The marketing for niche restaurants

愛好ニッチ飲食店の事例:祐天寺名物鉄道ムードの店。カレーステーション「ナイアガラ」

 カテゴリーの予測概論のページも参照してください。

●祐天寺の名物店。レトロな鉄道ファンのための店。

 カレーステーション「ナイアガラ」。東京・目黒区、東横線祐天寺駅から徒歩5分の住宅街にある店です。鉄道ファンの聖地ともいわれています。レトロな鉄道イメージの店です。
  
 店の前には踏み切り信号機や「愛の国から幸福へ」で有名になった「愛国駅」の駅名標などもあってあれこれにぎやかです。店内も国鉄時代の行先板やヘッドマークなどが壁にいっぱいです。

 イスは国鉄時代の客車の座席、照明は「つばめ」の食堂車のものとのこと。大きなSL機関車の模型や駅長(創業者)の内藤博敏氏の写真も飾られています。
  
 愛好ニッチ飲食店の事例はこの店「ナイアガラ」を参考にして考えてみましょう。

カレーステーションナイアガラ
「ナイアガラ」は店の外も店内もレトロな鉄道イメージがいっぱい。
●鉄ちゃんはどのくらい存在するのか。ターゲットと市場規模。

 マーケティングです。まずは市場規模を確認しましょう。「お客さまはどのくらい存在するのか?」知りたいですね。
 
 ターゲットは鉄道ファン。以前はオタクとして日陰の存在でした。いまやタレントや政治家などが「鉄ちゃんです」と広言。趣味としてしっかり認められるようになりました。
    
 ネットで調べると鉄道ファンは推定で150万人から200万人。興味のある人まで含めると1,000万人という話が出てきます。かなりのバクゼン。確かな調査データはないようです。
    
 趣味の人口や市場規模をレポートする『レジャー白書』にも鉄道趣味という項目はありません。しかたなく書店を調べてみました。いつもお世話になっている日本橋の丸善さん。趣味のコーナーの棚に何冊の本がならんでいるか拝見しました。ほかに鉄道ファンの人口を調べる方法を知っていたら「だれか教えて~!」。
   
 『レジャー白書』に趣味人口がのっている登山、サッカー、将棋、ゴルフ、釣り、トレーニングの本の冊数を比較してみました。図表です。
   
 登山は趣味人口480万人、本は547冊で最多。1冊あたり0.88万人となります。次に本の多いサッカーは1冊あたり1.59万人です。
   
 鉄道関連の本は385冊。登山の1冊あたり0.88万人で計算すると鉄道ファンは339万人。サッカーの1.59ならば612万人となります。となると300万人から400万人と見積もっても大丈夫そうですね。となれば市場規模は十分にありそうです。

鉄道趣味の趣味人口
●「ナイアガラ」のSWOT分析。強みは認知度。機会は市場の拡大。

 ありきたりですがSWOT分析で「ナイアガラ」について考えてみましょう。
   
 強み(Strengths) 
(1)高い認知度。1963年オープン。創業60年以上です。聖地としての鉄道ファンによく知られた店です。メディアの取材も多数あります。ホームページやSNSの情報も潤沢です。
   
(2)固定客。駅長の鉄道への情熱が多くのファンを獲得しました。レトロな鉄道グッズが店にぎっしり。この店を愛して通い続けるファンが存在します。
   
(3)カツカレー。シェフだった駅長がつくりあげたカレー。スパイスづくりからはじめる本格派。さらに看板メニューのカツカレーは揚げたてのカツがのってきます。東京の人気カツカレーのナンバーワンにも選ばれています。カツカレーが目的で来店するお客さまもいるはずです。
  
弱み(Weaknesses)
 顧客獲得力の減少。創業者の駅長がアンドロメダ星雲に旅立って8年。伝説の駅長の不在で新規顧客の獲得力が減少しています。
   
機会(Opportunities)
(1)市場の拡大。鉄ちゃんが認知され女子を含めた鉄道ファンが増加、市場が拡大しています。
    
(2)ニーズ。物価高騰、格差の拡大。鉄道趣味のようにあまりお金のかからない趣味のニーズが高まっています。
   
脅威(Threats)
(1)市場の細分化。市場が拡大する一方、撮り鉄、音鉄など細分化してきています。個別の市場規模には大小もあるはずです。
    
(2)競合飲食店。プラレール専門の飲食店やオリエント急行の列車を見ながら食事ができる高級フレンチの店などの競合店ができています。

鉄ちゃん分類
●「ナイアガラ」のマーケティングを4Pで考える。

 おなじみの「製品・場所・価格・プロモーション」の4つの切り口(P)で「ナイアガラ」のマーケティング施策を考えます。
  
(1)製品戦略(プロダクト)。母とカレーと鉄道と。
 「なぜカレーステーションなのか」。お店自慢のカツカレーを食べながら考えました。揚げたて。アツアツ。「おいし~い」。
   
 「ナイアガラ」のカレーは創業者の母への思いから始まっているようです。昭和10年生まれの駅長内藤氏。食料事情が厳しいなかで母がつくってくれたカレーが忘れられませんでした。大戦中は富山に疎開。淋しい思い抱きながら駅で母のいる東京へ向かう列車をながめていたとのこと。
  
 「なるほど」。カレーが好き、鉄道が好き。この店のすべてがわかるエピソードですね。カレーなら日本の国民食。みんなが好きなメニューです。カレーは外食市場でも長期に安定した市場です。

外食カレー市場の推移

(2)場所(プレイス)と価格(プライス)。無理せず適正な利益を。
 「ニッチな飲食店」にはお客さまがわざわざ店を探してやってきてくれます。都内であれば目立つ場所の必要はありません。立地に大きな費用をかけないことが大切です。
  
 「ナイアガラ」のある祐天寺駅は東横線渋谷駅から6分。店は駅から5分の住宅地。目立たない場所ですが「ニッチな飲食店」としては良い場所です。
   
 価格は(プライス)は看板メニューのカツカレーが税込み1200円。無理して低価格をねらう必要はありません。適正であれば多少高くとも問題ありません。店が維持できる利益は大切です。
   
 鉄道ファンの聖地のような店。入口まで来て引き返すお客さまはいません。事前にホームページやSNSで場所も価格も確認済みのはずです。

(3)プロモーション。鉄道愛のサービス。
 鉄道愛にあふれる駅長の思いがこもるお客さまへのサービスが提供されています。
   
 お客さまが注文したカレーやドリンクは汽笛を鳴らして走る機関車が運んでくれます。小さな子どもは大喜びです。来店のお客さまには昔ながらの厚みのある入場券(硬券)のプレゼントがあります。またお子さまなど希望のお客さまには駅員の帽子をかぶっての記念撮影もできます。
  
 なによりのサービスは店内の鉄道グッズでしょう。半世紀以上前から収集した鉄道グッズはもはや手に入らないものばかりです。レトロ鉄道のファンならなめるように眺めていたいものだと思います。

カレーステーションナイアガラのプロモーション
駅長の鉄道愛があふれるサービス。
●「ナイアガラ」の売上アップ作戦を考える。

 「ニッチな飲食店のマーケティング企画室」として、これから先、お客さまにきてもらうための戦略を考えてみます
   
(1)ストーリー・マーケティング。名誉駅長を指名する。
 駅長がアンドロメダ星雲に旅立って8年。内藤駅長の物語はこの店の伝説として残されています。典型的な、そして成功したストーリー・マーケティングといえます。しかし新しいお客さまを獲得するためには、やはり新しい駅長が必要ではないでしょうか。
   
 二代目の駅長を任命する。あるいは鉄道好きの人を毎年名誉駅長に指名するなどプロモーションとして活用する手もあると思います。
  
 新しいストーリー・マーケティングのはじまりです。新しい駅長が自身で鉄道愛の情報を出していく必要もあります。
    
(2)コンテンツ・マーケティング。レトロ鉄道グッズの紹介。
 駅長が収集した鉄道グッズは数千点におよぶとのこと。博物館に置くべき物も多いようです。路線図、ナンバープレート、ヘッドマークなど貴重なレトロ鉄道製品をひとつひとつ写真や動画で説明してホームページなどに掲載するのはどうでしょうか。お客さまにとって価値ある情報です。
  
 お客さまが必要とする情報を提供して信頼関係を結ぶことをコンテンツ・マーケティングといいます。手間と時間がかかります。
   
 即効性のあるプロモーションではありません。しかしほかのどこにもない情報によってお客さまを呼び寄せることができます。
   
(3)ブランド強化。レトロ鉄道のイメージを進化させる。
 神田神保町には昭和レトロの純喫茶がたくさんあります。聞いたところ「古く改装している」とのこと。お店の改装といえば新しくすると考えるのが普通ですが、古く改装するというのも「あり」ですね。レトロな鉄道イメージがさらにアップするはずです。
  
 ニッチは構築するものです。生態学の用語にもニッチ構築という言葉があります。たとえばビーバーが木で川をせき止めて、できた湖の真ん中に自分の巣をつくることです。
   
 ニッチは「すき間」ではありません。独自の地位を確保することです。そのためには現在のニッチをさらに強くするために「ニッチを築く」必要があります。

神田神保町のレトロ喫茶
神田神保町のレトロな純喫茶。レトロを高めてレトロらしくしている。
●まとめ。将来性あり。コミュニティで社会貢献する飲食店ビジネス。

 趣味をテーマにした飲食店ビジネス、ここでは愛好ニッチ飲食店としています。個人的な観測ですが、このカテゴリーがこれからの社会で有望な分野だと考えています。
  
 趣味によってコミュニティが形成できるからです。孤独は社会問題です。趣味で結ばれたコミュニティは孤独を防ぐことに役立ちます。愛好ニッチの飲食店ビジネスは将来性があります。

<参考文献>
『レジャー白書2024余暇の現状と産業・市場の動向』日本生産性本部 2024
久野知美、南田裕介監『鉄道とファン大研究読本 ~私たち車両限界、超えました』カンゼン 2018
『外食産業マーケティング便覧2024』富士経済 2024
<Webサイト>
ホームページ『祐天寺 カレーステーション ナイアガラ』
東急縁線図鑑『鉄道好きの聖地「ナイアガラ」が60年以上、愛される理由。名物は一子相伝のカツカレー』2025.02.13
YouTube 水野高太郎『さよなら駅長(スライド)』

2025年10月22日

健康ニッチ飲食店の事例:できはじめたニッチな健康飲食店

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