The marketing for niche restaurants

ニッチ・マーケティングの戦略。ターゲッティング。ニッチのお客さまはどこに

 マーケティングでもっとも重要なことは「お客さまはだれか」です。「いやいや、べらぼうめ。調査と分析が最重要」「ちがうでしょ。4P。マーケティング・ミックスがマーケティングの醍醐味」と諸先輩や専門家の方がおっしゃるかもしれません。
   
 しかし経営学の神さまドラッカーは『マネジメント‐基本と原則』のなかで「企業の目的はひとつしかない。それは顧客の創造である」と断言しています。
    
 これをもってしてお客さまが最重要と「ご聖断くだる」。…ここで使う言葉ではないですか。しかしお客さまを考えることが大切なのは間違いないと思います。

 なお、ここではお客さまについて一般的な消費者を考えます。B2Cですね。B2Bでビジネスのお客さまの場合は別と考えてください。

1.マーケティングの「STP」とは「す」ぐに「と」りかかるのが「ポ」イント?

 神さまドラッカーに劣らぬマーケティングの神さまP・コトラーはマーケティングの理論や手法について多くのテキストを書いています。強力な催眠効果があるとも言われていますが。
   
 コトラーによれば、マーケティングで重要な活動である「調査と分析」の次にすべきことは「STP」としています。
   
 Sとはセグメンテーション。市場細分化です。クルマ市場でわかりやすく言うならセダン、ミニバン、SUV、軽自動車、EV車…などのような細分化です。
   
 Pはポジショニング。競合との競争上の位置づけです。これについては別ページでニッチは「競争しない」からポジショニングもなしとお話ししました。
   
 Tはターゲティング。今回のテーマです。ねらうべき市場を絞り込みます。市場を絞り込むことになると必然的に顧客つまりお客さまがポイントになります。高級セダンなら高所得者層、ミニバンなら家族層、SUVなら活動的な人…などですね。
   
 お客さまは、いったいだれなのか。どんな人で、どんな行動をするのか。お客さまについて詳しく知っておく必要があります。
   
 狭い市場であるニッチ・ビジネスならなおさらです。「お客さまはだれか」を考えましょう。それは、すぐにとりかかるのがポイントですね。

2.ニッチ・ビジネスのお客さまは「そのニッチが好きな人」

 お客さまは特定のニッチが好きな人。当然、限られた人たちです。お客さまが近くにいません、つかまりません。これが大問題です。
   
 日本列島の東西南北、または洋の東西、世界の広いエリアからニッチ好きのお客さまを集めることになります。かなり大変です。友だちに「商圏が広いんだね」とやさしく慰めてもらいましょう。
   
 お客さま(ターゲット)を選定する主な方法が4つあります。関東・関西などの地理的基準、男性・女性などの人口統計的基準、スポーツ好きなどの心理的基準、使用率などの行動変数基準です。
   
 ニッチ・ビジネスのお客さまは心理的基準が近そうです。たとえば「地下アイドル好き」のようなオタク層です。しかしニッチである以上、予想を超えた世界にお客さまがいる可能性もあります。
   
 ニッチのお客さまを探すためにはニッチに関する情報を提供することです。情報感度がくニッチに関する情報を求めています。また、だれかにそれを伝えたい人たちでもあります。「あ~、だれかにコレ言いたい」といつも思っているはずです。

セグメンテーション

3.もうひとつの顧客層。2.5%のイノベーター 

 ニッチが好きな人以外にも、お客さまになりそうな人がいます。イノベーターです。新しい製品が発表されると真っ先にお店に駆けつける人。その人がイノベーターです。革新者とも言います。新しいドーナツショップの開店にあわせて夜中から店の前に並んだ人です。
    
 イノベーターは社会学者のエベレット・ロジャーズが著書『イノベーションの普及』で説明しています。エベレット・ロジャーズはアメリカ、アイオワ州の農民が1920年代から1940年代に雑種のトウモロコシをどう採用したのかを研究しました。そこから、イノベーションの普及について理論化しました。下図のとおりです。
   
 ロジャーズは全体の2.5%の人をイノベーターだとしています。この人たちは冒険好きであり、危険や失敗にも覚悟があります。「新しいものはまず試してみる」が心情の人たちです。ひとりぐらい友だちにいるのではないでしょうか。え、あなたですか。
   
 このイノベーターの様子を冷静に観察しながら、どうするかを決めるのが初期採用者。13.5%の人たちです。この人たちはオピニオン・リーダーでもあります。
   
 そして初期採用者から、34%の初期多数派へと広がります。ここまでで、世の中の約半分です。そのあとに34%の後期多数派まで広がり、社会にほぼ普及することになります。
   
 しかし、どうしても受け入れない人もでてきます。ラガード(遅滞採用者)などと言います。「なんとかペイとか嫌いだ。現金でいい」という人もいますね。
   
 ニッチ・ビジネスのお客さまには、そのニッチを愛する人たち以外に、この2.5%のイノベーターも多いのではないかと思います。
   
 SNSで承認欲求が満たされる時代です。イノベーターならば新しいことや珍しいことの写真や動画をSNSにアップすることで満足が得られるものと思います。
   
 わずか2.5%ですが日本の人口は約1億2,500万人。2.5%は約310万人です。310万人すべてとではないでしょうが一部の人には興味をもってもらえそうです。ターゲットとして十分に期待できます。

イノベーション

4.うまくいけばニッチ・ビジネスもビッグビジネスに

 「ニッチ・ビジネスとはいえ、せっかくビジネスをはじめたなら世界的な企業にまで成長したい」と考える方もいると思います。安心してください。ハンバーガー・ショップも牛丼もスタートはニッチ・ビジネスでした。
   
 ニッチ・ビジネスからビッグビジネスに成長する方法論があります。ジェフェリー・ムーアの「キャズム」理論です。別ページに詳しい話もあります。
   
 キャズムの理論は2002年に発表されました。1990年代後半、ハイテク企業が生まれて大きく成長する場合もある一方、そのまま消えてしまうものも多数あることについて研究したものです。
   
 かんたんに説明すると以下のようです。ムーアは前述のロジャーズの『イノベーションの普及』に示されている初期採用者と前期追随者のあいだにキャズム、大きな溝があると唱えました。そして、ここを超えることで大きく成長できるとしています。
   
 たとえば熱狂したのに、もう忘れてしまったものがあります。「セカンドライフ」を覚えていますか。リンデンラボ社がつくった仮想空間でした。日本の大手企業も一斉に参加しました。でも、もうすっかり忘れてしまいました。キャズムという溝を越えられずに消えてしまったのです。そのほかたくさんの事例があります。
   
 一方、YouTubeやInstagramなどは小さくスタートしましたが現在はビッグビジネスになりました。ニッチであってもキャズムを越えられれば大きなビジネスになるということです。
   
 となると、どうしたらそのキャズムを越えられるのかです。ムーアはキャズムを越えるためのさまざまな方法論を示しています。3つほどピックアップしてみます。
   
 ひとつは「顧客の絞り込み」です。キャズムを越えた先にある前期追随者は全体の34%という大きな顧客層です。「足掛かり」となるお客さまを決めることが大切としています。大きな顧客層のなかからさらに絞った層を標的にするということです。
   
 ふたつめは「実用的にする」ことです。ムーアはキャズムを越えた先にいる人たちは「実利主義者」だと言っています。無理してまで利用したくない人たちです。そのために実際に使いやすいものにすることが重要としています。
   
 最後、3つめは「だれと競争するか」です。広くお客さまを獲得したいと思うなら、競争相手(競合)が必ず出てきます。競合先を見極め、作戦を立てる必要があります。
   
 ムーアのキャズム理論はハイテク産業の成長について研究されたものです。したがって一般的なニッチ・ビジネスでうまくいくのかはわかりません。
   
 またニッチ・ビジネスであるならビッグビジネスを目指すのか、ニッチ・ビジネスとしてそのままの地位で成長するのか考える必要もあります。意思決定の問題ですね。

キャズム

6.まとめ:ターゲティングは「お客さま」をいつも問う

 経営学の神さまドラッカーは『経営者に贈る5つの質問』で「われわれのミッションは何か?」と最初に質問しています。
   
 そして2番目に「われわれの顧客は誰か?」と問いかけています。さらに3番目に「顧客にとっての価値は何か?」とたて続けにお客さまについて質問しています。
  
 「お客さまについていつも考える」が大切です。お客さまのことがわかれば、するべきことがわかってくるからです。

<参考文献>
P.F.ドラッカー/上田惇生訳『マネジメント‐基本と原則』ダイヤモンド社 2001
P.F.ドラッカー/上田惇生訳『経営者に贈る5つの質問』ダイヤモンド社 2017
フィリップ・コトラー、ケビン・L・ケラー/恩藏直人監『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版』‎ 丸善出版 2014
沼上 幹『わかりやすいマーケティング戦略〔第3版〕』有斐閣アルマ 2023
エベレット・ロジャーズ/三藤利雄訳『イノベーションの普及』翔泳社 2007
ジェフリー・ムーア/川又政治訳『キャズム Ver.2: 新商品をブレイクさせる「超」マーケティング理論』 翔泳社 2014

2025年3月3日掲載 

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