The marketing for niche restaurants

ニッチ・マーケティングの戦略。ポジショニング。「競争しない」

 ニッチ・マーケティングで大切なことのひとつは「競争しない」ことです。
    
 ニッチは生態学では「生態的地位」です。ビジネスでは「すき間」とされることもありますが、私の意見では、それは正しくありません。「独自地位」と考えます。独自なので競合する企業との競争はありません。
  
 つまり競合がないならマーケティングの教科書に書かれているポジショニング戦略も必要がありません。ポジショニングはクルマなら、ベンツ、ポルシェ、レクサス、スズキなどを品質や機能などで分析し製品の位置関係を示すものです。

ポジショニングマップの例

 競争することは、そもそもニッチだけでなく社会にとって良くないと思っています。理由を以下のように考えています。

競争がよくない理由(1):生き物は競争しない。38億年の法則

 生き物は「棲み分け」として生きる場所を別にして暮しています。サルは山に、ヒトは町で暮らしています。また「食べ分け」として同じ場所にいても違うものを食べて暮らしています。スズメは草花の種子を、ヒトはラーメンを食べます。カレーでもいいですが。
   
 生き物が競争すると、どちらかが消えることになります。同じ水槽のなかで同じエサを食べる2種のゾウリムシを観察した「ガウゼの実験」が古くから知られています。
   
 生き物は38億年の歴史があります。ここまで生き残るための法則が「競争しない」ことだったのです。

ガウゼの実験

競争がよくない理由(2):戦わないことで勝つ

 中国の春秋時代の兵法書『孫氏の兵法』は「戦わずして勝つ」を最上の策としています。
   
 ロシア‐ウクライナ戦争でもわかるとおり、実際に戦えば多くの人命が失われ莫大な戦費を消耗します。相手と直接戦わないほうがいいのはニッチ・マーケティングだけではありません。

競争がよくない理由(3):競争する飲食店は儲からない

 日本の飲食サービス業は日本の18の産業のなかでもっとも利益の少ない業種です(2016年中小企業白書)。
   
 規模の小さな飲食店の競争は不幸です。「あの店が1,000円ならうちは980円」「ランチのコーヒーはサービスで100円」。価格競争、サービス競争で店の利益を削ると経営はどんどん苦しくなります。
 
 街なかにある多くの競争する飲食店は利益がでません。

労働生産性の分布状況(2016年中小企業白書)

競争がよくない理由(4):スポーツ選手の涙の引退会見

 マラソンで勝つのは一人だけです。あとは全員が敗者です。夏の甲子園野球もサッカーのワールドカップも勝者は1チームだけです。
   
 負けをバネにして練習を重ねることでスポーツ技術が発展することもあります。スポーツの広がりで人びとが健康になることもあります。
   
 しかし甲子園球児が破れて球場を去るときに涙を流すのはなぜでしょうか。現役を引退する選手が涙で会見するのはなぜでしょうか。敗退の涙です。喜びの涙ではないはずです。

競争がよくない理由(5):競争は不幸の原因

 競争で成長することができます。しかし問題は競争で幸せになれるのかです。
    
 数学者、哲学者のバートランド・ラッセル(1872年 – 1970年)は著書『幸福論』で、不幸の原因の理由として「競争」を挙げています。
   
 たとえばスポーツや仕事の競争で勝ったとしても、すぐに次の競争が待っています。競争に終わりはありません。永久に続きます。心も身体も休む間がありません。幸福なのでしょうか。

 経営学では競争が成長の原動力です。「競争がなかったら世界も日本も発展しなかった」と言うはずです。経営学者のポーターは「競争の3つの基本戦略」で差別化、低コスト、集中の3つの戦略で競争するとしています。競争がビジネスの原理です。
   
    
 しかし経済も戦争もスポーツもヒトがつくりだした仕組みです。ヒトは自然がつくり出した生き物。生き物が38億年かけてつくった生き残りの法則「競争しない」ことを真剣に考えるべきです。自然にはかなわないはずです。

 「え~、競争しない?アホくさくて青くさい。生ぬるいこと言っていると会社がつぶれる」。
 
 ご指摘のとおりです。ニッチでも市場として「おいしい」となると、ほかの事業者が競合として参入してきます。「独自地位だ」と叫んでばかりはいられません。
    
 「競争しない」という立ち位置(ポジショニング)を維持する努力が必要です。「自分と厳しく競争する」ということでどうでしょうか。

<参考文献>
山田英夫『競争しない競争戦略 環境激変下で生き残る3つの選択 』ダイヤモンド社 2015
稲垣栄洋『敗者の生命史38億年』PHP研究所 2019
『中小企業白書2016』中小企業庁 2016
B・ラッセル/堀 秀彦訳『幸福論』KADOKAWA 2017

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