おにぎり屋さんがブームです。「おいしいから」ということもあります。しかし本当は値上がりしたパンやパスタよりも低価格でソコソコに満腹するからです。日本は貧しくなりました。しかし急にではありません。気がつけば20年以上前から進んでいました。もし超低価格の飲食店があれば救われます。給食と外食のコラボでできそうです。日本社会の先行きを考えるとビジネスの機会(チャンス)です。それだけではなく社会的意義のある飲食店ビジネスになりそうです。
●100円ショップのダイソー。生活用品のあらゆるものを
食料品の値上がりは困ったものです。私の大好きなヨーグルトは価格と容器が同じままで中身が減りました。こんなとき100円ショップは強い味方です。
ダイソーの売り場にいくと「これが100円で買えるの?」と思うものがたくさんあります。この価格は自社開発商品と多店舗化による規模の大きな生産で達成できています。
ダイソーの店舗数は国内4,139、海外2,312(会社案内2023年3月期)と増え続けています。「日本発のグローバル小売業」がメッセージ。世界でも低価格のワンプライス商品が支持されています。
100円という低価格はお金に余裕のない人にはありがたい価格です。ダイソーの売上高が増加しているということは貧しい日本人が増えているということでもあります。
●消費しないでシェアする社会。お金を節約する必要性
Z世代などともいわれる若い世代は消費が少ない世代です。そもそもお金をもっていません。しかし困りません。お金を使わなくてもやっていけるからです。
車は買うよりも借りる。ファッションは古着屋さん。売ったり買ったりは「メルカリ」。個人のスキルを売買する「クラウドワークス」や「ビザスク」もあります。国立科学博物館が話題になったクラウドファンディングもあります。買わないでシェアする経済の時代になりました。
消費、消費、消費と人びとをお金に駆り立てる資本主義社会。荒んだ社会がシェアで少し改善するようにも見えます。しかし本当は私たちが貧しくなっただけです。しかもそれはさらに悪化しています。
●多くの人が貧しくなった日本。貧困層は15%
おにぎりブームもダイソーもシェアする経済も貧しくなったことが要因と考えられます。
総務省の「国民生活基礎調査」でもわかります。国民の約7分の1、約15.4%(2021年)は貧困層です。1985年は12.0%ですから貧困層は増えています。
所得は上がっていないどころかずっと下がり続けています。2022年の世帯の平均所得は545万7千円。しかし「平均」だけでは正しくありません。一般の人10人と所得が200億円ぐらいある孫正義さんの11人の平均所得を計算すると18億円になってしまいます。真ん中の6人目の人の額「中央値」が納得できる数値です。
2022年の世帯所得の中央値は423万円です。平均値545万7千円よりも100万円以上低くなります。また1995年の中央値は545万円でしたから2022年までに122万円も少なくなっています。ずっと下がり続けてきたのです。
内閣官房が発表した大企業の財務動向を見てみます。大企業でも人件費は20年間で少し減っています。かたや企業の内部留保、いわゆる貯金は約3倍にもなっています。会社はお金持ちになりましたが私たちは貧乏になっています。
●「お金がない人」がたくさんいる。さらに増える新ターゲットの貧困層
貧乏な人ばかりでも層が厚ければビジネスになります。少額のものでも多くの人が買うとビジネスになるからです。BOP(ボトム・オブ・ピラミッド)です。かつてアジアやアフリカ諸国でのビジネスとして注目されました。
そのBOPビジネスが日本でもできるもしれません。国民の15%が貧困ならターゲット層は約1,800万人。厚いですね。飲食店ビジネスにもなりそうです。
前述の所得推移のグラフを見ているとこれからも減少するのはほぼ確実です。あまりうれしいことではありませんがターゲットである貧困層が増えるということです。
「貧困は関係ない」と思っている人もいるかもしれません。でもすぐに自身が貧困になるかもしれません。社会活動家で「子ども食堂」の支援などをする湯浅誠は著書『反貧困』で日本は「すべり台社会」と述べています。うっかり足をすべらせたら、すぐさまどん底の生活にまで転げ落ちてしまうからです。
●外食チェーン店のポジショニングマップ。その下に新しい市場ができている
飲食店ビジネスでは高級なフレンチや割烹料理店、一般のレストランや飲食店、ファミレスさらにハンバーガーなどのファストフードがあります。これらをざっと価格とメニューバラエティの2軸でポジショニングしてみます。
貧しい人が15%となると、ここに実は開拓されていない市場(ポジション)があることになります。低価格の下、客単価250円程度の「超低価格帯」です。需要はあるはずです。1,800万人いるからです。
いま事業者はありません。当然「ありえない。儲からない」からです。しかしあらゆるものを100円で売り、成長を続けるダイソーのビジネスを考えるとゼロではないはずです。
●飲食店ビジネスのダイソー。250円のコラボ給食チェーン店ビジネス
近いビジネスとして学校給食があります。提供価格は自治体によって多少違うようですが、およそ250円~300円程度です。日替わりメニューでも一定の顧客数(学校の生徒)が担保されることで、この価格が実現できています。
しかしいま大変です。物価高騰で運営が厳しい状態です。新しいビジネス機会を求めていないでしょうか。同様に外食チェーン店はいつも新しいビジネスの機会を求めています。共同(コラボレーション)ビジネスができるはずです。
給食事業者の弱みは「おいしさ」の市場競争力です。提供したものは常に食べてもらえるため「おいしさ」への関心は低くなります。一方で外食チェーン店では「おいしさ」は不可欠です。また消費者対応も得意です。共同の価値があると思います。
「250円定食」はありえないかもしれませんがダイソーの成功を考えると無茶な考え方ではないはずです。ダイソーと同じように日本での成功をもとに世界への進出も見えます。日本の食事のおいしさはすでに来日観光客に高く評価されていますから。
●店のあり方をマーケティングの4Pで考える
マーケティングの基本、4Pつまり製品(プロダクト)・場所(プレイス)・価格(プライス)・プロモーションでざっと店の構成を考えてみましょう。
(1)製品(メニュー)は日替わり定食一品
学校で提供する日替わりの給食メニューを利用します。同時に提供することになればコストの削減が見込めます。
(2)店舗の場所はダイソーの近隣
この店の利用者層はダイソーの利用者層とほぼ同じです。できればダイソーのとなりで営業したいですね。
(3)価格は250円目標
日替わりの定食メニューが250円ならば魅力です。前図にある「250円単品メニュー」も新しい市場として考えられますが毎日は食べられません。日替わり定食は毎日利用できます。大きな魅力です。給食同様に1か月定額提供のサブスクリプションもいいかもしれません。固定客を確保できます。
(4)プロモーションは自然な認知の拡大
ダイソーのとなりなら認知はすぐに拡大します。また「子ども食堂」がすぐに知られ、広まったように存在意義が理解されれば認知は自然に広がっていくと思います。
●まとめ。「コラボ給食チェーン店」の社会的な意義
気づいてみたら日本は貧困がしっかりと根づいた社会になっていました。貧困のままでいると身体や心の健康に悪い影響を与えることになります。
もし低価格の食事を毎日提供するビジネスができれば、社会にとって大切なビジネスになるかもしれません。
「子ども食堂」は2012年に東京都・大田区で「気まぐれ八百屋だんだん」を経営する近藤博子さんから始まったといわれています。わずか10年、2022年は7,000か所以上になっています(NPO法人「むすびえ」発表)。その存在価値が高く評価されています。
「コラボ給食チェーン店」もビジネスとして意義あるものになると思います。困っている人の需要(ニーズ)に応えるからです。社会的価値はビジネスとしての大きな原動力になるはずです。
参考文献
厚生労働書「国民生活基礎調査」
内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局「賃金・人的資本に関するデータ集」令和3年11月
大下英治『百円の男ダイソー矢野博丈』さくら舎 2017
湯浅誠『反貧困「すべり台社会」からの脱出』岩波新書 2008
阿部彩『弱者の居場所がない社会 貧困・格差と社会的包摂』講談社現代新書 2011
日本給食業経営総合研究所『最新給食ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本』秀和システム2022
2023年11月21日掲載 2024年6月14日改稿