、地域全体で料理技術や知識を共有し、広めたことによるものでした。
サン・セバスティアンの成功を参考にして、世界各地や日本でガストロノミーツーリズムとして活動する地域がたくさんでてきました。
大豆料理だとしても地域全体で料理技術や知識を共有することで、肉や魚料理を超えるレシピができるはずです。そのレシピはレストランで提供され、未来の日常の食事として社会や家庭に広がっていくはずです。これが「大豆料理レシピ共有連合レストラン」の構想です。

6.まとめ。大豆料理レストランは「レシピのオープンソース化」で成長する
サン・セバスティアンの成功のキーワードはオープンでした。つまり「レシピのオープンソース化」です。
おいしい大豆料理のレシピを公開する。「そんなバカな。レシピを公開してしまったら家でつくって店にはきてくれない」。そんなことはありません。
「ニッチな飲食店」ならばお客さまが来ます。どうしても食べてみたいからです。家でつくったものが店と同じなのか、友だちもつれて確かめに来るはずです。
キッチンでつくっているところも公開しましょう。最近ではオープン・キッチンの店も多くなっていますね。オープン・キッチンならお客さまの期待感も高まります。
カメラも入れてシェフがつくっているところを中継しましょう。古館伊知郎風の名調子で実況中継してもらいましょうか。
「あっと、ここでいきなりオイスターソースの投入だぁ!」「ブレーンバスターならぬ大豆のフライパン返しかぁ」「おっと、キャベツがロープから飛び出した!場外乱闘がはじまったぁ!!!」。
<参考文献>
阮 蔚『世界食料危機』日経BP 日本経済新聞出版 2022
神門善久『食料危機の経済学:虚構性と高度消費社会』ミネルヴァ書房 2024
佐藤隆一郎『健康寿命をのばす食べ物の科学』ちくま新書 2023
田中宏隆、岡田亜希子『フードテックで変わる食の未来』PHP新書 2025
萩尾 生『現代バスクを知るための60章』明石書店 2023
尾家 建生『ガストロノミーツーリズム 食文化と観光地域づくり』学芸出版社 2023