The marketing for niche restaurants

ニッチな飲食店、5つの成功戦略と4つの未確認戦略

 ニッチな飲食店で成功するための方法論です。「確信はある」と断言したいのですが、それほどの自信家でもありません。前半の5つは「ほぼ間違いないだろう」。読んでいただければ納得いただけると思います。後半の4つはまだよくわかっていません。モヤモヤです。

ニッチな飲食店の5つの成功戦略

1.ニッチを明確にする

 ニッチな飲食店の「ニッチ」はなにかということです。「なに」を明らかにしておくべきです。
  
 「どうしてもこの店でないとダメ」とお客さまが言ってくれかです。「満席だ。じゃほかの店に行こう」と言われるようなら、本当のニッチではないかもしれません。
  
 ニッチな飲食店には8つの分類があると考えています。健康・提案・愛好・時間・特定・地域・成長、そして曖昧の8つです。ニッチな飲食店と思われるおよその店は、どれかにあてはまります。くわしくは別ページで確認ください。
   
 もっとも難しいのが8番目の「曖昧」です。その名のとおりニッチであるか曖昧なのです。
 たとえば食材に特化した店です。東京・表参道のマッシュルーム料理の店「マッシュルームトーキョー(MUSHROOM TOKYO)」。ニッチです。
   
 しかし松阪牛専門の店はどうでしょうか。満席なら神戸牛や近江牛の店に行くかもしれません。ニッチなのでしょうか。では、イワシ料理専門店はどうでしょうか。満席ならどうしますか。待つのか、ほかの店に行くのか…。曖昧です。
    
 ひとつのメニューに特化した店もあります。豚しょうが焼き定食の専門店です。おいしそうです。満席ならどうしますか…。曖昧です。ニッチなのかもしれないし、ニッチではないのかもしれない。
   
 ほかの店(競合する店)があるのならニッチではないと思います。ニッチな飲食店であるならニッチを明確に主張できるようにすべきです。

2.店名でニッチを表現する

 ニッチの内容がすぐに理解できる、短い店名が必要です。
   
 東京・町田のしょうが料理の「しょうが」。東京・六本木などにある筋トレファンのための「筋肉食堂」。明快です。なんの店かすぐにわかります。検索でも効果があるはずです。ニッチを求めるお客さまは検索に一生懸命ですから。
   
 店名でニッチが表現できていたら、注目されます。興味をもたれます。行ってみたいと思われます。覚えやすくなります。思い出しやすくなります。ニッチな飲食店に広告予算はありません。店名が広告のすべてです。
   
 もし店が人気店になったらすぐに競合店が現れます。飲食店ビジネスに仁義はありません。その時にニッチを代表する店名であればトップの座を守れます。
   
 ニッチな飲食店なら、読めないフランス語のおしゃれな店名にしないでください。短くスッキリとわかりやすい「ニッチ」の名前をつけてください。

3.価格戦略を重視する

 価格戦略が大切です。低価格ではないはずです。真にニッチであるなら高価格でもお客さまが集まります。
   
 ニッチな飲食店はニッチであるため、たくさんのお客さまを集めることはできません。店を維持するための適正な価格設定が必要です。
   
 価格の設定方法はたくさんあります。原価から計算するコストプラス法。類似する商品を参考にする知覚価値法。ブランド品ならそれなりの価格(名声価格)にしなければなりません。
   
 ニッチな飲食店のお客さまは来店が1回限りの場合も多いようです。「珍しいから行ってみたい」という動機です。行くべき価値のある商品と価格の設定が必要です。
   
 東京・谷中のかき氷専門店「ひみつ堂」のメニューは1,400~1,800円です。かき氷…、昔人間の私のアタマには「1杯300円」が浮かびます。しかし「ひみつ堂」のかき氷を食べてみれば高価格は納得できます。行くべき価値のある店とわかります。店の前はいつも長い長い行列です。
  
 ニッチな飲食店の場合、価格の見極めが大切です。まわりの店を見て価格を決める必要はありません。よく検討して価格を決めましょう。

4.ニッチの情報を集めて提供する

 情報を徹底して収集し、それをお客さまに提供しましょう。これがお客さまを集めることにつながります。
   
 情報の発信はWebサイトやSNSが中心です。「コンテンツ・マーケティング」です。店のWebサイト(ホームページ)が必要です。グルメサイトと同じ内容では意味がありません。ニッチに関する情報がぎっしりと詰まったWebサイトにします。
    
 役に立つニッチの情報を集めて記事をつくるのは、とても大変です。さらにつくっても即効性がありません。ここで徳川家康を思い出しましょう。どうする家康。家康はこう言っています。「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず。(以下略)」
   
 しかし価値あるサイトになるのは間違いありません。Googleに認めてもらえるまでには時間がかかりますが、積み重ねれば、やがてGoogleも認めてくれます。SEOの順位があがるということです。 
       
 ニッチの情報にお客さまの関心が集まり、来店につながります。

5.ニッチの「人」に光をあてる

 ニッチの情報を発信する人はだれなのでしょうか。経営者ですか、店長ですか、シェフかもしれませんね。その「人」に光をあててみましょう。
    
 熱い情報があるはずです。本人は当たり前と思っていることも、ほかの人には「へぇ、スゴイ」と思う情報かもしれません。ニッチに関する情報を確認しましょう。
   
 発信源がだれかわかると店を身近に感じてもらえます。情報の信用度も高まります。
   
 身近なところのニッチな飲食店のシェフの話です。少し親しくなったところでくわしい話を聞くと、出身国の有名レストランでシェフとして働いていただけではなくて、シェフを目指す若者たちの学校で先生までしていたことがわかりました。
   
 この後、シェフの生い立ちや料理へのコメントをWebサイトやSNSに掲載すると確かな手応えがありました。
  
 ニッチの「人」をスターとして紹介しましょう。語ってもらいましょう。歌ってもらえるかもしれませんね。プロフィールに番宣用のポートレートも用意したり…。楽しくなるはずです。

ニッチな飲食店の4つの未確認戦略

 ニッチな飲食店については、まだよくわかっていないことがたくさんあります。成功戦略かもしれないし、そうではないかもしれないという施策です。モヤモヤです。

1.「集積化」…ニッチな飲食店が集まるとお客さまも集まる

 たとえば高田馬場に20軒ほどあるミャンマー料理店、月島もんじゃストリートの100軒近いもんじゃ焼き店です。ニッチな飲食店でも集まると強くなれます。たくさんになって目立つことでお客さまが街にやってきます。
    
 しかし餃子や焼きそばの店が集まる有名な街もありますね。なじみのある料理の飲食店でも集まると大きな効果があるということです。
   
 集積化がニッチな飲食店の成功戦略なのか…。まだ、よくわかりません。

2.「元祖メニュー」…元祖メニューでニッチの頂点になる

 元祖メニューの店ならば、だれも近づけません。ポークカツレツの「銀座煉瓦亭」、麻婆豆腐の赤坂「四川飯店」、トロ握りの日本橋「吉野鮨」、つけ麵の池袋「大勝軒」…。ニッチです。
    
 元祖メニューができたことで、そのメニューが世の中に広まり、やがて特別なポジション、つまりニッチになったのです。
   
 元祖メニューは、がんばれば開発できるものなのでしょうか…。元祖メニューづくりに没頭すれば成功するのでしょうか。ほかの店にもメニューが広がって頂点に立てるのでしょうか。成功戦略なのか、よくわかりません。

3.「博物館化」…ニッチなものを集めてお客さまをよぶ

 ニッチにまつわる品物を収集して店全体を博物館にしてしまう戦略です。ニッチの世界に浸りきれるならファンも喜ぶはずです。
   
 ジェームズ ハーキン『ニッチ―新しい市場の生態系にどう適応するか』という本では、ドゥカティのオートバイの販売で成功したサザン・カリフォルニア・モーターサイクルズの話がでてきます。店舗には関連するグッズが並べられていて博物館のようになっているようです。ここにファンが集うようになり、ビジネスとして成功したようです。
    
 スポーツバーやプロ野球ファンの居酒屋にはサインやグッズなどが並んでいます。しかし博物館化とまでは言えません。飲食店ビジネスでの博物館化の事例はまだないと思います。それが戦略として有効なのかわかりません。どうなのでしょうか。

4.「ニッチ構築」…ニッチな飲食店をゼロからつくりあげる

現在ニッチとして認知されていないものをニッチとしてつくりあげていくことです。
   
 生態学では「ニッチ構築」という考え方があります。たとえば北米に住むビーバーです。樹木を切り倒し、川をせき止めてダムにし、できた池に木を積みあげて巣としています。自らがニッチ(生態的地位)を築くということです。
   
 東京・外苑前などの「ワールド・ブレックファスト・オールデイ」。世界の国ぐにの朝食を研究しアレンジし、2か月ごとにメニューを換えて提供しています。台湾やフィンランドなど朝食で楽しい世界旅行ができます。いままでにない商品提供のスタイルです。
   
 何年かたつとノウハウが確立すると思います。よその店が追いかけられなくなると思います。独創的なアイデアと自身の力でニッチを築き上げる飲食店。大変な努力です。しかし最強のニッチな飲食店戦略になるかもしれません。
   
   
 ニッチな飲食店の成功戦略は、まだまだたくさんありそうです。しかし、うまく発見できていません。いまのところモヤモヤばかりです。テレビ東京「モヤモヤさまぁ〜ず2」のファンだからでしょうか。

<参考文献>
ハーマン・サイモン『価格の掟(おきて)』中央経済社 2019
菊池武顕 『あのメニューが生まれた店』 平凡社 2013
ジェームズ・ハーキン『Niche ニッチ―新しい市場の生態系にどう適応するか』東洋経済新報社 2013

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