チャットGPT人気です。いよいよAI(人工知能)の時代です。そうなると「ニッチな飲食店」の時代ですね。「急にですか?」。「はい」。
     
 急にですが、パソコンで働く知識労働者の価値は低くなるようです。AIの出現で創造労働者の評価が高まるからです。ニッチな飲食店のシェフ(料理人)がこれからの時代の創造労働者です。つまり「芸術家」ということです。

●創造労働者の時代。創造労働者はどんな人?

 20世紀後半、仕事の多くは自動化しました。じゃがいもを自動的に収穫する機械もできて畑で働く人の数が減りました。大福もちが自動でつくれる機械が工場に入って、もち職人の数も減りました。
    
 18世紀の産業革命のころから会社で働く人、知識労働者が登場しました。パソコンで書類をつくったり、みんなで会議をしたりして一日を過ごしています。でも最近では「ブルシットジョブ(牛のフ○みたいな仕事)」などと言う人もいます。
     
 そこにアタマのいいAIが登場。たちどころに役に立つ書類をつくってくれます。AIで自動化されることで知識労働者は減るはずです。創造労働者とよばれる人が増える時代になりそうです。
     
 では創造労働者とはどんな人なのでしょうか。はっきり定義されていないようですが、リチャード・フロリダの『新クリエイティブ資本論』によると科学者、技術者、大学教授、建築家や医療、金融、法律関係などで働く人たちをクリエイティブ・クラスとしています。

●クリエイティブ・クラス。創造的な人であれば、まずは芸術家

 創造労働者で思い浮かぶのは芸術家です。どんな人が芸術家なのかを知るのなら国勢調査が便利です。芸術家の分類と人数について調査しています。
     
 2020年の時点で芸術家は約52万人。日本の人口1億2,600万人のわずか0.4%です。かなり少ない数ですね。しかも1985年から増えているようには見えません。
    
 これから創造労働者が現在の知識労働者のように人口の3割にも4割にもなるとしたら、芸術家も増えていく必要があります。
    
 もちろんシェフ(料理人)はここに入っていません。料理は芸術ではないと国が決めているようです。はたしてそうなのでしょうか。

総務省国勢調査芸術家の時系列推移
現在の芸術家分類と料理芸術家
●北大路魯山人もブリア=サヴァランも「料理は芸術」

 「料理は芸術」とはまだ認められていません。しかし料理が芸術であることは古くから議論されてきました。
    
 陶芸家・書道家として活躍した北大路魯山人(1883~1959年)。美食家でありながら高級料亭の星岡茶寮の料理長でもありました。食に関しての書籍も多く残しました。『魯山人味道』では「料理も芸術である」と語っています。
    
 フランスのブリア=サヴァラン。1755年生まれの法律家で政治家、『美味礼賛』の著者です。名言「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人であるかを言いあててみせよう」の人です。フランスでは200年も前から料理の芸術性について議論されています。
     
 フランスの三ツ星レストランで出てくる料理はたしかに芸術です。すばらしい食器、豪華な食材、美しい盛りつけ、洗練された味わい。フランス人なら「料理は芸術」と断言するでしょう。
      
 世界の最先端のレストランは芸術的な技法で料理を提供しています。スペインの「アルサック(Arzak)ではタブレットをお皿にして画像とともに料理を提供しているようです。
     
 料理が芸術であるという考えは十分に広まっています。

●芸術と主張すること。便器もアートになったから

 マルセル・デュシャンの1917年の作品「泉」。便器を横にしてデュシャンが他人の名前でサインをしたものでした。衝撃的であったために展覧会の主催者は展示を拒否。騒動になりました。しかしこれによって表現はキャンバスの絵具から解放され、現代アートがはじまりました。
     
 新しい考えを主張することです。「料理も芸術だね」と世間が認めるのを待つより「料理は芸術である」と言ってしまうことのほうが早そうです。
    
 ということで、今日から料理は「料理芸術」としましょう。ブリア=サヴァランは「新しい料理を発見することは、新しい星を発見するよりも人類の幸福に寄与する」とも書いています。これまでにない新しい料理、知られていない新しい料理はニッチな飲食店の特徴です。芸術であってもいいはずです。ニッチな飲食店のシェフ(料理人)は創造労働者。今日から芸術家です。

●まずは料理芸術家協会を設立。料理芸術論争をはじましょう

 「料理は芸術である」宣言だけではうまくいかないはずです。それなりの活動が必要です。活動することによって社会から認めてもらえます。
    
 まずは「料理芸術家協会」の設立です。さらに「料理芸術の展覧会」を開催しましょう。ニュースメディアの取材で多くの人たちに料理芸術が知られるようになると思います。やがて「当店はレストランではなくアトリエです」というシェフもあらわれるかもしれません。
    
 料理芸術の論争が起こると予測できます。だれが料理芸術の主導権を握るかも気になります。フランス料理や懐石料理など格式と伝統を尊ぶ古典料理芸術派。最先端料理や現代アートからモダン料理芸術派。そこにマイナーながらニッチな飲食店もニッチ料理芸術派として参加したいと思います。
    
 「なにが料理芸術なのか」と激しい議論になると思います。しかし料理芸術の発展には、ここが大切なところだと思います。
   
 ということで新しい料理芸術の時代が来ます。これからニッチな飲食店のシェフは創造労働者、芸術家です。
    
    
 つぎの料理芸術家協会の会長選挙には私も立候補を予定しています。「私にぜひ清き一票を」。…まだちょっと早すぎか…。

<参考文献>
リチャード・フロリダ/井口典夫訳『新クリエイティブ資本論—才能が経済と都市の主役となる』ダイヤモンド社 2014
北大路魯山人『魯山人味道』中央公論新社 2007
ブリア=サヴァラン/玉村豊男訳『美味礼賛』新潮社 2017
チャールズ・スペンス/長谷川圭訳『おいしさの錯覚 最新科学でわかった美味の真実』角川書店