こんにちは、ニッチ教の狂信者です(^_^)。あらためて「ニッチ」についてです。
「ニッチって知っている?」ときかれたら、「すき間でしょ」と答える方が多いと思います。すき間は間違いではありません。しかし、実はいろいろあります。建築、生態学、マーケティング、それぞれにニッチがあります。
1.ニッチのはじまりは古代ローマ
はじまりは古代ローマの建築物からです。「壁のくぼみ」です。現在も建築用語として使われています。漢字で書くと壁龕(へきがん)。超難字です。「薔薇」と「憂鬱」はモテようと思って必死に練習しましたが書けませんね。壁龕はさらに書けません。しかも、書けてもモテない(^_^)。
ニッチのはじまりは悪名の高い皇帝ネロからです。ネロがつくった黄金宮殿(ドムス・アウレア)にニッチがありました。ここから西洋建築様式のひとつとしてヨーロッパ社会に広がっていきました。黄金宮殿は後に発掘され、現在はローマ観光の名所のひとつになっています。
黄金宮殿は部屋の数は数百室、庭園もある広大で豪華な施設です。そのなかのひとつに八角形の間(八角堂)とよばれる場所があります。この部屋の壁8か所にくぼみ、ニッチがあります。くぼみといっても小さな部屋ぐらいのスペースがあります。教会にあるようなドーム型の交差天井(ヴォールト天井)もついています。この場所に大きな彫像などが置かれていたようです。ローマ観光をしたことがないので「のようです」としかいいようがないのですが。
ここで大好きな閑話休題。グロテスクという言葉は、この黄金宮殿が発祥のようです。皇帝ネロは大の美術愛好家。ここを建設するにあたって、当時のローマ、ギリシャ、オリエントの装飾・建築様式をすべてここに押し込んでしまったようです。結果、趣味がよくないとの評判。後年、黄金宮殿の遺跡が洞窟=イタリア語のgrottaから発掘され、そこからグロテスクという言葉が生まれたようです。
2.ニッチの本家本元は生態学
ニッチという言葉がたくさんでてくるのは生態学です。20世紀のはじめごろからニッチに関する研究発表がされています。ニッチは「生態的地位」という日本語になっています。壁龕(へきがん)よりは覚えやすいですね。生き物が暮らす独自の場所ということでいいと思います。
生態学でのニッチの事例です。ゾウリムシとヒメゾウリムシを同じ水槽に入れた実験です。水槽のなかで、やがてゾウリムシが消えてしまいます。負けたんですね。ヒメゾウリムシだけが勝者として生き残ります。生態的地位であるニッチが重なる場合は共存できないということです。ビジネス社会よりもキビしいですね。
しかし、別の実験例でゾウリムシとミドリゾウリムシを同じ水槽に入れた場合は共存します。水槽内ですむ場所とエサがそれぞれに異なることから共存できるということです。食い分け、すみ分けをすることでニッチ(生態的地位)が重ならないからです。
食い分け、すみ分けだけでなく、生き物の生存戦略は創意工夫があります。ニッチな飲食店ビジネスでも参考になります。
集団になる。イワシなどの青魚はいつも群れています。集団になることで大きく見せてマグロやイルカなどに襲われる確率を減少させるということのようです。月島のもんじゃ焼き店が思い浮かびます。
動かない。熱帯林に住むナマケモノ。ずいぶん失礼な名前をつけられてしまいました。でも動きが遅いのは生きていく戦略。動体視力がすぐれる肉食の動物から、ゆっくりと動くことで逃れることができます。神田神保町の純喫茶なども動いていませんね。課長に怒られそうになったときも下をむいてじっとしています。この場合は役に立ちませんが(^_^)。
似せる。海底の岩のように見せるタコ。敵から身をまもるための擬態です。飲食店では…税務署の目を逃れるために営業していないように見せる戦略ですか?う~ん…これは戦略ではなく犯罪かもしれませんね(^_^)。
3.ニッチを転用したマーケティング
「ニッチは、すき間だ」といわれるようになったのは、マーケティングの大家、P・コトラーが1970~80年ごろに提唱した競争地位別戦略からだと思います。生態学のニッチという言葉を参考にしたと思われます。
競争地位別戦略では事業者をシェア(市場占有率)の大きい順に4つに分類しています。リーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャーです。くわしい説明は込み入った話になってしまうので、私の近所のスーパーの例でお話しします。
ひとつは「イオン」。全国チェーンの大きなスーパーですね。近くの駅からの無料送迎バスもあります。シェア最大。このお店がリーダーです。フードコートにあるタコ焼き屋さん、大きめのサイズにネギたっぷりでお気に入りです。
近くに「オーケー」もあります。エブリデー・ロー・プライスがキャッチフレーズ。店舗数も増えています。ご近所ナンバーワンのお店になりたいと思っているはずです。いつも買い物客でいっぱい。このお店が2番目、チャレンジャーです。
地場のスーパー「マルエイ」。イオンから数百メートルの近さです。品揃えやお店の広さはイオンよりもちょっと小ぶり。商品はマイナーブランドもあって価格もちょっと安め。イオンよりもぐっと敷居が低い感じで3番目。このお店がフォロワーです。
そして最後のお店がニッチャー。「永盛マート」。中国・アジア系の食品専門のスーパーです。お客さまも中国をはじめアジア系のひとたちばかり。リーダー、チャレンジャーのお店はここにあるような商品は扱いません。すき間であり、売上も小さいからです。これがニッチです。
ニッチ戦略などとマーケティングで語られるようになって、ニッチという言葉は誰もが知る日常の言葉になりました。しかし、その分、あいまいな言葉にもなりました。すき間、小さな市場などネガティブなイメージはここからだと思います。
あらためてですが、ニッチのはじまりは建築学。古代ローマから2000年の歴史があります。ニッチの父です。お父さんは泰然としています。
一般化したのは生態学。ニッチの母です。そして、日常の言葉にしたのは、ちょっとやんちゃな息子のマーケティング。お母さんは定義にこだわらず、いいようにニッチを使っているやんちゃ坊主にヤキモキしていると思います(^_^)。
参考
渡辺道治(第3章) 『西洋建築様式史』 美術出版社 2010
武末祐子 『グロテスク装飾のインパクト』 西南学院大学学術研究所 2012
稲垣栄洋 『弱者の戦略』 新潮社 2014
原登志彦監修 西村尚之 『大学生のための生態学入門』 共立出版 2017
同じ話でもう少し詳しい内容がサイト内にあります