日本で独自に発展したラーメン。人気は世界的なものとなり、海外からの観光客を呼び込んでいます。ハラール・ラーメンはムスリム(イスラム教徒)観光客のためのラーメンです。日本ではニッチですが世界的なビジネスに成長すると予測します。
●ハラール・ラーメン。日本での成長には限界
日本国内のハラール・ラーメンはニッチな飲食店です。「儲かる」とは言えないかもしれません。
ムスリム観光客の数は増えています。しかし日本でのハラール・ラーメン市場が爆発的に成長することはないでしょう。コロナ後にムスリム観光客が増えたとしても、数十店舗までだと思います。大きな市場にはなりません。
ということでハラール・ラーメンの成長は難しい。であれば、どうすべきなのかです。「顧客」がたくさんいる市場に向かうべきではないでしょうか。
ジェフェリー・ムーアの言う「キャズム」を越えるためには、顧客がいるムスリムの国へと旅立つ必要があります。
●インドネシアがハラール・ラーメンのターゲット市場
ハラール・ラーメンの市場はムスリムの国。アジアではインドネシア、マレーシア、シンガポールの3国です。とくに人口が多いのはインドネシアです。
2020年現在の人口は約2.7億人(外務省)。アメリカに次ぐ世界第4位の人口大国です。人口の約87%がムスリム。ターゲットは2.3億人となります。
2019年にはGDPが1.1兆ドルにまで増加。経済成長率も5%前後が続いています。有力な市場です。すでに一部のハラール・ラーメン店はインドネシアのジャカルタに出店しています。先を読んでいますね。
また、インドネシアはインスタントラーメン大国でもあります。年間消費量は126.4億食。世界第2位です。ちなみの1位は中国/香港で463.5億食。ちなみに日本は第5位で56.6憶食です。市場の大きさがわかります。
インドネシアでは、焼きそばのミー・ゴレンなど麺の文化も豊かです。日本のラーメン・レストランが成長する土壌があると思います。
●マーケティングで大切なこと。お客さまはだれなのか
「日本のハラール・ラーメン。いざ、インドネシアへ」といっても、やはりスタートはニッチです。さてビッグビジネスになるためにはどうすべきかです。
ここで、もう一度ムーアのキャズム理論で考えてみましょう。大事なことは「お客さまはだれなのか」です。
人口が1,056万人の首都、ジャカルタがターゲットでしょう。イノベーター(革新者)が2.5%、初期採用者が13.5%とすると最初のお客さま候補は約160万人。さらに、これを越えることができれば、次は33%の前期追随者です。330万人です。十分な市場です。
想定するお客さまは「日本食に憧れを持つ層」です。インドネシアの若い人たちにはK-POPなど韓国の文化が人気です。負けず劣らず日本のマンガやアニメも人気です。「日本のラーメン」を知る人も多いはずです。新しいことに興味をもつ若い層が最初の顧客層になるはずです。
●「ローカライズ」。現地の事情にあわせる
次は商品です。「実利的であること」が大切であるとするならば、現地にあわせた商品(メニュー)、価格、お店づくりが必要です。
現地の事情にあわせることをローカライズとも言います。コテコテのアメリカ出身のマクドナルドでも日本人向けの月見バーガーやテリヤキバーガーというメニューがあります。
ケンタッキー・フライドチキンはクリスマスにチキンを食べる習慣を日本に根付かせてしまいました。アメリカでは七面鳥。チキンを食べることはないのにです。
アメリカに渡った日本の巻きずしは、ノリを裏巻きにしてオレンジ色の魚卵を巻いたカリフォルニアロールとなって定着しました。アメリカ人にはノリの黒い色が受け入れられなかったようです。現地の事情をくみ取ることが大切です。
また、1年に一か月あるラマダン(断食月)はどう対応するのか。300種族と言われる多民族国家でもあります。食べものの好みも多様なのだと思います。難しくとも、なんらかのローカライズは必要だと思います。
●キャズムを越える。お客さまはだれか、競争相手はだれか
インドネシア名物の屋台(カキリマ)や食堂(ワルン)では麺類のメニューが豊富にあるようです。低価格のインスタントラーメンもあります。ここで価格競争することになれば敗退は間違いありません。
一方、日本のラーメンは特殊な技術のメニューです。しばらくは、ハラール・ラーメン市場に当地の飲食店は参入できません。しかし、飲食なので人気になれば、いつかはマネされてしまいます。それまでに、麺類の店のなかで、しっかりとした立ち位置(ポジショニング)を確保しておくことが重要です。
厳しい状況に打ち勝つためには、新しいメニューや新しいシステムの提案をしていくことが大切です。チェーン展開をはじめた時の「吉野家」のような商品改善や「マクドナルド」のようにつぎつぎと新しい提案をしていく姿勢を参考にするべきだと思います。
ニッチを越えて大きな市場を獲得するには、キャズムという大きな溝を越える必要があります。顧客(お客さま)はだれか、実利的な商品(メニュー)はどうするのか、競争の相手はだれなのか。さらに飲食店ビジネスで重要な新しいメニューや新しい仕組みの提案をどうするのか。この部分の心構えができていると、なんだかうまくいきそうです。
<参考文献>
村井吉敬、佐伯奈津子、間瀬朋子『現代インドネシアを知るための60章』明石書店 2013
2022年6月9日掲載 2024年6月14日改稿