食物繊維の新しい常識として「発酵性食物繊維」が話題になっています。この分野に詳しい京都府立医科大学の内藤裕二教授の本『健康の土台をつくる腸内細菌の科学』も注目されています。
    
 2024年9月27日付朝日新聞の記事でも内藤教授が発酵性食物繊維について、いろいろと語っています。
    
 発酵性食物繊維は新カテゴリー。「ニッチな飲食店のマーケティング企画室」の出番ですね。内藤教授の新しい見解から新提案の「ニッチな飲食店」を構想してみました。
     
 食物繊維については2023年の6月に『全国400万人が待っている。食物繊維レストラン「しょくもつせんい」』でレポートしました。今回はその第2報、バージョン2.0です。

I.食物繊維の新カテゴリー。「発酵性食物繊維」

 まず発酵性食物繊維がどんなものなのか調べてみましょう。

1.「腸活」は健康増進の中心。

 もはやブームというよりも生活常識になった「腸活」。ビフィズス菌などの腸内細菌の多様化と活性化が健康にとって大切のようです。腸内細菌の数は100兆個ともいわれています。「どうやって数えたの?」と突っ込みたくなりますよね。
    
 さらに腸内細菌は免疫機能や睡眠、メンタルの健康にも関わるようです。睡眠改善の「ヤクルト1000」は2022年に爆発的に売れ、日経トレンディ2022のヒット商品第1位にも輝きました。乳酸菌シロタ株が1,000億個とのこと。ここでまた「だれが数えたの?」と聞きたくなりますね。
    
 ということでスーパーのヨーグルト売り場や乳酸菌飲料コーナーは人気商品と新商品であふれかえっています。
   
 その腸内細菌の食べ物、つまりエサである食物繊維。実はこれが重要です。
   
 たとえば納豆。100g中9.5gの食物繊維(日本食品成分表)が含まれています。しかも発酵食品。スーパーの納豆売り場は各メーカーの商品で山積み。夕方には人だかりです。
    
 腸内細菌を食物繊維で活性化させる腸活。この先も長く、私たちの健康増進の中心であり続けるはずです。

腸内細菌
腸内細菌はビフィズス菌などの善玉菌、悪玉菌、日和見菌(ひよりみきん)に分類される

2.日本人は食物繊維が不足

 腸活の主役は腸内細菌。そのエサとして必要な食物繊維。ところが日本人の食物繊維の摂取量は不足しています。
    
 厚生労働省の目標値は1日あたり男性21g、女性19gです。しかし実際には14g前後しか摂れていないようです(厚生労働省e‐ヘルスネット<食物繊維の必要性と健康>)。
   
 「じゃあ、あと7gぐらい、がんばればいいか…」なんて安心しないでください。世界標準であるWHO(世界保健機関)のハードルはもっと高く、食物繊維は1日25g以上となっています。
      
 ごぼうを毎日一本100gかじっても5.7g。「2本か…。無理…」ですよね。不足分は容易に補えません。

  
 原因は日本の食卓です。白いごはん、ときどき白いパンか白いめん。白い炭水化物には食物繊維があまり含まれていません。
    
 ごはん100gの食物繊維はわずか0.3g。お茶わんいっぱい(150g)食べても0.5gしかありません。厚生労働省がすすめる野菜350gをしっかり食べても食物繊維は不足します。
      
 日本人に食物繊維が不足する原因について内藤教授は以下のように述べています。

一番の理由は主食の変化です。戦後、玄米や麦を含む炭水化物に由来する食物繊維が明らかに減っています。食生活の「欧米化」も関係しています。肉などの動物性食品にシフトし、かつて重要なたんぱく源だった大豆や、野菜や果物を食べなくなりました。(2024年9月27日付朝日新聞)

 日本人が麦、玄米、大豆などを食べなくなり食物繊維が不足するようになりました。

 一方で欧米の人たちは1日のなかの1食を全粒粉のパンやライ麦パン、オートミールなどの茶色い炭水化物にしています。これでWHOの目標値、食物繊維25gをクリアしているようです。

3.思っている以上にスゴイ。食物繊維の効果

 食物繊維の効果は「お通じをよくする」ぐらいに考えている方が多いかもしれません。ところが内藤教授は食物繊維にはもっと驚くような効果があると指摘しています。

食物繊維をしっかりとることで、2型糖尿病、胃がん、乳がん、脳卒中、心筋梗塞など、さまざまな病気のリスクを抑えられます。食物繊維の効果は便通改善や大腸がん予防くらいと以前は考えられていました。しかし近年、腸内細菌が生み出す物質の研究が進み、多くの病気や体の機能との関わりがわかってきました。(同)

 食物繊維でがんなどの多くの病気リスクをカバーできるようです。また1日25g~29gの摂取によって総死亡リスクが下がるという報告も出ています(『健康の土台をつくる腸内細菌の科学』P231)。
     
 食物繊維を十分に摂取することは、私たちがこれまで想像していた以上の健康効果があるようです。

4.発酵食品とは違う「発酵性食物繊維」

 さて「発酵性食物繊維」とはどんなものでしょうか。内藤教授は以下のように述べています。

最近、注目されているのは「よく発酵する食物繊維なのか」という点です。(中略)納豆やヨーグルトなどの「発酵食品」と、「発酵性食物繊維」とはまったく別ものです。
―発酵性食物繊維とは。
おなかの中で菌がエサにして体に良いものをつくり、エネルギーも出すような食物繊維のことです。菌がよく利用できるものを「高発酵性」、できないものを「低発酵性」といいます。高発酵性食物繊維を含む主な食材には、豆、イモ、穀物、キノコ、ゴボウといった野菜、キウイ、リンゴなどの果物があります。(同)

 腸内細菌がエサとして利用できる食物繊維が発酵性食物繊維ということですね。

マメ、ムギ、イモ、キノコ

5.発酵性食物繊維は全粒粉とマメ、ムギ

 『健康の土台をつくる腸内細菌の科学』で紹介されている発酵性食物繊維19の食品のうち、多い順に10品目を並べてみました。(下図)
    
 表をじっくりながめてみると、なじみのない食品として、小麦ふすま(小麦ブラン)や全粒粉があります。小麦ふすまは小麦の表皮のこと。食べたことのある方は少ないと思います。戦中・戦後の食糧不足のときに食べたという話を聞いたことがあります。
      
 全粒粉は全粒粉のパンやパスタとしてスーパーでも見かけるようになりました。しかしいつも食べている人は少ないようです。
    
 反対に、日本人におなじみの食品として豆(蒸し大豆、ゆで大豆、きな粉=大豆の焙煎粉末)、麦(押麦ご飯=大麦、えんばくオートミール=燕麦)、ごぼう、じゃがいも、そばなどがあります。
    
 これらの食品をもとに発酵性食物繊維の「ニッチな飲食店」について構想してみます。

発酵性食物繊維の多い食品

II.新カテゴリー。発酵性食物繊維の飲食店構想

 発酵性食物繊維の飲食店について具体的にターゲットなどマーケティング視点で構想してみます。

6.お客さまはだれか。食物繊維なら女性

 「ニッチな飲食店」を構想するなら「お客さまはだれか」を最優先で考えるべきです。お客さまはターゲットともいいます。
   
 ターゲットは一般的なマーケティングでも重要ですが、「ニッチ」なら、その見極めは事業の成否を決定します。限られた市場をねらうニッチなら当然ですね。
   
 まだよく知られていない発酵性食物繊維を求める数少ないお客さまはどんな人なのでしょうか。
   
 前回レポートでもターゲットについて検討しました。「お通じ」に悩むのは女性が多いことから、中心になるお客さまは女性。そのなかでも中高年の女性がターゲットになります。
    
 厚生労働省の「国民生活基礎調査(2022年)」では「腰痛」、「手足の関節が痛む」など42ある有訴症状のうち9番目に多いのが「便秘」。
   
 「便秘」の有訴者率は1,000人あたりで35.9人。性別でみると男性27.5人、女性は43.7人と男性より約16人多くなっています。
 
 65歳以上の高齢者では男性68.1人。女性73.8人となっています。つまり年齢があがるほど多くの人が便秘に悩みます。
    
 「かんてん」専門レストラン「かんてんぱぱcafé」(東京・新宿)は多くのお客さまが中高年の女性です。糸寒天のような乾燥したタイプのものは約80%が食物繊維。女性たちの食物繊維への関心の高さがわかります。
  
 ひとりでランチした私はまったくアウェイでした。「女装してくればよかったなぁ…」と反省。…衣装もっていませんが。

便秘の有訴者率(厚生労働省「国民生活基礎調査」)

7.店名でニッチ市場を確保

 「ニッチな飲食店」を構想することは、すなわち店の名前を考えることです。店名で小さな市場つまりニッチ市場を先行して独占できます。そのため店名で業態がわかることと一度で覚えられることが重要です。
    
 ここでは「発酵性食物繊維の店<マメとムギ>」にしました。新しいカテゴリーとして覚えてほしい「発酵性食物繊維」を入れ込みました。しかし長すぎですね。通称は「マメとムギ」がいいと思います。
   
 成功する「ニッチな飲食店」は名前の法則があてはまります。詳しくは別ページ参照ください。

8.マーケティングの4Pで考える

 全体構想はマーケティングの4P(製品・価格・場所・プロモーション)で考えます。
    
(1)製品。発酵性食物繊維の定食。京丹後料理と全粒粉メニュー
 発酵性食物繊維をふんだんに使った日替わり定食が中心です。店名のとおりにマメ、ムギやゴボウ、イモなどの野菜や果物をふんだんに使います。
   
 基本は内藤教授が2017年からコホート研究している京丹後地域の郷土料理をお手本にします。

 京丹後は日本海に面した京都府の北西に位置しています。100歳以上の長寿の方がたくさんいる地域です。長生きの要因のひとつが発酵性食物繊維を含む食べ物です。
    
 もうひとつの基本は全粒粉のメニューです。たとえばオートミール。2021年ごろから日本でも売れはじめました。欧米ではよく食べられています。そのほかライ麦パンや小麦ふすま(小麦ブラン)なども使いたいですね。

 京丹後料理も全粒粉メニューもまだなじみのない新しいメニューになります。しかし新メニューの提案は飲食店ビジネスの売上アップのセオリー中のセオリーです。

京丹後料理:いりきごはん・新しょうがのたいたん・根菜としいたけの煮込み・さともち
京丹後料理:いりきごはん・新しょうがのたいたん・根菜としいたけの煮込み・さともち

(2)価格。品質を保証する価格
 なにしろ日本ではじめての飲食店です。競合する店はありません。したがって価格競争は不要です。近所の店にあわせる必要はありません。
  
 京丹後のふるさと料理なら地元直送の食材も必要です。仕入れコストがかかります。業務スーパーで食材を手に入れるわけにはいきません。全粒粉のメニューも一般の店にはないメニューです。
  
 少し高価格でもお客さまにも納得していただけるはずです。また低価格でないことで「高品質」が担保されてお客さまの信頼にもつながるはずです。
   
 「ニッチな飲食店」です。価格へのハードルは低くなるはずです。品質を保証する価格設定にしましょう。

(3)場所と流通。「ニッチな飲食店」は都心とEC販売
 「ニッチな飲食店」のお客さまを考えると場所は大都市になります。数少ないニッチ好きのお客さまは、人口の多い東京の都心などにいます。
 
 店は人通りの多い繁華街・路面店の必要はありません。お客さまが探し出してくれるからです。
   
 前述のターゲット。女性の便秘の有訴者は厚生労働省のデータから約4.4%。東京都の女性人口は722万人(2024年7月)なので約30万人の潜在顧客がいることがわかります。

 やはり人口が集中している大都市のほうがニッチ・ビジネスに向いています。
  
 また実店舗だけでなく、ネットでの販売(EC)も売上アップのために必要です。しかしネット販売だけではうまくいきません。食事を体験する実店舗がどうしても必要です。

(4)プロモーションは発酵性食物繊維
 店が人気店になるには大きな問題があります。発酵性食物繊維は、まだほとんど知られていないからです。
  
 それでも東京なら約30万人が発酵性食物繊維の情報を切実に、または潜在的に求めている人がいます。
   
 プロモーションの目的は、そのお客さまに店を「探し出してもらう」ことです。そのためにはネット・メディアでのコミュニケーションです。
   
 発酵性食物繊維の情報を自らの記事でわかりやすく、たくさん発信し、お客さまに見つけだしてもらうことが大切です。
  
 広告のようにお客さまの耳元で絶叫するような伝え方ではなく、お客さまが「これだ」と思うことを、自分で発見することで「店に行ってみよう」という実際の行動につながります。
    
 Webサイトなどで情報を提供する手法はコンテンツ・マーケティングとよばれています。この店の命運を決するのは、このコンテンツ・マーケティングの力だと思います。
   
 また正しい情報を適切にお客さまに提供することも大切です。都知事選や衆院選のようにネットで無理してバズる必要はありません。「ニッチな飲食店」の情報は「信用」が大切です。

9.まとめ。「健康飲食店」はこれからの飲食店ビジネスの王道

 ファッションではユニクロや日清紡のように機能性商品がひとつの大きな流れになっています。食品ビジネスでも、すでにヨーグルトなど「機能性表示食品」と表示された新商品がたくさん発売されています。食品による健康増進に大きな関心が集まっています。最近では行き過ぎで「事件」まで起きていますね。
   
 飲食店ビジネスでは健康機能の考え方がかなり遅れています。飲食店ビジネスはいつも流行を追いかけるからです。最近は「おにぎり」。ちょっと前は「タピオカミルクティ」。次の流行も血マナコで探しているはずです。
  
 健康機能は少しずつ高まっているニーズです。発酵食品や野菜サラダ専門店など少しずつ「健康飲食店」もできてきています。やがて飲食店ビジネスの王道になるはずです。

 「ニッチな飲食店のマーケティング企画室」でもここまで多くの「健康飲食店」を構想してきました。しかし今回ほど、発酵性食物繊維の圧倒的な効果とそのデータが豊富で、有望といえる「健康飲食店」構想はありませんでした。
  
 もし実現すれば「近い将来、人気店間違いなし」と信じています。「やるか」と思われた方、ぜひニッチな飲食店のマーケティング企画室にご一報ください。全面的に協力します。
   

…とかなり肩にチカラが入っています。リキんで暴投がこれまでのパターンでしたが、最近やっと「平常心」のコツをつかんできました。ご安心ください。

<参考文献>
内藤裕二『健康の土台をつくる腸内細菌の科学 健康長寿の秘密を追う医師が案内する腸のすごい世界』日経BP 2024
2024年9月27日朝日新聞朝刊「腸の元気に 発酵性食物繊維」
厚生労働省の「国民生活基礎調査(2022年)」
医歯薬出版編『日本食品成分表2024八訂』医歯薬出版 2024
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加藤巴里『パリっ子のおいしいオートミールレシピ』ワン・パブリッシング 2022