The marketing for niche restaurants

裸足の国で靴を売るなら、まずマーケティング

1.基本はフィリップ・コトラーのマーケティング

 「ニッチ、ニッチ。ニッチ・マーケティングだ」と毎日叫んでいます。しかし、基本はいわゆるマーケティングです。そのマーケティングの基礎となるものはフィリップ・コトラーのマーケティング理論です。

 世の中には「なんとかマーケティング」という言葉がたくさん出てきます。その多くがコトラーのマーケティング理論をもとにしたものになっています。もちろん、ほかにもマーケティング理論を唱える人はたくさんいます。しかし、コトラーの理論がマーケティングの大きな根幹になっていることに異論をはさむ人は少ないはずです。ニッチ・マーケティングもコトラーのマーケティング理論から生まれたものです。

2.「裸足の国で靴を売る話」。まどわされそうな異説

 さて、そのコトラー先生が、どうしてマーケティングが大切なのかについて面白い小話をしてくれています。この話、以前ブログにも書きました。マーケティング業界では有名です。しかし、ネットでこの話を調べてみると、かなり違った話になっていることもあります。おもしろい話なので、かいつまんで話したものが、さらにかいつままれて伝わったのかもしれません。例えば、こんな話になっています。

 あるアフリカの国に靴を売りに行ったセールスマンAは、空港に到着するなり本社にこう連絡しました。「この国では靴は売れません。この国では靴を履いている人がいません」。
 ところがセールスマンBは、空港に到着するなり本社にこう連絡しました。「大至急、靴を大量に送ってくれ。この国ではまだ靴を履いている人がいないんだ」。
 ものごとをポジティブに考えるセールスマンB。がんばって売るBが正しいマーケティングの考え方だ。

 なんだかいい話なので半分くらい納得してしまいそうになります。でも、本当の話ではAもBも間違いです。

3.マーケティングにはしっかりとした調査が必要

 この話の出典は、『コトラーの戦略的マーケティング』にあります。以下、ちょっと長いのですが、本文から引用します。

 南太平洋に浮かぶ島に自分たちの市場があるかどうかを検討している香港の製靴メーカーの話がある。

 その島に派遣された受注担当者は、状況をざっと見て、こう電報を寄こした。「ここの人は靴をはいていない。ここには市場はない」。その報告に納得できなかった社長は、営業マンを島に送った。営業マンは、「ここの人々は靴をはいていない。ものすごい市場がある」と電報を打った。残念なことに、この営業マンが圧倒的な数の裸足の人たちを目撃してわれを忘れてしまったため、今度はマーケターが送り込まれた。部族の首長と数人の現地人にインタビューしたこのマーケティングのプロは、こう電報を送信した。

   

 ここの人々は靴を履いていない。しかしながら、彼らは足に問題を抱えている。私は、靴を履くことで足の問題が防げることを首長に示した。首長はその考えに夢中になっている。部族の人々の70%が一足10ドルの価格で靴を買うだろうと、首長は見ている。初年度、われわれは5000足を販売できる見込みだ。島に靴を運ぶ輸送費と流通経路の整備にかかる費用は一足あたり6ドル。初年度の利益は2万ドルを超える計算になる。われわれが計画している投資額からすると、投資利益率(ROI)は20%となり、通常の15%を上回っている。言うまでもなく、この市場に参入することで、将来手に入る価値は高い。ぜひ参入すべきである。

フィリップ・コトラー『コトラーの戦略的マーケティング』ダイヤモンド社 2001 第2章

この話の冒頭には、「調査はマーケティングの出発点である。調査をせずに市場参入を試みるのは、目が見えないのに市場参入するようなものだ」ともあります。また、しっかりとした調査は、それによる収益が企業の財務上の目標にかなっているのかまで試算されているものだともいっています。

 今、市場としてないから根本的にないのかはわかりません。本当にないのか、実はあるのかは調べてみないとわかりません。事実を確認し、分析し、そこから判断して行動すべきだということですね。

4.基本は「R→STP→MM→I→C」

「裸足の国で靴を売る話」は調査(Research)に関する話でした。マーケティングの基本的なプロセスは、調査からスタートします。続いてSTP、すなわちセグメント(市場の区分)、ターゲティング(どこのセグメントを狙うか)、ポジショニング(自社と他社の位置関係)を設定します。

 その後、マーケティング・ミックス(Marketing Mix)を考えます。具体的には4Pです。製品・価格・流通チャネル・プロモーションの4つについて考えることがマーケティング・ミックスです。

 ここまで来たらあとは実行(Implementation)あるのみ。購買、製造、営業、マーケティング、経理など全部門が動きはじめます。成果がでる段階です。問題が発生する段階でもあります。

最後はコントロール(Control)、管理です。コトラーは「成功する企業は、学習する企業である」といっています。ちょっと耳が痛くなりますね。市場の声を聞く、結果を監査、評価する。目標に達しなかった場合は、問題がSTPにあるのか、4Pにあるのかなどについて検討するべきであるといっています。

 マーケティングをするなら、基本の取り組みは大切にしたい。ニッチ・マーケティングでも、このプロセスは変わりません。

            

 いま思いついた「裸足の国で靴を売る話」創作の後日談です。
 その次に島に行った販売担当者から本社に連絡があった。「大変です。靴の販売を委託した首長が、売上金をもって逃げてしまいました。イヤ、追いかけられないんです。なにしろ逃げ足が速くて。当社の靴を履いていましたから…」。う~ん。コトラー先生に怒られそうですね。

裸足の島で靴を売る
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