発酵食品が人気です。腸の活動に効果があるからですね。発酵食のレストランも登場しました。しかし残念ながらコロナ禍もあって減少です。このままでは発酵ではなく、しあわせ薄い薄幸になりそうです。提供する発酵食の絞り込みで希望が「発光」するかもしれません。

●発酵食品とは日常の食べもの。毎日の食卓にたくさんある

 「発酵食とはどんなもの?」と聞かれたら「納豆、ヨーグルト、ワインなど…」とたくさん出てきますね。むしろ、たくさんありすぎてうまく説明できません。
     
 金内誠監修『発酵食品を楽しむ教科書』にわかりやすく書いてあります。
 発酵には3つの微生物が関わります。①麹(こうじ)菌などの「カビ」、②パン・ワイン・日本酒などに使う「酵母」、③乳酸菌・納豆菌・酢酸菌のような「細菌」。これら3つの微生物の働きで発酵食品ができあがります。
    
 主な原材料と微生物と発酵食品の一覧表もあります。下図のように8つのカテゴリーに分かれています。

 これら以外にも魚ではかつお節、塩辛、好きな人は好きなくさやなど、肉ではソーセージなどもあります。紅茶やウーロン茶なども発酵食品ですね。忘れてはいけません。「とりあえず」のビールもアルコール類も発酵食品です。どれもおなじみの食品ばかりですね。

●発酵食品の人気。腸内環境への注目から

 腸の活動が健康に大きな影響をもたらすことが知られるようになりました。腸が調子よく働くためには発酵食品が有効のようです。

 腸内の細菌の数は100兆個ともいわれています。お笑いならここで「だれが数えた?」と突っ込むところですが。そのなかで健康に役立つ善玉菌を増やす必要があります。ヨーグルトや納豆はこの善玉菌を増やす効果があるようです。腸内の環境が整うことで免疫力が向上し健康に役立つということですね。

 2010年ごろから発酵食品が人気になってきたようです。家で納豆やヨーグルトを食べるだけでなく、外食でも発酵食品を食べたいと思う人がいるのは当然だと思います。そこで発酵食品を使った専門レストランができてきたということですね。

●発酵食レストラン急増。ところがコロナ禍で…

 発酵食レストランを調べてみると東京都内に30店舗ぐらいはあると思われます。どこまでを発酵食レストランとするのか判断しにくいので独自選定です。
    
 東京都内で「発酵食」として料理を提供する飲食店と「しょうゆ・みそ・納豆・チーズ」などの発酵食専門の飲食店を調べてみました。

 日本酒・酢・ヨーグルト・ワイン・ビールはドリンクということで除きます。パンも発酵食品ですが飲食店数が多いので除きます。ソーセージ、漬物は発酵食の専門飲食店としてはないようです。できるだけ調べたつもりですが、もれてしまった店がありましたら申し訳ありません。

 ということで集計です。詳細は一覧表にしておきます。これらの店をオープンの年順に表にしてみました。2016年から増えはじめ、2017年に9店オープンでピークとなっています。しかし2020年には6店が閉店しています。

 コロナ禍前に発酵食ブームがありオープン。お客さまが定着する前にコロナ禍で閉店ということでしょうか。とりあげた発酵食レストラン26店のうち10店が閉店または移転しています。

 コロナ禍は発酵食レストランにも大きな試練となりました。2022年の出店はありません。このまま回復しないのでしょうか。

発酵レストラン一覧
●提供する「発酵食の印象」を強めるべきではないか

 もう少し詳しく見てみましょう。発酵食のカテゴリーで多いのは「各種の発酵食」を提供するレストランです。13店あり、うち6店が閉店または移転しています。

 発酵食となると、多くが麴を使った料理にみそ汁、漬物など和風のメニューになります。ビックリするようなものにはなりません。お客さまの記憶に強く残るものではなかったのかもしれません。

 カテゴリーを絞り込んだ発酵食の店は閉店が少ないように思います。しょうゆ、みそ、納豆などです。特定の発酵食品に絞り込んだほうがお客さまの記憶に残りやすく有利ではないかと思います。

 そう考えるのは「ニッチな飲食店のマーケティング企画室(筆者)」だからかもしれません。それでもピンポイントのカテゴリーを選ぶということになると、勇気と集客のための知恵と大変な努力が必要です。

しょうゆ「天忠」、納豆工房せんだい屋、MISO18ヶ月
●まだ、できていないヨーグルト料理専門のレストラン

 多くの人が発酵食品としてあげているヨーグルト。ヨーグルトドリンクの店はありますが、ヨーグルト料理専門のレストランはありません。発酵食品の絞り込みと考えるとチャンスがありそうです。

 総務省の家計調査によると、ヨーグルトについて1世帯あたり年間14,000円弱を支出しています。2012年ごろから増加しています。発酵食レストランのオープンとも重なりますね。支出金額は20年前の1.7倍以上になっています。

 もう一方の人気発酵食品、納豆の支出金額はヨーグルトの約3割、4,400円弱となっています。20年間ほとんど変化がありません。

 ニッチなヨーグルト料理専門レストランの可能性はあると思います。ヨーグルト料理料理のノウハウを高めることができれば独自のポジションになるはずです。
 
 ヨーグルトで有名なブルガリア、トルコなどのヨーグルト料理が参考になるはずです。カンタンではないと思いますが、独自メニューの開発でヒットメニューができれば人気店になれそうです。

家計調査2021 ヨーグルトと納豆
●発酵食を料理文化として広める決意

 吉祥寺には「発酵のある暮らし こころダイニング」というキッコーマンが運営するレストランがあります。しょうゆ、もろみなど発酵食の文化を先頭に立って広めていくという考え方があると思います。

 世界にしょうゆを広めたのはキッコーマンです。戦後間もない1958年からアメリカに、その後はヨーロッパにと、長い時間と大きな費用をかけて、しょうゆ料理の文化を広めていきました。現在では、しょうゆはソイソース(Soy Sauce)として世界各国で調味料として定着しています。

 つまり発酵食としてヨーグルト料理を広めていくなら、ヨーグルトメーカーの力が必要だと思います。もし「ヨーグルト料理専門の飲食店をはじめたい」と私が相談されたら、気持ちは沸き立ちますが「大変だろう」と想像できます。まったく新しい分野です。小さな飲食店では難しいかもしれません。

 スーパーで商品を売るだけではなく、ヨーグルトメーカーがヨーグルト料理の文化を家庭や社会に広めることができれば、メーカー自身にも大きなメリットがあるはずです。

●発酵食のさらに先。成長する健康市場

 ヨーグルト料理のレストランはひとつの例です。乳酸菌が活躍する漬物のレストランにも可能性があると思います。発酵食ではありませんが、腸をスムーズに活動させる食物繊維のレストランもますます注目されるものと思います。健康に関連する市場はこれから必ず成長します。

 発酵食と腸。そこからさらに腸と脳の関係も明らかになってきました。「ガッツだぜ」は腸(guts)と脳(気持ち)がセットになっています。発酵食についてこれからわかってくることもたくさんあるはずです。新しい発見があり、新しいニッチな飲食店が誕生するものと思います。

 ということで、まだこの段階では発酵食レストランの考察は消化不良です。発酵食品よりも前に胃グスリですね。

<参考文献>
金内 誠監修『理由がわかればもっとおいしい! 発酵食品を楽しむ教科書』ナツメ社 2023
山元正博『発酵食品はおいしいクスリ』ポプラ新書 2022
茂木友三郎『キッコーマンのグローバル経営―日本の食文化を世界に』‎ 生産性出版 2007