玄米などの全粒穀物が注目されています。しかし、お客さまが食べたいのは玄米ではなく食物繊維のようです。食物繊維メニューを専門にする「機能性表示飲食店」。ニッチな飲食店としてどうでしょうか。

1.日本では全粒穀物がスルーされている

 『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』、最近読んだ本です。食と健康の客観的な情報で説得力のある良書です。そこに気になることが書かれていました。「全粒穀物、なぜよさが広まらないのか」という話です。

 欧米諸国ではオーツ麦やライ麦パンなどの全粒穀物を朝食などに食べる習慣があるようです。これが健康にいいようです。そこで欧米諸国では国民に全粒穀物食をすすめています。一方、日本では全粒穀物の摂取を積極的にすすめていないという指摘です。

 この話では、全粒穀物のさまざまな予防効果についての研究成果が掲載されています。以下に転記しておきます。
 この報告によると、全粒穀物を一定以上摂取すると心筋梗塞、糖尿病、脳卒中の発症が減少。総死亡率も下がるとのことです。その要因は、おもに全粒穀物に豊富に含まれる食物繊維にあるようです。

 日本人にとって全粒穀物といえば玄米です。玄米がカラダにいいことはみなさんご存じだと思います。中高年層を中心に玄米食をされる方も多いかと思います。しかし、この本で指摘されているように厚生労働省では「健康日本21」で「野菜類を1日350g以上食べましょう」と推奨していますが、全粒穀物のよさについてあまり取りあげていません。

全粒穀物の予防効果

2.玄米好き?ほんとうは食物繊維が好き

 では、日本では全粒穀物である玄米がどのように食べられているかです。(一社)高機能玄米協会が「玄米食白書2019」を出しています。そのなかに、玄米などの購入額の推移の資料がありました。下図です。

 胚芽玄米の購入額は、それほど多くはありません。さらに、やや減少傾向です。むしろ、2015年まではいろいろな穀物が入ったミックス雑穀の購入額が最も多いものでした。しかし、2016年からは、もち麦や押し麦などの精麦が急上昇しています。もち麦は食物繊維が100gあたり12g以上で、玄米(3.0g)の4倍以上もあることがメディアなどでとりあげられました。ここからちょっとしたブームとなり、600億円を超えるヒット商品となりました。

 この現象からすると、食べたいのは玄米やもち麦ではなく食物繊維そのもののようです。食物繊維は男性なら1日21g、女性は18g以上摂ることがすすめられています。ポイントは「お通じ」ですね。

 厚生労働省の「国民生活基礎調査(2019年)」では千人あたり34.8人が「便秘」を訴えています。とくに、女性(43.7人)・65歳以上の高齢者(68.6人)の方が多いようです。
   
 参考ですが「肩こり」は86.5人、「眠れない」は29.5人なので多いわけではありませんが少ないわけでもありません。お通じに有効な食物繊維がどんな食べ物に多いのか、みなさんよくご存じなのだと思います。

POSデータに見る玄米購入割合

3.女性が食物繊維のレストランに集まっている

 赤坂の「げんまい食堂スマイルキッチン」。玄米食専門のレストランです。メニューも「腸活ランチ」や「免疫力UP定食」、「デトックスランチ」など攻めのメニュー名ばかりです。いいですね。管理栄養士が考えたメニューということで信頼性もあります。

 銀座のファンケルには「FANCL BROWN RICE MEALS(ファンケルブラウンライスミイルズ)」というおしゃれなレストランもあります。発芽玄米や玄米ブレッドなどを使ったメニューが売りになっています。そのほか両国には「自然食れすとらん元氣亭」があります。玄米酵素という会社のアンテナショップです。ここでも管理栄養士の監修をうたっています。

 どのお店もお客さまは女性が中心です。別のブログでレポートしましたが、伊那食品工業のアンテナショップ「かんてんぱぱcafé」も女性に大人気です。寒天にも食物繊維が豊富に含まれているからだと思います。お店の人気の要因は「女性」と「食物繊維」に集中しています。

写真:「げんまい食堂スマイルキッチン」、「ファンケルブラウンライスミイルズ」、「自然食れすとらん元氣亭」

4.健康を切実に願う人のための「機能性表示飲食店」

 健康食品市場はあるのに健康飲食店がない。「健康飲食店」をつくるべきだと、以前レポートしました。しかし、これではあいまいでした。

 健康食品には国が認める「保険機能食品」というカテゴリーがあります。特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品という3つの種別があります。最近の人気は機能性表示食品。ヨーグルトのパッケージなどによくついています。

 これと同じように、ひとつの栄養機能に絞り込んだメニューを提供する飲食店、「機能性表示飲食店」が考えられます。機能はズバリ、みなさんが大好きな食物繊維です。 
 食物繊維の多い食品には、玄米や麦類に豆類、ゴボウなどの野菜やきのこ、さつまいもなどのいも類などがあります。これらの食品を使ったメニューを提供する飲食店です。

 白いごはんではなく玄米を食べるのは、健康になりたいという気持ちよりも、病気への恐怖だと思います。切実に健康を願う人が数%確実にいます。前述の調査では「便秘」に悩む人が約7%いました。ここがお客さまです。絞り込んだターゲットです。ニッチな飲食店ならば「機能性表示飲食店」が可能です。

5.ニッチな飲食店「機能性表示飲食店」で大事な3つのポイント

 ニッチな飲食店の場合、忘れてはいけないことが3つあります。

 ひとつは、明確なコンセプトを決めることです。ブレないことです。その意味でお店の名前が重要です。食物繊維の店にするなら、フランス語のおしゃれな名前でなく、食物繊維の店と明確にわかる必要があります。これで他社の参入も防げ、独自の地位が確保できます。

 つぎに大切なのは価格設定です。お客さまは絞られています。まわりのお店の価格とあわせていると儲かりません。ニッチな飲食店でうまくいっているのはちゃんと利益のでる価格設定をしているお店です。

 最後は、しっかりとした情報を出していくことです。お店がメディアになるということです。そこでは、健康食品にありがちな意図的なあやしい情報があってはなりません。前述のように、全粒穀物に関しては国からあまり情報が出されていません。正確で適切な情報をお客さまに提供する必要があります。信頼できる情報であれば、小さなお店でもお客さまのほうから見つけてくれます。

 あらためてです。健康食品があるなら「健康飲食店」があっていいではないですか。「機能性表示食品」があるのなら「機能性表示飲食店」ができてもいいのではないでしょうか。

   

 玄米が大切とはわかっています。しかし、白いごはんに納豆やたまごかけごはんの魅力はたまりませんね。そう思って「ごはんに合うおかず」を検索したら、上位は唐揚げやビーフハンバーグ、麻婆豆腐でした。納豆にたまご…、う~ん、貧しいのは、発想なのか生活なのかです。

参考文献
佐々木 敏『佐々木 敏のデータ栄養学のすすめ』女子栄養大学出版部 2018
一般社団法人高機能玄米協会・日本食糧新聞社『玄米食白書2019』 2019
厚生労働省『2019年国民生活基礎調査の概況』令和2年