1.見つけられないお店、神楽坂バイヨン
何度かうかがったことのあるお店です。神楽坂の途中から、ちょいと横道に。たまに「チントンシャン」と芸者さんの稽古の音が聞こえる見番横丁を歩き、名のあるお店を横目に見てズンズン歩きます。つきあたりの坂道を左に右に。坂を越えると黄金の仏像が。お店の看板です。「シャングリラなのか!」は大袈裟ですか…。
2.カンボジア料理店は都内で3店
カンボジア料理のお店は、都内はここを含めて3店舗だけ。国内でも10店舗ぐらいのようです。珍しい=ニッチな飲食店です。
神楽坂という場所としての強みも大きいと思います。石だたみの小路に高級な飲食店が軒を並べています。少しざわついた渋谷・新宿や赤坂・銀座のようなきらびやかさとは少し違う大人のにぎわいがこの街にはあると思います。
3.お客さまは女性中心なのか
一般論ですが、東南アジアなどのエスニック料理のお店のお客さまは、およそ8割までが女性といわれています。カンボジア料理は野菜を多用する料理でもあり、神楽坂バイヨンでもおそらく女性が多いことかと思います。
また、神楽坂を歩くと女性たちがたくさん歩いている姿が目につきます。若い女性、仲良しの奥さまたち、お年を召された女性などがグループでそぞろ歩きをしています。
明治の花街の雰囲気を残す、狭い石だたみの横丁。古い料亭風のお店などもあり、なんとなく懐かしい気持ちにさせてくれます。時に突然、本格的なイタリアンのレストランや小さくておしゃれなお店が顔を出し、女性をひきつける要素が多い街です。
4.競合なのか、同盟なのか。集客力の高いエリア
お店の近くには行列のできるお蕎麦屋さん、あえて入口がわかりにくい和食のお店、女性向けのアジア料理店、高級な会席料理のお店、小粋なフランス料理店などなど、数え上げたらきりがないほどたくさんの飲食店があります。競合としての厳しさがある一方、これだけ揃うとエリアとしての集客力が高まると思います。グルメストリートですね。
しかしながら、実は、この神楽坂バイヨン、少しそこから離れています。歩いている人からは見えません。「視認性」という点では、かなりの弱点なのかもしれません。
5.神楽坂バイヨンの魅力は珍しさか
お客さまは、カンボジアに興味のある人と考えてみます。カンボジアへの訪問者数は年間約20万人。しかもデコボコはありますが、上昇傾向にあります。タイへの訪問者数は約166万人、ベトナムには83万人です。それぞれの飲食店数はカンボジアは3店、タイは198店、ベトナムは68店もあります。どうでしょうか。カンボジア料理店の少なさが浮き上がってきますね。
だから、ここに市場があると思うのは早計。なぜ、現在お店が少ないのかが重要です。もしかしたら、ベトナムやタイのように料理としてのブランド力がまだ低いからかもしれません。ベトナムのフォー、タイのトムヤンクンのような「カンボジア料理はこれ」という際立つメニューもありません。
ネットで検索するかぎり、閉店したカンボジア料理店も多くでてきます。珍しさから人気となり、しばらくは好調なのですが、その後、だんだんとお客さまが減少する。飲食店では良くあるパターンだと思います。神楽坂バイヨンは7年目。「ただの珍しいお店」は乗り切ったのかもしれません。さてその成功要因は何かです。
6.シェフはプノンペンのレストラン「ロムデン」出身
このお店のシェフ、マイさんに取材しました。すでに、数年前に日本に帰化されています。カンボジア名はリャスマイさん。そのマイさんから一冊の本を見せてもらいました。タイトルは「From Spiders to Water Lilies」。プノンペンにあるレストラン「ロムデン」を取材した写真集です。タイトル通り、ビックリなクモ料理も有名ですが、上品な料理で人気があり予約必須の高級店とのこと。
本のなかの集合写真に若い時のマイさんがセンターに写っています。シェフとして活躍していただけでなく、たくさんの若いシェフのトレーナーもやっていたとのこと。他のカンボジア料理店で見られるような「家庭料理」ではなく、本格的で確かなシェフの技術力がこのお店にはあると思います。
7.一般のエスニック料理店と少し異なる実態
お客さまも実は、男性も多いとのこと。東南アジア料理店のお客さまは通常女性が8割。しかし、神楽坂近くには新潮社もあり、出版関連の会社も多く、男性のお客さまも多いとのこと。時に、団体で奥の座敷を占拠してお店のワインを飲み干すこともあるようです。
カンボジアの名産コショウ、レモングラスなどの香味野菜、カンボジア独自の調味料、さらに中華調味料など複雑に使いわけているようです。タイ料理のような辛さはなく、深い味わいです。ビールや白いご飯が欲しくなる料理でもあります。販売データでも「ライス大盛」の注文数はかなり上位だと笑っていました。ということで女性比率は、はぼ50%。一般的な東南アジアのレストランと少し違いますね。
ただ珍しいカンボジア料理ということではなく、神楽坂という街の魅力、そして本格的なカンボジア料理のシェフの調理技術、男性を含めた顧客層の広がりがこの店の強みということだと思います。
次に来るときは、大好きなソムロー・カリー(カンボジア風スープカレー)にライス大盛にしようかと思っています。