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時間ニッチな飲食店構想:「料理進化説」を超える「外部化料理進化説」で飲食店が先端ビジネスに

 料理進化説とは、人類は火を使って料理することで進化したという説です。生物人類学者リチャード・ランガムが著書『火の賜物 ヒトは料理で進化した』で唱えています。
      
 ヒトが料理で進化するなら、これから先、飲食店の利用でさらに進化するはずです。飲食店ビジネスの未来は輝いています。
     
※定義です。自分でも混乱するので、まずはここでの言葉の使い方を決めておきます。「人類・ヒト・人」とは約700から500万年前にチンパンジーの祖先から分かれた人類の起源「猿人」以降の種とします。「人でなし!」としかられたときは「あんたはサル!」と言われたと思ってください。

●「料理進化説」とはどんな内容か

 リチャード・ランガムの壮大な料理進化説についてシンプルに説明します。わかりにくいところがあったらごめんなさい。原典でご確認ください。
    
(1)料理はいつはじまったのか
 約180万年前。人類の祖先は700~500万年前に誕生しました。330万年前から前期石器時代がはじまりました。現在の私たち、ホモ・サピエンスの先祖ホモ属が誕生したのは200万年前。このころ東アフリカでは乾燥がはじまり、人類の棲みかだった森がサバンナに変わりました。
    
(2)料理はどこではじまったのか
 人類のはじまりの場所と言われるアフリカ東部、エチオピア、ケニア、タンザニアなどです。多くの研究者がここで化石の発掘をして人類の進化を探求しています。
    
(3)だれが料理をはじめたのか
 ホモ・エレクトスです。直立する人という意味です。少し前の200万年前に出現した器用な人、ホモ・ハビリスの一群が料理によってホモ・エレクトスに進化しました。
    
(4)なにをつかって料理したのか
 管理された火です。ホモ・ハビリスの時代から使いはじめた石器や火打石などで火をおこしました。火の使用がこの時代からはじまったかについては多くの議論があります。明確な痕跡が発見されていないからです。詳しくは後述します。
    
(5)なぜ料理をはじめたのか
 食べものをやわらかくするためです。生の肉やでんぷん質の多い植物の根などは硬く、そのまま食べるには多くの時間と消化のためのエネルギーが必要だったからです。火の熱で肉などの組織を壊してやわらかくしたのです。
    
(6)どのようにして料理したのか
 自分たちでおこした火を使いました。直接火にかけたり、焼いた石を使ったり、熱い灰のなかに葉でくるんで入れたりしたのだと思います。炙(あぶ)る、焼く、煮る、蒸すということですね。

●料理で進化するとは、具体的にどういうことなのか

 料理したものを食べることによって体や脳が変化し、さらに協力する社会が生まれました。
    
(1)胃や腸などが小さくなった
 料理で食べ物はやわらかくなります。やわらかくなると咀嚼(そしゃく)や消化活動で使う時間とエネルギーを節約できます。また生で食べるよりも体の中での消化率があがり効率的に栄養を吸収できます。
    
 チンパンジーが一日に咀嚼のために使う時間は約5~6時間。牛が牧草をどのように食べているかを考えてもわかります。大変な作業です。私たちが3食をハンバーガーで済ますとしたら咀嚼に使う時間はどのくらいでしょうか。早い人なら30分かもしれません。健康には良くありませんが。
    
 料理したものを食べることによって、負担が減った胃や腸は小さくなります。ここで使われていたエネルギーが脳を成長させるために使われました。
    
(2)脳が大きく成長した
 私たちの脳は基礎代謝量のうち20%を消費します。脳の重量は体重のわずか2.5%でしかありません。霊長類の脳は基礎代謝量の13%しか使っていません。ヒトの脳は大量のエネルギーが必要です。ホモ・エレクトスは、それまで胃や腸で使われていたエネルギーを使って脳を成長させたのです。
    
(3)二足歩行がうまくなり体毛が消えた
 大きな胃や腸が必要だったホモ・ハビリスの身長は1mちょっと。腹がでっぱり、ずんぐりとした体形でした。ホモ・エレクトスは身長1.8mで現代人と変わらないスマートなスタイル。これによって二足歩行がますます得意になりました。
    
 二足歩行が容易になると遠くまで獲物を追いかけることもできます。同時に体毛がなくなっていきました。体毛があると運動したときに体温が上がりすぎるからです。体毛があるチンパンジーは長い時間動きまわることができません。真夏にダウンコートで走りまわるのと同じです。体毛がなければ体温が上がらずにすみます。冬はちょっと寒いかもしれませんが。
    
(4)火を使う生活で理性が生まれた
 火を使うと暖まることができます。夜も明るくなりました。火を使うことで猛獣を追い払うこともできます。これによって木の上で寝ることから地上で寝るようになりました。
    
 火は一日を通して管理する必要があります。仲間と協力して火を維持しなければなりません。火のまわりで勝手なふるまいもできません。これによって仲間とコミュニケーションするための知能や言語、理性も発達したはずです。
    
(5)男女の協力と分業がはじまった
 男女が協力する仕組みができました。男性が食料を用意し、女性が料理して、男性がそれを食べる仕組みです。
   
 リチャード・ランガムはこれについて、料理している間に食料を奪われてしまうのを防ぐためだとしています。チンパンジーは生のものをその場で食べます。奪われる心配はあまりありません。しかし料理をするようになったら、食料は一度持ち帰らなくてはいけません。そこから火をつかって料理しているうちにだれかが襲いかかるかもしれません。そこを守るのが男性の役目となりました。
    
 男性に食べる権利が生まれました。また男女のペアは子孫を残すためには便利であり、一夫一婦制の結婚というシステムが生まれました。しかし男性に都合のいい仕組みです。石器時代にできたこのシステムは現代の社会には適していません。ジェンダー・ギャップ、これが問題です。

●料理進化説の検証。火はいつから使いはじめたのか、栄養で脳が大きくなるのか

 この説で問題なのは、180万年前に火を使用していたのかということです。動物は山火事などで焼け跡の木の実などがおいしくなることを知っています。火によって本来食べられないものが食べられるようになることや食べものがおいしくなることは本能的にわかっていたはずです。火の管理ができれば、そのまま料理につながることは合理的に考えられます。
     
 火の使用はイスラエルで79万年前に使用されたところまでは確認されています。しかし、それ以前については確証が発見されていません。リチャード・ランガムは考古学的に確認できないのなら生物学的に検証すべきだと言っています。
     
 脳の大きさの比較です。頭の骨の化石から脳の容積は推定できます。リチャード・ランガムのデータでは200万年前から180万年前の間に大きな飛躍があることがわかります。ホモ・ハビリスからホモ・エレクトスまでに、なにかが起きたと言えるかもしれません。
    
 一方で、体の大きさや体重が違えば脳の大きさは異なります。アウストラロピテクスからホモ・サピエンスはひとつの系統で進化したものではありません。クジラとヒトの脳の大きさを比較しても意味がありません。ということで、人がいつから火を使いはじめたのかは謎のままです。
    
 もうひとつは、増えたエネルギーで脳が成長するのかということです。エネルギーを多めに供給したら脳が発達したというのは無理があると思います。脳が大きくなるのは「脳を大きくする必要がある場合」だと思います。
    
 知能、言語、理性が必要になり脳が発達したのです。前述したように火の管理のためにはこれらの能力が必須だったはずです。料理がキッカケとなり、脳を発達させる必要が生まれ、脳が大きくなったということです。

●「だれが料理をするのか」の問題

 世界中で料理は女性がするものとなっています。不思議です。肌の色も文化も言葉も違う国ぐになのに同じルールです。
    
 料理のはじまりがホモ・エレクトスの時代からであるのなら合理性があります。ホモ・エレクトスはアフリカを出て、当時人類がいなかったユーラシア大陸から世界のすみずみまで広がっていったからです。ホモ・エレクトスの文化がそのまま現代にまで続いているのではないでしょうか。
     
 前述のような男女の協力と分業という説明は現代では理屈が通りません。もはや石器時代の遺物です。
    
 料理進化説でも説明ができます。妻が家でカレーをつくっていたら、できあがったころに見知らぬ男が入ってきてカレー鍋を奪って逃げようとする。それを阻止するのが夫の役目になります。でも、この可能性はゼロです。
     
 「なんであなたが酒を飲んでいて、私が夕飯つくんなきゃいけないの」と過去の記憶がよみがえりますね。女性が料理をしなければいけない理由は絶滅しています。

●新理論「外部化料理進化説」。ヒトを進化させる飲食店ビジネスが最先端に

 現代では、これ以上のエネルギー摂取は不要です。過剰摂取が問題です。肥満とそれによる病気です。これを解決してさらに進化する必要があります。どうするのかです。
    
 脳を進化させるための栄養素の供給とエネルギーの管理が必要になってきます。
    
 管理には外部化、つまり食べるための「専門施設=専門化した飲食店」が必要です。どんなものを食べたのかをデータ化します。そのデータに基づいて健康に最適で脳の発達が可能になる食事を提供することになります。料理を外部化することでヒトはさらに進化できるはずです。
    
 「井上さま、本日のビールはここまでです。カロリー充足率が100%を超えます」「そんなこと言わずに、もう一杯だけ。お願い、ランちゃん」「となると明日はコンニャクごはんとEPA錠剤3,000㎎とビタミンE剤700㎎が3食となりますがよろしいですか」「……」。
    
「…もしもし、お困りですか。ブラックですが、きっつ~いウィスキーありますよ。どうですか…」。
   
 突き詰めていくと家庭では料理をしないことになります。家庭では食べものの管理が科学的にできないからです。家庭で料理をしないことになれば、世界中の女性が強いられてきた料理から解放されることになります。ホモ・エレクトスの悪しき風習が廃棄されます。
     
 ただし趣味としての料理は残ります。余暇なので時間があるときには男性でも女性でも料理はできます。「きょうはパパ自慢のスパイスたっぷりのインドカレーだよ」。「またぁ?」。
    
 人類の進化に必要なものはAIや量子コンピュータだけではありません。新しい飲食店システムです。未来でもっとも必要とされる最先端ビジネスは人類を進化させる飲食店です。

<参考文献>
リチャード・ランガム/依田卓巳訳『火の賜物 ヒトは料理で進化した』NTT出版 2010
斎藤成也・海部陽介・米田 穣・隅山健太『図解人類の進化 猿人から原人、旧人、現生人類へ』講談社 2021
埴原和郎『人類の進化史 20世紀の総括』講談社学術文庫 2004

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