「ニッチな飲食店はビジネスとして大きくなれないだろ」。そんなことはありません。ハンバーガーや牛丼など過去の事例を紹介しました。世界のビッグビジネスになっています。
 いまはニッチな飲食店であっても、日本の独自性を生かすことで大きなビジネスに成長するかもしれません。ここでは予測例として昆虫食レストランとオタク市場について検討してみます。

●優等生グローバル・ニッチ・トップに学ぶ

 グローバル・ニッチ・トップをご存じでしょうか。詳しくはサイト内で説明しています。以下、ざっとご説明です。
  
 グローバル・ニッチ・トップとはニッチ製品の製造で世界のトップビジネスのことを言います。GNTなどとよぶこともあります。
   
 人口1億2,600万人の日本。しかし、世界の人口は70億人を超えています。市場の大きさは60倍です。日本でニッチであったとしても、世界が相手ならビッグビジネスになります。
   
 グローバル・ニッチ・トップについては国が応援しています。経産省のWebサイトには「グローバル・ニッチ・トップ企業100選」が発表されています。
   
 たとえば、「マニー株式会社」。白内障手術用の眼科ナイフを専門に製造しています。独自の加工技術で世界シェアは約30%です。世界でもかけがえなのない優良企業です。
    
 グローバル・ニッチ・トップとなるためには重要なポイントが3つあります。「特殊なニーズにこたえる」、「それなくしてつくれない」、「他社にはまねできない技術」です。
    
 「それなくしてできない」は製品を製造するうえで重要なパーツということです。これを除く二つ「特殊なニーズにこたえる」、「他社にはまねできない技術」はまさしくニッチな飲食店の極意です。小さいけれども独自の商品(メニュー)で、必要とする人に提供することですね。
    
 残念ながら経産省にお墨付きをもらえるようなグローバル・ニッチ・トップの飲食店はまだ生まれていません。しかし、グローバル化の時代、日本のニッチな飲食店も世界に飛躍するニッチな飲食店ビジネスになるはずです。

●昆虫食で世界市場へ。日本の調理技術とプレゼン力を生かす

 以前、お話しした昆虫食レストランの話です。昆虫食の習慣は日本や中国、東南アジアなどにあります。日本でも食べる人は多くないはずです。でも過去の話ではありません。イナゴの佃煮を販売しているのを見かけます。山国育ちの私も子どものころに食べていました。
    
 昆虫食の重要性は高まっています。2013年に国連が昆虫食を推奨しました。迫りくる気候変動の危機。その要因である畜産業を代替するものとして昆虫食を取り上げたからです。
   
 しかし、ヨーロッパ、北アメリカは非昆虫食の国ぐにです。気候変動のためにと思っても「虫を食べる」と聞いただけで気分が悪くなるようです。
    
 ここで寿司の話です。「日本人は生の魚を食べる。…信じられない」。世界のグルメたちが愛する「寿司」。しかし、50年ほど前にはヨーロッパでもアメリカでも、生の魚を食べるということは考えられないことでした。日本の寿司が世界に広まって変わりました。生の魚を食べるようになったのです。いまではカリフォルニアロールはアメリカの郷土料理だと言っています。
     
 寿司をここまでに広めたのは日本の調理技術です。アメリカの食文化研究家のヘレン・C・ブリティンは「日本料理は慎重な調理と巧みなプレゼンテーション」(『国別 世界食文化ハンドブック』)と表現しています。ていねいに調理し美しく仕上げた寿司を白木のカウンターで提供。生の魚は世界のグルメの憧れに変わりました。
    
 日本は昆虫食に関しては先進国です。『昆虫食と文明』の著者デイビッド・ウォルトナー=テーブズも日本、とくに長野県などの昆虫食を研究して報告しています。
    
 日本の調理技術なら「虫なんて絶対に食べられない」という欧米人の気持ちを変えることができるはずです。昆虫食レストラン「アントシカダ」のラーメンには、コオロギの姿揚げがチョコンとかわいくトッピングされていました。このセンスです。
    
 コオロギは養殖化も進んでいます。生産には牛肉や豚肉などよりも負荷がありません。また、昆虫にはタンパク質などの栄養価も十分にあります。まだ、あまりわかっていませんが健康への効果も期待できます。
   
 なにも全世界の人びとを昆虫食に変える必要はありません。ニッチです。2.5%ぐらいのイノベーターに食べてもらえれば十分です。新大陸からきたトマトのように、昆虫という新しい食材が非昆虫食の社会に普及するには時間がかかります。しかし、それは参入障壁にもなります。ニッチな飲食店としてのビジネスの機会になります。
    
 日本がもつ得意の調理技術とプレゼンテーション力で昆虫食の魅了を高めることができます。一定の期間を経ることで寿司のようなメジャーなビジネスになるはずです。

●オタク×レストランで世界市場へ。日本の強みを掛けあわせる

 かつてはマンガ、アニメ、ゲーム市場は日本の独壇場でした。しかし、現在は中国などが優勢です。中国の人口は約14憶人です。大きな市場であればビジネスも大きく発展します。つまり市場の大きさが鍵です。1億2,600万人しかいない日本の市場。オタクビジネスはこのままでは世界の市場で勝ち抜けません。
    
 幸いにも日本にはほかにも強みがあります。飲食店ビジネスです。海外の観光客が日本に訪れる目的のひとつは「食事」です。世界ナンバーワンとまでは言えませんが、世界の人びとにとって魅力であることは間違いありません。強みです。
    
 強みと強みを掛けあわせるのはマーケティングの基本戦略。オタク×レストランで世界への進出が期待できます。
    
 以前、紹介した「ガンダムカフェ」があります。「アイドルシェフレストラン」も予測例として紹介しました。オタク×レストランです。しかし、レストランひとつでカンタンに世界で成功できるとは思えません。そこで参考になるのがスポーツビジネスです。
     
 たとえば野球スタジアムは、いまは野球を観戦するだけの場所ではありません。フードコートやレストラン、アミューズメント施設などが複合的に集まっています。パパだけでなく家族みんなで楽しめるようになっています。オタク×レストランなら「複合的な仕組み」が生かせるはずです。日本独自の、そして得意のコンテンツが生かせるはずです。
    
    
 日本では小さくニッチな飲食店。しかし、世界であればニッチであっても大きな市場です。同じようにニッチな飲食店として展開できれば大きなビジネスになるはずです。ノウハウを蓄積し市場を占有し続けることでさらに大きなビジネスにまで成長できるはずです。

<参考文献>
ヘレン・C・ブリティン/小川昭子、海輪由香子、八坂ありさ訳『国別 世界食文化ハンドブック』柊風舎 2019年
デイビッド・ウォルトナー=テーブズ/片岡夏実訳『昆虫食と文明―昆虫の新たな役割を考える』築地書館 2019年