もんじゃ焼きがそんな高度な戦略なのか?と突っ込みが来そうです(^_^)。でも、よく考えるとそうなんです。
ニッチ・マーケティングでよく参考にしている山田英夫教授の『競争しない競争戦略』。この本のなかに「10のニッチ戦略」としてニッチの分類があります。そこに「空間ニッチ」という分類があります。事例では北海道のコンビニ「セイコーマート」が取り上げられています。セイコーマートは北海道という限定された地域(空間)だけで展開しているコンビニです。
ここから試論として、飲食店ビジネスにおけるニッチ戦略のカテゴリー分類をやってみました。
詳しくは別ページ「ニッチな飲食店を10の戦略に分類」をご覧ください。ここでは、そのなかの空間ニッチ戦略の例をご紹介します。
1.飲食店の空間ニッチ戦略とは
これは地理的なという意味で良いと思います。月島のもんじゃ焼きだけでなく、宇都宮の餃子、富士宮やきそばなど地方のB級グルメを思い浮かべていただければいいと思います。地域で協力して、たくさんのお店が同じニッチなメニューを販売しています。そのことによって地域が有名になっています。一度、有名になると他の地域ではなかなか追いつけなくなります。
ニッチ戦略として、とても上手くいっている例だと思います。いわゆる「参入障壁」ができています。参入障壁とはマネできないようなカベです。いかにニッチビジネスで上手くやっても、簡単にマネされてしまえば、あっというまに競争に巻き込まれてしまいます。競争になると「いまならお得!」などのように値引き販売になってしまいがちです。競争しないことが基本です。
2.強みは徒歩圏内に100店舗あまり
「月島もんじゃ」は食べログで検索すると89店が出てきます(2017年11月現在)。月島もんじゃ振興会協同組合ではおみやげセットも売っています。駅からの徒歩圏で100店近くもあることで集客力が非常に強くなっています。
飲食店ビジネスのようなヤワな業界では使ってはいけないのかもしれませんが、「産業クラスター」だと思います。ひとつのビジネスをサポートするさまざまな企業も集まっています。代表的な例はシリコンバレー(ハイテク産業の集積)。「えっ。やっぱり飲食店ビジネスではいいすぎ?馬子の衣装ですか(^_^)」。
3.お客さまは全国から、世界から
お客さまは、全国各地、世界各地から観光客が来ています。レトロな交番や小さな観音さんもあって観光名所になっています。「月島もんじゃ街」の知名度が高いため、「月島のもんじゃに行った」と友達に話すことなどで、「私も」と新しいお客さまが絶えません。新規顧客がいつも「枯渇しない」素晴らしい循環ができています。
4.競合がいない最終勝利
かなり以前ですが、私の記憶では、かつては浅草がもんじゃ焼きで有名だったと思います。しかし、浅草には浅草寺をはじめ多くの観光地や天丼、どじょうなど名物料理もたくさんあります。いわゆるコンテンツがたくさんあります。そのためもんじゃ焼きに注目が集まることはありませんでした。
その点、「月島」は陸の孤島。他に武器がなかったことが幸いして、選択と集中ができたのだと思います。ここまで多くのもんじゃ焼き店があると、もはや地域としての競合はいません。この後も出現することはないでしょう。完全な最終勝利です。あとは慢心を恐れるだけです。
念のためですが、各店が個性的なメニューや店舗のつくりを工夫するなど、「また月島の他のお店に行ってみたい」と思ってもらうことができれば万全です。
「月島もんじゃ」は、東京でもニッチなもんじゃ焼きという食べ物を「空間ニッチ戦略」で成功させたということですね。ニッチな飲食店ビジネスでは、ひとつの理想的な姿だと思います。
「小さなお店が協力しあって地域全体で盛り上げる」って大事です。なんだか、いい話でまとまりましたね(^_^)。
参考:山田英夫『競争しない競争戦略』日本経済新聞出版社 2015年