ビーガンハンバーガーは、将来大きく成長する可能性があるビジネスだと思います。気候変動という社会課題を解決するひとつの手段だからです。ビーガンハンバーガーショップはニッチな飲食店ビジネスの成長モデルではないかと思います。

1. 新宿歌舞伎町のハンバーガーレストラン

 「アイン ソフ リプル(AIN SOPH. ripple)」さんに伺いました。ビーガンハンバーガーのレストランです。久々にちょっと興奮してしまいました。もしかしたらバケるんじゃないかと。
 場所は新宿歌舞伎町。大久保公園の近くです。ちょっと昔なら、娘が行くというとお母さんがすごく心配するようなところ。でも最近はすっかりきれいになって安心して歩けます。お店はビーガンレストランらしいシンプルな作り。フロアに大きなテーブルがあり8席。窓際にカウンターがあり6席。外に木製のイスが4席があります。店内は、外国人のお客さんでほぼいっぱいでした。

アインソフリップル

2.ビーガンってなにさ

 ビーガン(VEGAN)。言葉は知っていても、まだ、あまりおなじみではないかもしれません。肉・乳・卵・蜂蜜を避けて、できるかぎり動物搾取をしないことです。最近出版された「ビーガンという生き方」*1によると、「脱搾取派」という語にビーガンというルビがふられています。脱搾取(=ビーガニズム)は社会運動といえます。
 ビーガンは、最近、メディアで注目されることが多くなっています。「焼肉もプリンも食べられない生活なんて生き地獄だ」と思われる方、私を含めて多いと思います。ベジタリアンよりも厳しい食生活、そんなこと実際にできるのかと思うのですが、ひとつの社会運動となっているのには、しっかりとした理由があるようです。

グーグルトレンド ビーガン
ビーガンはグーグルトレンドの検索でも上昇。しかし、世界ではすでに落ち着いてきている。

3.ビーガンは大きな市場になる

 「ビーガンという生き方」を読んでみました。私見としてまとめてみると、ビーガンが支持されるようになったのには、二つの大きな理由があると思います。
 ひとつは動物の虐待に関する問題。私たちは同じ動物であるペットを愛し、家畜を殺しています。これが矛盾です。畜産業は、動物に強制的に子どもを産ませ、成長ホルモンや抗生物質などの薬剤を大量に投与し、成長させて、再び子どもを産ませ、産めなくなったら屠殺する。ペットの犬や猫は、服を着せ、病院にもつれていき、家族と同じように大切にし、いつくしむ。ペットも家畜も頭脳があり感情があります。牛や豚や鶏だけ工業製品のように製造したうえで、なんのためらいもなく殺す。これに矛盾を感じる人がいるのは当然だと思います。

 また、この「製造」のために使われる大量の薬剤は私たちの健康問題に影響しています。多くの人が「ガンなどの病気の原因になっているのではないか」と疑っているはずです。このことで自分自身に迫る危機を感じています。

 二つめは環境問題です。国連は気候変動(いわゆる地球温暖化)の要因として畜産業の影響が大きいとしています。2006年には、動物性食品の生産は温室効果ガス排出の18%を占めていると報告しています*2。また、畜産業におけるエサの生産、給水、洗浄などで大量の水を消費しています。大量の水の消費は周辺地域の旱魃(かんばつ)に影響を与えています。異常といわれる気象が頻繁にあらわれるようになり、普通の市民でさえ「このままでいいのか」という疑問を感じているはずです。

これまでは「私たちは、生きものの命を預かって、生きているのだ」と学校で習い、このことを正当化してきました。しかし、現代では大豆から肉の代用品を作ることもできます。自分自身のすぐ近くにある危機を感じ、代替する食品を利用することができることを知り、ビーガンを支持する人が増えていると思います。

 この動きを報道が伝えはじめ、メーカーや外食産業が応えはじめてきたということだと思います。こう考えると、ビーガンは一時的な健康ブームというこようなものではなく、地球規模の大きなうねりだと思います。今後、大きな市場となっていくと思います。

ビーガンという生き方


3.ニッチ戦略としてのビーガンハンバーガーショップ

ここからがポイントです。上記の話を前提にして、ビーガンハンバーガーショップについて分析してみましょう。

(1)ターゲットはビーガン

 明快です。お客さまはビーガン。「アイン ソフ リプル」さんに伺った日は平日の1時半ごろ。先客に外国人3名の家族が2組。日本人と外国人の2名が1組。あとから日本人1名、外国人1名。帰りがけにさらに外国人2名。印象としてはピークタイム過ぎても千客万来。物珍しい気持ちで来店したのは私だけだったかもしれません。
 前述のように、ビーガン市場は一時的なトレンドではなく、今後さらに成長が見込まれます。ターゲット層が増加していくということは、販売の増加に大きな期待が持てることだと思います。

2017年米国の完全採食主義者は6%
米国のレポートによると完全菜食主義者の人口は2014年1%から2017年に6%に増加
(2)強みはビーガンハンバーガー

 商品(自社)の強みもビーガン商品。これもはっきりしています。他のハンバーガー屋さんとは大きく差別化されています。商品は、見た目も食べてもまったくハンバーガーです。ソテーした甘いたまねぎの上に牛肉風のパテ。その上に厚切りの赤いトマト、さらにグリーンがあざやかなアボカドペースト。最後にレタスとオリジナルソースで美しい仕上がりです。ビジュアルの良さは大切です。

ビーガンハンバーガー

 確認していないので推定ですが、大豆ミートを使ったパテは、私のような味覚の凡人には、食べ比べでもしないかぎりわかりません。これから技術が進むと、さらに本物の肉のようになっていくのではないでしょうか。技術の進化で商品の品質が向上する。販売増加が期待できます。

(3)競合はなくほぼ独占的

 写真の商品が人気商品で1,188円(税込)。客単価が1,000円を超えていますので、マクドナルドとは違い「プレミアムバーガー」というカテゴリーになります。まだ国内には100店舗前後しかありませんが成長しています。
 「アイン ソフ リプル」さんは、このカテゴリーの中でニッチャー(詳しくは別ページで)になります。市場のリーダー企業(ショップ)のビジネスとは異なるビーガンハンバーガーの専門ショップだからです。ニッチ市場でシェアが独占的であり、お客さまがたくさんいる飲食店。理想的です。独占的であれば高い利益率の確保が可能になります。これがニッチビジネスの大きな原則です。

プレミアムハンバーガー
プレミアムハンバーガーのプレーヤー
プレミアムハンバーガー市場の推移
客単価1,000円以上のプレミアムハンバーガー市場は成長している

4.成長が約束される社会課題解決型の飲食店

 是非、がんばっていただきたいお店です。社会課題の解決に貢献するからです。上記でも述べましたが、畜産業による食料調達は、どうやら曲がり角に来ているようです。「肉が食べたい」という欲求は、人類であるならば当然だと思います。しかし、欲求のおもむくままに行動することは問題もおきます。少し我慢することも必要かもしれません。

 これはごみの分別収集と似ている気がします。私が子どもの頃、ごみは全部まとめてゴミ箱行きでした。ところが、今は細かく分別して出しています。最初は面倒だった記憶があります。しかし、今は当然であり分別収集に異議を唱える人もいません。分別による資源リサイクルが重要であることを知っているからです。

 地球全体、自分自身にせまっている環境の危機、野生生物絶滅、動物虐待という心の痛み、これらの社会的な課題は、一人ひとりが、少しだけでも肉の代替食を利用することで解決に向かいます。したがってビーガン市場は、拡大すると思います。広がりは、小さな地域だけではなく、地球全体となり巨大な市場になると思います。

 ニッチな飲食店から巨大な市場を作って成長した例もあります。期待すべき飲食店として、ゼヒ、頑張っていただきたいと思います。

※ここでご紹介した新宿の「アインソフリプル」さんは、コロナ禍のなかで残念ながら閉店されています。主たるお客さまであった外国人観光客の減少が要因ではないかと思います。コロナが早く収束することを切に祈っています。

参考
*1:「ビーガンという生き方」マトク・ホーソーン著 井上太一訳 緑風出版
*2:同書より、2006年報告書「家畜の落とす長い影―環境をめぐる課題と選択肢」