ニッチな飲食店ビジネスをどう見つけるか。これが問題です。しかも、これから成長が期待できるものでです。すき間ビジネスを探せばいいという単純な話ではありません。難問だと思います。しかし、飲食店に限らずですが、ニッチビジネスを見つけ、成長させることができれば大きな成功となります。
ポイントは生態学的な地位、ポジションを探すことだと思います。私の考えですが、探す方法はいくつかあると思います。強みを磨くこと、偶然に発見すること、好きを深めていくことだと思います。
強みを磨くこと
他にはない強みをみつけ、そこをニッチといえるまで尖らせるという方法。オンリーワンでナンバーワンになることがニッチの理想です。現在の自分の強みを突きつめて、独自といえるものにすることです。
強みの見つけ方でよくある方法はSWOT分析です。自分のなか(内部環境)の強みと弱み、まわりの状況(外部環境)からの機会(チャンス)と脅威にわけて分析します。これ以外にも自分の希少性や他人がマネできないことなどに着目したVRIO(ブリオ)分析*という方法もあります。
しかし、ここで問題になるのは、意外にも自分の強みはわかっていないことです。SWOT分析やVRIO分析をしてみても、その強みが本当の強みなのかは、なかなか確信がもてません。さらには、強みであるのにスルーしてしまうこともあると思います。
実際には、自分の強みは他人がわかっていることも多いと思います。日本のことわざでは、岡目八目ですね。囲碁の勝負では、傍(はた)からみているほうが八目先までわかるということです。
フレームワークでは「ジョハリの窓」があります。サンフランシスコ州立大学のジョセフ・ルフトさんとハリー・インガムさんの二人の心理学者が発表したコミュニケーションモデルです。
人間の心には4つの窓があるとしています。①開放の窓:他人にも公開されている自己、②盲点の窓:自分は気がついていないが、他人が知ってる自己、③秘密の窓:自分は知っているが、他人に公開していない自己、④未知の窓:他人も自分も知らない自己。
自分ではわからないことを発見してくれるのは他人からの視点。盲点の窓に注目してみることです。自分を開示して、他人とコミュニケーションすることで自分の強みを発見することができると思います。
参考:「ジョハリの窓 人間関係がよくなる心の法則」久瑠あさみ 朝日出版
サポートしているカンボジア料理店「バイヨン」(東京・神楽坂)。カンボジアは国としてのブランド力が低く、高い価格設定はできないと考えていたご主人。しかし、日本でも1店しかない専門シェフのいるカンボジア料理店です。価値があります。これを意識したことで戦略が大きく変わってきました。
飲食店だけでなく、すべてについてですが、強みがないということはない思います。強みを発見し、とぎすませてニッチビジネスにする。オンリーワンでナンバーワンになるポジションにまで磨き上げることが大切だと思います。
2.偶然にみつける
探していて偶然に発見する。このようなことを「セレンディピティ」といいます。最近よく耳にするようになりました。セレンディピティは「偶然と察知力によって、あてにしないものを発見する才能」のこと。ニッチな飲食店ビジネスを発見するためには、セレンディピティが必要だと思います。
もともとは1754年にイギリスのホレス・ウォルポールが古代ペルシャの物語から造語したとされています。物語はセレンディップ(今のスリランカ)の3人の王子が旅に出て、いつも意外な出来事にめぐり合い、探していなかった何かを発見したという話です。
このセレンディピティ、科学の世界で注目されています。ノーベル賞受賞者のアレクサンダー・フレミング博士が培養の実験中に落ちたカビから偶然に!抗生物質のペニシリンを発見した話が有名です。日本のノーベル賞受賞者の田中耕一さんも、偶然に実験に使う試料を間違ってまぜたことで新しいタンパク質の分析方法を発見したと語っていましたね。ノーベル賞の創始者アルフレッド・ノーベルのダイナマイトの発明もセレンディピティでした。輸送中に容器がこわれて漏れたニトログリセリンを容器のまわりの珪藻土が安定させていたことを発見したからです。科学の数々の発見がセレンディピティであったといえるようです。
「幸運は用意された心のみに宿る」フランスの細菌学者パスツールの言葉だそうです。偶然といえどもそれをつかまえることのできる日常の準備が必要です。いつも一生懸命にニッチな飲食店ビジネスについて考えていることが発見につながるのだと思います。私も毎日「ニッチ、ニッチ、ニッチ」とつぶやきながら街を歩いていますが、凡庸というか暗愚というか、なかなか見つかりません。修行が足りていません。
飲食店のセレンディピティは、たとえば親子丼です。明治の半ばごろ、日本橋人形町の「玉ひで」で、お客さまが鶏鍋の残った煮汁を卵でとじて食べていたことをヒントにして生まれたといわれています。
また、オムライスは銀座の「煉瓦亭」でまかない食(従業員の食事)を見たお客さまが「あれを」といってメニューになったとのことです。ともにセレンディピティだと思います。偶然からニッチなメニューとして生まれ、その後、飲食ビジネスとして成長した例は数多いと思います。
参考:
「セレンディピティと近代医学」モートン・マイヤーズ 中公文庫
「あのメニューが生まれた店」菊地 武顕 平凡社
3.自分の好きなことを深める
「これが好きなんだ!」。この言葉に返す言葉はありません。「好き」はニッチビジネスを考えるうえで、外すことができないテーマです。
「Niche ニッチ-新しい市場の生態系にどう適応するか」の著者ジェームズ ハーキンさんはこう書いています。「自分の関心の対象を絞り、ニッチなものを確認する。好きなことであるほうがいい。お客さまの数ではなく、お客さまを育てること」。好きであるなら、毎日それに触れていることが楽しいのですから熱心になり、努力を惜しむこともないでしょう。
ハーキンさんは例として、アメリカのサザン・カリフォルニア・モーターサイクルズというバイクショップの例をあげています。オーナーのトム・ヒックス氏が破産と4度の離婚(!)をのり越えて立ち上げたショップです。アメリカでは珍しいイタリアのバイク「ドゥカティ」の専門店です。ここには、バイクだけでなくドゥカティに関するあらゆるグッズを展示。ショップというよりは「聖地」となり、お客さまの人気と売上を獲得しているようです。
ハーキンさんは「カルト」となるべきだといっています。カルトという言葉は、やや反社会的なイメージがありますが、熱狂的なファンを作ると考えてもいいかもしれません。カルトであるためには、伝道師(オーナーや熱狂的なお客さま)、信者(お客さま)、教会(店舗)や儀式(イベント)が必要です。経典(ブランドブックなど)があればさらにいいでしょう。カルト的な活動でニッチビジネスを成功させることができるということだと思います。
参考:
「Niche ニッチ―新しい市場の生態系にどう適応するか」
ジェームズ ハーキン著 東洋経済新報社
明治時代のような大家族制度のもとでは、人々には家族や地域社会の強いつながりがありました。しかし、現在では核家族でさえ分裂しかかっています。以前、「無縁社会~”無縁死” 3万2千人の衝撃」という NHKの番組が話題になりました。また、是枝裕和監督の「万引き家族」も話題になりました。つながりは弱く消えかかっています。不安に感じている人も多いはずです。
であるとするならば、つながりを提供するビジネスはお客さまにとって魅力的です。ニッチなテーマによって、お客さまに信者になってもらう。お客さまは、やがて、熱が入り伝道師にもなり、他の信者をつれてくる。ここに来れば仲間がいて安心できる。ビジネスという視点ではなく、つながりという視点でビジネスをする。それがニッチであればより強いものになると思います。
飲食店の例では、熱狂的な野球チームのファンが集まる居酒屋があります。ニッチな飲食店の例では、「ヒキダシ」(東京・清澄白河)というカフェレストランがあります。引き出しがインテリアになっています。この引き出しがマニアにはたまらないもの?なのでしょうか。
この発想から考えるとマニアックな工場萌え、廃墟萌えなどのような世界観でニッチな飲食店ビジネスをすることもできるかもしれません。ただし、マニア的であることが優先されることから、ビジネスとして成長性があるのかは、事例も少なくよくわかりません。ここは、さらに掘り下げていくともっと興味深い事例が出てくるのではないかと思っています。
4.まとめ:さらに導き出す方法があるはず
ニッチな飲食店ビジネスをどう発見するかは、大きなテーマだと思います。ここでは、強みを磨くこと、偶然に発見すること、好きを深めることについて書いてみました。
しかし、ここまで書いてきて、ふわっとしていると感じています。おそらく、考え方としての心がまえに近いものだからだと思います。ビジネスの創造を目指すものであることから、プロトタイプを模索するデザイン思考のようなものになっています。これとは別に、論理的に導き出す方法もあると思います。あらためて、また考えて、別ページでご報告いたします。