腸活が人気です。気になっているのは「お通じ」ですね。健康食品や薬はたくさんありますが「お通じ」の飲食店はありません。普通の飲食店ではできないからです。ここに焦点あてたニッチな飲食店ならリピーター続出の人気店になるはずです。400万人の人たちが待っています。

●3.5%の人が深刻に悩む「お通じ」

 腸活とは100兆個ともいわれる腸内細菌の活動をよくさせることです。これにより免疫力を高め、睡眠の質を改善して健康を維持することです。運動も必要ですが大切なのはやはり食事です。チェックポイントはお通じ。便秘しないことですね。
   
 厚生労働省の「国民生活基礎調査(2019年)」では千人あたり34.8人が「便秘」を訴えています。約3.5%です。特に女性(43.7人)、65歳以上の高齢者(68.6人)が多いようです。
   
 参考ですが「肩こり」は86.5人、「眠れない」は29.5人。便秘は多いわけではありませんが、少ないわけでもありません。
   
 整腸には腸内細菌のエサとなる食物繊維が大切です。厚生労働省がすすめる一日の食物繊維の摂取量は成人男性なら21g、成人女性は18gです。しかし実際には一日に14g程度しか摂れていないようです。不足する4~7gをプラスするにはかなりの努力が必要です。

厚生労働省「国民生活基礎調査」2019年
●整腸の健康食品ビジネスは満開。飲食店ビジネスはつぼみ以下

 「機能性表示食品」など国のお墨付き健康食品でもある保険機能食品市場は約7,500億円。その約26%は整腸効果の食品です(富士経済2019年)。生活習慣病予防に次ぐ市場です。テレビの広告が多いのも当然ですね。
    
 便秘の症状を訴える人は3.5%との報告でしたが、軽度の人を含めるともっと多いのだと思います。
   
 飲食店ビジネスではお通じ改善の店はありません。例外は寒天メーカーの伊那食品工業の直営店「かんてんぱぱcafé」です。寒天は約80%が食物繊維。メーカーならば寒天飲食店を運営する意味があります。
  
 玄米専門の飲食店もありますが玄米の食物繊維は100g当たり1.4gで、それほど多いわけではありません。専門店とは言えません。
    
 飲食店ビジネスも健康食品のように、市場の要求にこたえて食物繊維専門の飲食店を出すべきです。

保険機能食品訴求効能別シェア
●専門店はチェーン店ではできない。ニッチな飲食店がピッタリ

 マーケティングの基本はターゲット(顧客)です。店のお客さまはだれかです。
     
 ファーストフードが求めるお客さまは国民のほぼ全員。回転ずしもラーメン店も「だれでも来てほしい」です。だから費用のかかるテレビのCMが必要になります。
    
 食物繊維レストランのターゲットは国民の3.5%。ターゲットが明確なら的確な施策ができます。
   
 しかしわずか3.5%では人口密度の低い「地方」では難しくなります。人口が集中する東京などの大都市が適しています。仮に東京都であれば人口は約1,400万人(2022年)。3.5%は約50万人。ニッチな飲食店には十分な見込客数です。
   
 しかもこの飲食店ビジネスならば、なんども来店するリピーターが中心になります。「おもしろそうだから行ってみようか」というお客さまも来るかもしれませんが1、2回では改善の効果がわかりません。ターゲットではありません。
    
 深刻に悩む人であれば効果のために通い、効果がある限り通うはずです。リピーター中心のニッチな「食物繊維レストラン」。ビジネスとしてチャンスがあります。

●マーケティングの4P。まずは製品(プロダクト・Product)としてのメニュー

 食物繊維の多いメニューづくりが腕の見せ所。独自メニューがあるのがニッチな飲食店です。食物繊維だけでなく、おなかの調子を整えるヨーグルトなど発酵食品のメニューも用意したいですね。
     
 便秘を深刻に考える人なら一食だけでの改善は難しいはずです。朝昼晩の三食のメニューにしておく必要があります。一日の食物繊維摂取量の計算ができるからです。
   
 となると朝からの営業となります。飲食店で朝からの営業はキツイかもしれません。店の運営に工夫が必要です。そのかわり夜は遅くても8時には閉店です。遅い時間の食事は体によくありません。

●店(プレイス・Place)は物販とネット販売。価格(プライス・Price)は競争しない

 店での物販とネットショップが必要です。リピーターとはいえ、毎食ごとに来店は難しいでしょう。
   
 メニューのレトルト食品化、冷凍食品化です。またオートミールや海藻などの食物繊維の多い商品の販売もしたいですね。
   
 前述の伊那食品工業の「かんてんぱぱcafé」では、お客さまがランチのあとにお土産コーナーでたくさんの買い物をして帰ります。客単価もアップです。
   
 メニュー価格は正当な利益の出る価格。食材やメニュー開発にはコストがかかります。低価格で仕入れた食材で安い価格で提供するカレーやラーメンとは違います。高価格ということではありません。近所の店と価格で競争しないという意味です。
   
 店の知見や技術についてお客さまに納得してもらいましょう。低価格でない理由です。「かんてんぱぱcafé」ではランチに説明書がついてきます(写真)。ちょっと高めの価格でも「なるほど」と納得できます。
   
 店に利益の出る価格は、店を維持していくためにどうしても必要です。

東京・初台「かんてんぱぱcafé」
東京・初台「かんてんぱぱcafé」。ランチに説明書がついてきます。
●最後は販売促進(プロモーション・Promotion)。ニッチ・ビジネスのブランドづくり

 知ってもらう必要があります。顧客の見込み数が東京で50万人では広告はできません。ニッチ・ビジネスならではの販売促進が以下の3つです。
   
(1)店の名前が「命」
 店の名前が重要です。一度決めたら変えられませんから。お客さまが一回でどんな店か理解し、記憶し、すぐに思い出す名前であることです。
   
 事例としては筋トレファンの店「筋肉食堂」、生姜料理の店「しょうが」などがあります。わかりやすく短い。これで忘れませんね。
   
 ここでは「食物繊維レストラン・しょくもつせんい」としました。が…。名前としてはあと一歩、二歩、三歩ですね。食物繊維レストランまではいいとしても…。かといって「食物繊維レストラン・おつうじ」じゃマズいでしょ。「食物繊維レストラン・べんかつ」もさらにマズいですね。なにかいいアイデアあったらご一報ください。
   
(2)コンテンツ・マーケティングでお客さまに「発見」してもらう
 なにを提供するのかをていねいにネットで伝える必要があります。コンテンツです。食物繊維の情報だけでなく生活にまで広げて、しかも正しく伝える必要があります。
   
 SNSやYouTubeも大切ですが、まずは自社のホームページを充実させましょう。お客さまがこの店や食物繊維について知りたいと思ったことが十分以上にわかるようにすることが重要です。さらに「へぇ、そうなんだ」と思える記事もほしいですね。
   
 情報がゆたかになればネットでの検索で上位にあがってきます。SEOの費用は使いません。この情報をお客さまに発見してほしいからです。
   
 「私が見つけた」に価値があります。「広告で見た」は押し付けられたものです。人は自分で選択したことについて能動的になります。内発的動機付けです。発見が重要です。

(3)コミュニケーション戦略は人と人
 料理をつくる人(生産者)とそれを食べる人(消費者)が直接顔をあわせる。これが小さな飲食店ビジネスの中核的な価値です。「おいしかった」と「ありがとうございます」のような会話ができることです。
   
 コミュニケーションの起点は店のシェフ、食物繊維について語る人です。店で顔をあわせて、「こんにちは」「最近、おなかの調子がいいです」となれば一番です。
   
 実際に顔が出てくることで情報の信頼性が高まります。効果があるといわれる口コミもSNSなどのネット上の口コミよりも家族や友人との直接の口コミが効果的です。

●まとめとして。飲食店ビジネスを日本の産業として成長させる

 「それがほしい!」というお客さまのニーズが世の中にころがっています。健康食品の会社は目ざとく見つけてきます。飲食店ビジネスは小さな会社が多く、これが不得意です。目の前の値引きキャンペーンなどに目を奪われています。
    
 マーケティング、とくにニッチ・マーケティングで考えると東京のような人口が密集し、収入や資産のある人が多い地域では飲食店ビジネスにチャンスがたくさんあります。
  
 なによりも飲食店ビジネスは規模約25兆円の日本の主要ビジネスです。しかも海外の観光客が日本の食事を目当てに来日するほど魅力的です。
   
 まだまだ成長します。マーケティングを使って日本の未来の産業として成長させるべきです。

<参考文献>
厚生労働省『2019年国民生活基礎調査の概況』令和2年 
香川明夫編『八訂食品成分表2023』女子栄養大学出版部 2023
『H・Bフーズマーケティング便覧2019』富士経済 2020
佐藤隆一郎『健康寿命をのばす食べ物の科学』ちくま新書 2023