The marketing for niche restaurants

未来の食事はアートになる。ニッチな飲食店の大胆予測

 未来予測というのは、かなりエライ学者さんでもはずれると聞いています。学者でもない私には、未来予測は恐れ多いことだと思います。しかし、思いつきと思い込みが激しいタイプなので、大胆に未来の食事について予測してみました。

1.世界の人口は増加。さて食料はどうなるのか

 着実な未来予測はあります。人口です。世界の人口は増加しています。2010年は69億人、2020年には77億人、2030年には83億人になるといわれています。世界の人口が増加した時、その食料はどうなるのでしょうか。世界中の人が心配していると思います。

世界の総人口の増加
世界の人口は2050年には100億人に近づく

 特に、成長が著しい中国、東南アジア諸国などでは急速に食肉の需要が高まっています。今後さらに経済が成長し生活が豊かになると、ますます需要が高まると思います。将来にわたって、これに見合う食肉の生産ができるとは思えません。
 ここでは、食肉について取り扱いますが、小麦・トウモロコシなどの穀物、マグロ・サケなどの水産物などについても同様、将来の需要に見合う増産できるとは思えません。

1人当り畜産物消費量と世界の需給見通し
需給量も増加するが、消費も急加速で伸びる

2.これ以上の食肉の生産は難しい

 食肉の増産には大きな壁があります。人々の要求に地球が応えられないからです。畜産業はその産業構造から気候変動に大きな影響を与えています。主な問題はふたつ。

 ひとつは環境問題。国連は気候変動(いわゆる地球温暖化)の要因として畜産業の影響が大きいとしています。2006年には、動物性食品の生産は温室効果ガス排出の18%を占めていると報告しています。
*1。また、畜産にはエサである飼料が必要です。牛肉1㎏を生産するには、トウモロコシ換算で11㎏、豚肉1㎏の生産には7㎏が必要になるといわれています。そのトウモロコシ1㎏の生産には、水1800ℓが必要になります。大量の水の利用は土地を荒廃させます。また、畜産業の過放牧により土地が砂漠化し、さらに温暖化が進みます*2。これ以上の食肉の生産は問題が多すぎます。

 もうひとつは動物の虐待。ペットの猫や犬には深い愛情をそそぎ、服を着せ、病院にまで連れていきます。一方、食肉用の牛、豚、鶏たちは製造物のように扱われています。劣悪な居住環境、強制的な妊娠、成長ホルモンや抗生物質などの薬剤の大量投与。そのうえで殺されてしまいます。このことを広く人々が知るようになりました。その結果、動物虐待と環境破壊を嫌悪するビーガン(完全な菜食主義をする人々)が出現しました。

*1:出典「ビーガンという生き方」マーク・ホーソーン 緑風出版から引用<国連食糧農業機関(FAO)2006年報告書「家畜の落とす長い影―環境をめぐる課題と選択肢」> 
*2:出典「世界の農業と食料問題のすべてがわかる本」八木宏典 ナツメ社
ビーガンという生き方
ペットへの深い愛情と食肉用の動物への感情には矛盾がある

3.代替タンパク源は大豆タンパクと培養肉

 将来、昆虫がタンパク源になると予測する人もいます。先ごろ無印良品が、2020年にコオロギせんべいを発売すると発表して話題になりましたね。山梨の片田舎で生まれ、幼いころにイナゴの佃煮を食べて育った私には、あまり抵抗がありません(^_^)。しかし、一般の方々にはかなり抵抗があると思います。理性で納得しても、感情が納得するかはまた別の問題です。

 ビーガンの人たちが肉の代わりに食べているものの多くは大豆タンパクです。アメリカでは代替食品を開発する企業に投資が集まっています。Beyond Meat社は2019年5月、NASDAQ市場に上場。すでにサブウェイやマクドナルドでもビーガン向けのメニューが出されています。

Beyond Meat社はサブウェイなどに製品提供を行っている

 アメリカのビーガン(完全菜食主義者)人口は、2014年に1%でしたが、わずか3年後の2017年には6%にもなっています*3。イギリスでもビーガン人口は、総人口の1.16%にあたる60万人となっています*4

 日本でも注目されてきています。オシャレなレストランもできています。実際に食べてみても、食事としてなんの遜色もありません。むしろレシピとして洗練されていてモダンな感じです。

ビーガンレストラン
T’sレストラン(自由が丘)、アインソフ リプル(新宿)、ヴェジハーブサーガ(上野)

 さらに、将来期待されているのは培養肉です。クリーンミートともよばれています。そのほか合成肉、試験官肉、カルチャーミートなどさまざまな名前でも報道されています。受け入れやすさで考えるとクリーンミートがいいかもしれませんね。

 幹細胞を培養して食肉をつくる技術。まだ、生産技術を開発中で、、商業ベースでは実用化されていません。2013年にオランダの大学で試食会が行われました。ハンバーガー1個(パテ200g)あたりのコストは2800万円とのこと。ダイヤモンドを食べるイメージですね(^_^)。しかし、その将来性には注目が集まっています。大豆タンパクを生産する企業同様に、すでに投資会社の出資対象になっているようです。Mosa Meat社、Memphis Meat社などの名前があがっています*5

 コストや味など未解決な問題はあります。しかし、食肉増産の環境負荷を考えると、大きな道筋だといえます。理論上ですが、安全性、公衆衛生や抗生物質の過剰投与による耐性菌などの問題にもいい影響があるはずです。ただし、昆虫食同様に食べる側の嫌悪感がでてくる可能性もあります。
 大豆タンパクやクリーンミート(培養肉)など人類お得意の科学技術が、今後の食料不足を解決するひとつの手段であるのは間違いないと思います。

*3:米国Global Data社 Top Trends in Prepared Foods in 2017,
*4:ニューズウィーク日本版for Women 2019年9月6日
*5:出典 月刊フードケミカル 2018年8月
Mosa Meat社とMemphis Meat社のサイト
Mosa Meat社とMemphis Meat社のサイト。完成のイメージですね。

4.食事活動からの脱出。完全食

 完全食という考え方があります。イギリスのSoylent社は、世界人口の増加による食料問題解決のために完全食にとりくんでいるようです。日本でも(株)コンプが「ヒトの健康に欠かせない必須栄養素を理想的に配合した、完全バランス栄養食」として完全食を販売しています。

 理想的な栄養の摂取を目指す人やビジネスで忙しく食事の時間が惜しい人などの需要があるのだと思います。シリコンバレーでもよく売れていると聞いています。日本でもサラリーマンなら牛丼屋に駆け込むこともありますね。完全食で満足感があれば利用が増えるかもしれません。食事をする時間、準備の時間などには多くの時間がかかります。その時間をもっと優先順位の高いものに使いたいこともあるでしょう。大好きなゲーム、スポーツ観戦、え?仕事ですか、もっと寝たい????(^_^)

 人口増加により食料不足から価格上昇などの問題が発生するならば、低価格で時間のかからない完全食ですます人もでてくると思います。

「完全食」の普及は意外と早いかもしれません
「完全食」の普及は意外と早いかもしれません

5.つながりの食事、尊敬される食事

 完全食で食事ができるのならば、マズローの欲求段階説で考える生理的欲求と安全欲求が満たされることになります。そうなれば食事は、その先の社会的な欲求(所属と愛)・承認の欲求・自己実現の欲求を満足させることに集中できることになります。

 社会的な欲求(所属と愛)であれば、親しい仲間とのつながりをもたらす食事、たとえば家族や親友の誕生会、コミュニティの集まりのための専門レストラン。承認欲求ならば、その場所にいることで尊敬を集められるような食事。結婚式や記念パーティのような華々しい催しを専門とするレストランでしょうか。完全食があれば、バーチャルであったり、ビジュアル的な食事などアイデア先行の食事の提供ができます。

アメリカの心理学者、アブラハム・マズローの欲求段階説

6.未来のシェフはピカソかバンクシーか。食事はやがてアートになる(はず)

 (はず)って気弱。断言したいのですが、山梨県の田舎生まれでいつもモジモジタイプ。でも心のなかでは「ゼッタイ」と思っています。歴史を振り返ってみると同じようなことが起きているからです。

 絵画の世界です。19世紀まで絵画は風景や人物を写して描いていました。1839年、タゲレオタイプという写真が登場。状況が変わりました。カメラで写せば現実世界は見たままに描写されます。画家が技術を駆使して見たものを写しとる必要はなくなりました。

 カメラの普及で画家たちは多くの仕事を失いました。しかし、写実という苦行からも解放されたのです。画家たちはこれまでにない新しい表現を始めました。はなやかな色彩の印象派。そう思っていてもみんな言わないヘンテコリンな絵のキュビズムやフォービズム。

  食事の大事な役目は栄養補給。食事しなくても栄養補給ができればいいわけです。前述しました。すでに「完全食」があります。シリコンバレーなどで、仕事がとてもとても好きな人たちが食べているようです。一食分の栄養素がつまったドリンクのようなものをゴクンゴクン。食事の時間を節約しています。

 マルセル・デュシャンは小便器を横にして作品「泉」としました。このごろはバンクシー。作品がオークションで落札されたとたんにシュレッダーで裁断しました。「なにこれ?」「どうして?」ですね。現代アートは新しい世界を見せてくれます。手で写すという作業がなくなって新しいことが始まったのです。

 完全食があるのなら食事にも新しい道ができます。食事には会食という役割もあります。これは大切です。親しい仲間との食事は楽しみですね。晩さん会のような儀式もあります。「こんどメシ行こうよ」と嫌いな上司の思惑つきの食事会もあります。会食がある限り、絵画が現代のアートを目指したように、食事も新たなアートに向かうはずです。

 荒唐無稽ではありません。すでにテーブルアートのお店があります。原宿の「ソロモンズ」さんです。店内はロマネスクな感じ。1990年ごろのバブルの時代を思い出します。いまはなにしているのでしょうか。バブルに踊り、バブルに酔ったあの人この人…私もですね(^_^)。

 しばし華やかな料理を楽しんだあとデザート。テーブルアートです。うやうやしい儀式がはじまります。黒いペーパーにフルーツソースで花や文字が描かれていきます。そして、最後に大きな白い球(ホワイトチョコ)を豪快にテーブルにたたきつけます。ガシャン(た~ま~や~!)。いろいろなお菓子が飛びだしてきて完成。コレはアートやぁ~。

テーブル・アート
「ソロモンズ」テーブルアートのデザート

 「ただのインスタ映えだよ」という方いるかもしれません。しかし、海外ではすでに進化しているようです。以下の内容は本とネット情報なので伝聞です。不確かな部分はご容赦ください。

 シカゴの著名なレストラン「アリニア(Alinea)」。オーナーシェフのグラント・アケッツ氏による独創的でクリエイティブな料理が提供されています。煙がでたり、石のうえにのっていたり、風船がでてきたり…。ネットで見ただけなのでよくわかりません(^_^)。しかし、芸術的であることはわかります。「ソロモンズ」さんのテーブルアートもここがお手本のようです。

 ロンドンの有名なレストラン「ザ・ファット・ダック(The Fat Duck)」では『不思議の国のアリス』の物語のなかの「気のふれた帽子屋」をテーマにしたメニューがあります。そのテーマづくりには映画『リトルダンサー』の脚本家リー・ホールが協力しているとのこと。脚本家とのコラボレーション。新しい道ですね。

 考えてみるとスープ、メイン、デザートなどのコース料理はただの順番です。一方、物語をもとに料理が出されるのならワクワクした体験ができます。「また行ってみたい」と記憶に残ります。脚本家という芸術家が参加した食事の新しい道だと思います。

 アーティストでイーティング・デザイナーのマライエ・フォーゲルサングさんの作品。テーブルの天井から白い布をたらし、会食者はそこから首だけ出します。そして互いに出てきた料理を提供しあいます。たとえば、片方にメロン、反対側に生ハムを提供すると自然に交換しあって「メロンの生ハム添え」を食べることになります。食欲を満たすということだけではなく、食べることの意味を体験で感じるということのようです。

 食事による新しい体験ができるアートの世界がこれから広がるはずです。

 ところで、日本にどのくらいの芸術家がいるかご存じでしょうか。著述家、美術家、音楽家などで約48万人とのことです(2015年国勢調査:図1)*。総就業者数は約5,890万人。となると国民の1%近くは芸術家です。しかも、芸術家の50%以上が東京都と近郊の県に住んでいます(図2)。こんなに多くの芸術家がいるのなら、食事の世界にもっとアーティストが入ってきていいと思います。

 栄養補給という機能から解放された未来の食事は、現代アートのような作品になる。であるならば、シェフピカソ、シェフバンクシーたちの登場が待たれますね。

 レストランの銀色のトレー2枚を使って裸で踊ったらアートかなと思っている方、それ間違いですよ。ただのお笑いです。100%芸術じゃありませんから(^_^)。

芸術家の人口
東京近郊に住む芸術家人口比率
40%以上の芸術家が東京都内に住んでいる

*出典:総務省国勢調査平成27年 15歳以上の男女就業者
<参考>
Travel Book https://www.travelbook.co.jp/topic/2200
チャールズ・スペンス著 長谷川 圭訳『「おいしさ」の錯覚』角川書店 2018年
AXIS WEB MAGAZINE https://www.axismag.jp/posts/2014/04/45109.html

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