コロナ禍でひとりの食事が注目されています。「ソロレス」です。昨年、ブログで書きました。本当にそろそろ、ひとりごはん専用飲食店「ソロレス」(以下「ソロレス」)が必要なのではないでしょうか。

※「ソロレス」:ソロのためのレストラン。ここではファミレスとの対語と定義しています。
●ひとりでも大丈夫。最新ひとりしゃぶしゃぶのお店

 西新宿に「ひとりしゃぶしゃぶ いち」というお店があります。コロナ禍ということもあって最近、人気のようです。

 だれにもジャマされずに、しゃぶしゃぶがひとりだけで楽しめます。まず、たくさんあるスープ(出汁)のなかから2種類をチョイス。カプセル(保冷ドーム)に入った牛肉、豚肉が回転ずしのようにまわっています。それをしゃぶしゃぶ。麺やごはんはタブレットで注文。肉のお皿についたタグを読み込むAI(画像認識)を使った会計システムもあります。

 時代の先をいくシステムの飲食店です。これなら満足。シャブシャブというよりもジャブジャブしたいくらいです。まだ、世の中には少ない、安心してひとりで食べられる「ソロレス」ではないでしょうか。

●完全な仕切り。「一蘭」は「ソロレス」か

 コロナ禍で、飲食店では「お一人さまのお食事歓迎」というムードがあります。といっても、どこか、「おひとりさまでも歓迎」という感じです。できれば、前のように大勢でにぎやかに来店してもらいたいと思っているはずです。

 ひとりごはん専門の飲食店はなかなかありません。そこで、みなさんが思い出すのはラーメンの「一蘭」ではないでしょうか。全国で80店舗以上あります。両どなりに仕切りがあって、本当にひとり専用にできています。

 しかし、同僚から指摘がありました。「一蘭は、味集中システム。味に集中してほしいから仕切られているだけであって、ひとり専用のラーメン店ではない!(ピシッ)」。ラーメンフリークに話ふっちゃっいましたねぇ。確かにそうかもしれません。ひとりの食事のための飲食店「ソロレス」とはすこし違うのかもしれません。

●ひとり焼肉の目的は欲望の達成。つまり「独占」

 最近話題のひとり焼肉専門店「焼肉ライク」。すでに全国に50店舗以上もあります。盛況です。でも、こちらも「ソロレス」とは言えないかもしれません。

 焼肉は、もともとはみんなで食べるもの。会食のメニューです。ただ、多くの人数で食べると、ちょっとストレスを感じます。「俺がじっくり育てていた肉をあいつが食ったぁ」という残念なこともありますね。

 ひとり焼肉は自分だけで、自分の好きなものを、自分の好きな量だけ食べたいという欲求を満足させるものです。その点では「一蘭」とおなじように、あくまでも味わいです。「ひとり」の目的は、ひとりで食事をするのではなく、ひとりで肉を独占したいからです。

 そう考えると、前述のひとりしゃぶしゃぶもそうかもしれません。みんなで食べるよりは、ひとりで独占するのが目的。「ソロレス」とは少し違っています。

●「ひとりごはん」の理由はコロナ禍だけではない

 コロナ禍だけがひとりごはんの理由ではありません。家族の構成人数の話です。とうとう2019年、日本ではひとり住まいが最も多くなってしまいました。下の図です。

 世帯全体のなかで「単独世帯」が28.8%となり、「夫婦と未婚の子のみの世帯」を上回りトップになりました。なかよく親子で暮らす核家族が減少を続けています。高齢者をふくむひとり住まいが、これからますます増えていきます。こうなると食事は好きや嫌いではなく、ひとりで食べるものになっていきます。

 コロナ禍の体験で、社会がひとりで食事をすることへの準備が整ってきたように思います。いいことではないかもしれません。しかし、そろそろ本当に「ソロレス」を考えるべきときが来たと思います。

世帯構造、とうとう「単独世帯」がトップ
とうとう「単独世帯」がトップになった
●忘れてはいけない「会食」の大切さ

 ひとりごはんの時代になる。とはいっても人類史のなかで、長く習慣としてきた「会食」を捨ててしまうことはできません。共存のための仕組みだからです。
 フランスの思想家、ジャック・アタリ氏は『食の歴史』のなかで個食化について、こう言っています。

 未来のノマドは、おもに糖分を摂取しながら暮らすことで、孤独を満たそうとする。というのは、われわれは孤独感からアルコールや薬物に手を出しやすくなるのと同様に、脂肪分や糖分の高い食品をもっと食べたくなるからだ。………
 これまで以上に多くの人々が、不健康な食生活や、会食する機会が失われたことで陥る孤独から命を落とすに違いない。これと同時に、人類全体は過食で死に絶えるだろう。

     ジャック・アタリ 『食の歴史』(第9章) プレジデント社 2020

 人類が絶滅するのかまではわかりませんが、孤独とそれによる過食で不健康になる可能性は高そうです。「ソロレス」を考えるときに、この問題を解決する必要があります。

●これまでの飲食店に、すでに答えがある

 スマホのアプリが充実しています。スマホで時間はあっという間に過ぎてしまいます。ひとりの食事も以前のように苦痛ではなくなりました。ひとりのごはんなら牛丼屋さんでもカレー屋さんでも、スタバのようなカフェでも十分にできます。ひとりでごはんを食べることは、ある程度できています。

 問題はジャック・アタリ氏が言うように、孤独とそれによる過食です。少しだけでも会話する機能が必要です。思えば、日本には「小料理屋」という形態の飲食店があります。アルコールの提供がメインなので、そのままは使えませんが、ヒントになると思います。

 オープンキッチンでカウンターのなかにママ(またはパパ)がいます。未亡人やちょっと年齢が高い人が似合います。まわりを囲むひとり用のカウンター席。ママは、そこにすわる人になにげなく声かけたり、サービスしたりします。顔なじみになるとちょっとした話もします。だからといって深い話をすることはありません。

 「ソロレス」ビジネスで、この仕組みが使えるかもしれません。ただ、少しコミュニケーションの技術が必要になりそうです。年齢を重ねるという経験も必要だと思います。

 ほかにも、個食の問題を解決する手段はたくさんあると思います。いずれにしろ、ニッチな飲食店になりそうですね。ニッチな飲食店は「ソロレス」という難しい問題を解決できるかもしれません。