1.観光客は短期的な移民である

 「新・観光立国論」の著者デービッド・アトキンソンさんは、
世界的な投資会社ゴールドマン・サックスの元アナリスト。
現在は、国宝などの文化財を修理する
小西美術工藝社の社長をされています。
以前、テレビで活躍ぶりを拝見しました。
各方面で観光ビジネスのアドバイザーの仕事もされているようです。

 日本は今後人口減少となり、このままでは成長は見込めない。
「海外からの観光客は短期的な移民である」と考えられ、
これにより成長が可能であるとアトキンソンさんは言っています。

 また、観光客数を2030年までに今の約4倍、
8,200万人にすべきだとも言っています。
頼もしいですね。さすが元アナリスト。
データも豊富で説得力があり、納得できます。

日本の将来人口推計
<日本の総人口は、2065年に8,800万人にと予測されている>
2.日本は観光後進国

 観光では遅れていることを日本人が理解していないようです。
日本の観光収入は、東アジアの中では中国、マカオ、タイ、香港、
マレーシアなどに遅れて8番目になっています。

 また、GDPに占める観光収入の割合も0.4%とかなり低くなっています。
逆にこれからまだまだ伸びる余地があるとも言えるわけですが。

日本の観光収入はまだ少ない
<日本の観光客収入は東アジアで8番目>
3.世界の観光客を呼び寄せる力がある

 日本は観光潜在力があると認められています。
2015年に世界経済フォーラムが発表した
「観光潜在力ランキング」では世界9位になっています。

 また、観光立国に必要な4条件「気候・自然・文化・食事」
という点では、日本は満点です。
タイやイギリスなどのように条件が欠けていても、
日本より上位の国もたくさんあります。
だから、予備校の先生のようですが(笑)日本はやればできるはずです。

日本の観光力は高い
<世界から観光客を呼び込む潜在力は十分>
4.お客さまの視点を忘れている

 問題は、顧客が求めているものをつかんでいないという点です。
マーケティングの視点がでズレているということです。
大切なのは「お客さまは誰か、何を求めているのか」
「リピートさせるにはどうするか」などお客さまの立場で考えること。
これがマーケティングの基本ではないでしょうか。

 日本人が大好きな「おもてなし」やマナーの良さ、治安の良さ、
交通機関の正確な運行などは、海外の観光客からすると
それほど高く評価はされていないようです。

 アトキンソンさんは「おもてなし」は、
海外に向けてアピールするものとして、
「勘違い、意識が甘い、押しつけ、自画自賛」とバッサリです。
気持ちがいいぐらいですね。
確かに言われてみると「日本人ってすごいでしょ」の
押しつけかもしれません。

 お客さまの観光客は、世界各国から来るのですから、
それぞれに価値観が違います。
アジアの観光客と欧米の観光客では求めているものは違うはず。
さらに国別に、もっときめ細やかなマーケティングが必要なはずです。

日本の5つの魅力
<見てほしいのはマナーや気配り。見たいのは歴史や伝統など>
5.観光資源に投資すること

 アトキンソンさんは、文化予算が他国に比較して少ないと指摘。
2014年に有名な旅行雑誌「トラベル+レジャー」で、
人気観光都市ランキング世界1位になった京都なのに、
その観光客数、年間200万人は少ないと言っています。

 お金を多く落としてくれる上客である欧米の観光客は、
歴史的な文化財に興味があります。
にもかかわらず、ホテル、街並みの整備、多言語のガイドブック、
展示説明や通訳ガイドなどが不足しています。
文化で稼ぐための文化予算が投資されていないということです。

日本の文化予算は少ない
<意外なほど日本の文化予算は少ない>
6.お客さまのことを考える

 アトキンソンさんの素晴らしい提案が数々出てきますが、
一番面白いのは、日本人の根本にあるマーケティングの視点が
ズレているという指摘だと思います。

 「観光、頑張ろう!」と前のめりになってしまっています。
お客さまについて考えるという基本的なマーケティングの
視点を忘れてしまっているということ。
自分でも思い当たるところがあり、痛いところです(笑)。

参考・出典:「新・観光立国論」デービッド・アトキンソン著(東洋経済新報社)